第73話 帝国会議
帝国と言う国は天帝が頂点に君臨している。
天帝の言葉は絶対であり、天帝の考えを手足となって実行する者たちが八魔将と呼ばれる将軍たちである。
「王国を我が手に……」
天帝が言葉を発したならば、八魔将はそれを実行に移すだけだ。
実行に移すために天帝にお伺いを立てるほど、彼らは何もできない子供ではない。
八魔将の長である竜騎士の号令の下、八魔将達は顔を合わせた。
「それでは会議を始める。今回はいよいよと言ったことだが、王国への進軍を開始する」
この国の宰相であり、魔法師団団長を務める。
死霊王ことデッドラー・ウルボロスが会議の開始と進軍を口にする。
天帝の言葉を確認する行為であり、今回の議題を明確にするための発言である。
「ウルボロス殿、先人はもちろんワシに仰せ下さるのでしょうな?」
ウルボロスの言葉に早速反応したのは、巨人族の王ネフェリト・ジャイガントである。
これまでも帝国の先陣を務めてきたのはジャイガントであり、古参の彼は戦いに飢えていた。
「ジャイガント、天帝様は今回新たな者達の力を見たいと仰せだ」
「天帝様は何を考えておられるのか、新人共などに戦場はもったいない」
「そんな言い方をするのはお前ぐらいだよ」
ジャイガントの物言いにウルボロスは呆れたような声を出す。
「まぁ今回は大人しくしていろ。もし新人がヘマでもすればお前の出番も回ってくる」
「ふん。帝国の将を名乗るのだ。ヘマなど許せんがな」
ジャイガントは新人を睨み付けるように「ふん」と鼻息を吐く。
「ジャイガントのことは置いておいて、新人諸君には頑張ってきて貰いたい」
ウルボロスの言葉に新人たちに応える者はいない。
黒騎士は鎧を脱がず、フルアーアマーの兜を取ろうともしない。
ダークエルフの美しい女性は、つまらなさそうに髪を弄り。
闇商人は訝し気に腕を組んでいる。
「はぁ~変わり者集団なのはいつものことだが。今回は一段と変わり者ばかりだな」
世間では死霊王と恐れられるウルボロスだが、見た目はちょび髭の生えた中年男である。変わり者集団のなかでは、普通のオッサンに見える。
しかし、彼もまた五魔将と呼ばれるだけの実力を持っている。
「いいかい、舐めてもらったら困るよ」
ウルボロスの雰囲気が変わる。圧倒的な威圧が新参者の将軍たちに降りかかる。
しかし、威圧を受けても三人の表情に変化はない。
ウルボロスの話を聴こうとしない。
八魔将としてウルボロスと肩を並べるだけの実力は兼ね備えているのだ。
「調子に!!!」
ウルボロスが威圧では効かないと思ったので、魔力を纏い始める。
「カッ!」
ウルボロスではなく。
ずっと黙って話を聞いていた竜騎士アラン・ディアスから発せられた覇気によってウロボロスの魔力が霧散する。
アラン・ディアスの言葉には圧倒的な存在感を表す力強さが込められていた。
その存在感は新鋭の将軍たちの身を震わせる。
「栄えある帝国の将軍になったのだ。その力を見せてみよ」
「将軍、俺のセリフだよ。それ」
ウルボロスは苦笑いを浮かべて髭を撫でた。新鋭将軍達に向き直る。
先程までの怒りを込めたウルボロスではなく不敵に笑うちょい悪親父がいた。
「まぁ新人共がシャキッとしてくれたのならいいかな。
じゃあ黒騎士君、君は傭兵たちを使って王国中央から攻めてくれるかな?」
「ああ」
「ダークエルフの御嬢さんにはガルガンディア方面の森から回り込んでくれるかい。山脈にはディラン殿も操れない巨大なドラゴンがいるらしいから手を出さないように無駄な被害は避けたいからね」
「ええ」
「闇商人には西から迂回して王国に入ってくれ。獣人への警戒を忘れずに……」
「ああ。捕虜とした者を奴隷にしても?」
「構わないよ。ああ、そうだ。闇法師君には全体の補佐を頼むよ。君の魔物たちは便利だからね」
「お安いご用です」
新鋭将軍たちから真面な答えが返ってきたので、ウロボロスは満足そうな顔をする。
「よい返事だ。では、今日はここで解散する。皆の武運を祈るよ」
ウルボロスが締めくくり会議は解散となった。
天帝がいなければ、纏まりなど全くない八魔将だが、強者に対しては一目置くところがある。
竜騎士ディランは帝国最強の存在である。新鋭将軍たちは天帝が纏う覇気とは違う。強者同士だからこそ分かる力量の差を感じていた。
八魔将の内、半分の四人が進軍を開始するのに対して時間はかからなかった。
平定された共和国内を我が物顔で歩く彼らを、見送る共和国の民はほとんどいない。すでに奴隷として帝国内へと搬送されているのだ。
進軍の妨げとなる者は共和国の領土に存在しない。
そのまま残っている家屋は軍のモノとして使われることで、帝国兵は疲労も少なく進軍をすることができた。
王国と帝国の戦いは元共和国だった地で行われようとしている。
そして、その戦いに獣人王国を巻き込む強大なモノへと発展していく。
数年に及ぶ、長い長い二つの国の戦いが始まろうとしている。
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