第72話 帝国軍八魔将

帝国からの宣戦布告が行われたことにより、王国は慌ただしく軍の配置におわれていた。

戦場となるであろう共和国方面に兵の配置が集中的に行われ、三つの砦にはそれぞれの王国側から作戦が伝えられた。

すでに第一の砦には第二軍将軍率いる第二軍が集結して防備に当たっている。

第二砦には第三軍率いるセリーヌとマルゲリータの姉妹が滞在して、一万の兵を引き連れていると情報が来ている。


「現状の確認からしていきましょうか?」


ジェルミーが取り仕切る会議場には、王国から派遣されてきた第一軍の騎士と第三軍の魔法師がヨハンに対面するように座っている。


王国からガルガンディア方面に派遣されたのは、たった二千の増援だけだった。

二千の内訳としては、第一軍より一千五百、第三軍より五百ということだった。

第一軍の本体は王都護衛と言う名目の元、出兵を控えていた。

これは共和国との戦いで得た教訓であり、


第一軍を指揮する騎士は、名誉騎士のガンツであった。

ヨハンとは志願兵応募の時にあった時以来であり、相手は覚えていないだろうとヨハンは判断した。


第三軍から派遣されてきたのは見慣れた顔ぶれだった。

共和国との戦いで共に戦ったミリー、ガーナ、マリルの三人だった。

王国からはまだ、増援を送ると連絡を受けてはいるが、いつ到着するのは不明である。


作戦会議室となった会議室には、ガルガンディア側に座っているのは、亜人たちばかりである。

元々共和国が亜人を中心とした国であったこともあり、ゴブリンやオーク、ヨルダン率いる鳥人族、エルフの長が並んでいた。


「サク、頼む」

「はっ!」


帝国との戦争が始まれば、サクはセリーヌの下に帰ると思っていた。

何故開戦直後までの残っているのかはわからないが、今もガルガンディアに滞在している。

セリーヌから、まだ何か仕掛けてくるのではないだろうかと警戒を緩めることもできない。サク自身も何を考えているのか未だにわからない。


「まず敵の戦力について説明させていただきます。

帝国が兵を割ける人口は約百万。それに対して王国は10万ほどの兵力しかありません。

実際の数だけで十倍はいます。また、帝国には百万の帝国兵を指揮する優秀な将軍が揃っています。将軍たちのことを総称して八魔将と呼ばれています。

彼等には特に警戒が必要だと考えられます」

「八魔将?」


ゲームにも出てくるのは五魔将だったはずなのにいつの間にか増えている。


「はい。八魔将です。本来は五魔将と呼ばれる五人の将軍達だったのですが。

共和国を滅ぼした際に三人追加され、八魔将となりました。

すでに新鋭将軍達の情報も耳にしています」

「できる限りの情報を頼む」

「はい」



元々帝国を支えてきた五魔将


・帝国の守護を任され八魔将筆頭を務める帝国の盾、龍に跨り千里をかける竜騎士

・魔導師団の団長を務め、帝国の知恵と呼ばれる宰相と軍師を兼任する死霊王

・帝国の矛であり、巨人族の精鋭を従える怪力無双の巨人族の王。

・魔導研究に明け暮れ、自身の作り出したキメラに囲まれている狂人

・魔族や魔物を信者して操る闇法師


新鋭八魔将


・共和国を裏切り、種族を売り渡したことで将軍となった裏切りのダークエルフ

・傭兵王を討ち果たし帝国で騎士となった、傭兵を従えた黒鎧に身を包んだ黒騎士

・共和国を牛耳っていた武器や人、なんでも扱う闇商人


八魔将の説明を終えたサクは集まったメンバーを見る。


「それで?王国からはどんな命令がきているんだ?」


圧倒的なまでの帝国の戦力に対して、援軍の中で一番位の高いガンツに質問を投げかけた。


「王国からは死守せよとだけ聞いている」


ガンツは王国からの言葉を伝えた。

自身もそれがどういう意味を成しているのかわかっている。

それは時間を稼いで死ねと言っているのだ。何の策もない。丸投げ状態だ。


「そうか……」


目を閉じ沈黙を守るガンツからは、それ以上言葉が続くことはなかった。


「まずはここまで来て頂けたこと感謝する。兵の疲労もあることだろう。

ガルガンディアは皆さんを受け入れるのには十分な広さがある。

ガンツ殿は西へ、ミリー殿達は東の部屋を使ってください」


建物の案内をゴブリンに任せ、ヨハンは会議の解散を告げた。

兵達を労うように部屋を貸し与え、リンの家族とウィッチ達には食事の用意を頼んでいる。

彼等だけでは人でが足りないので、孤児から手伝いが出来そうな器用な物を派遣している。


「サク、ガルガンディアが防衛できる期間はどれくらいだ?」

「敵の規模にもよりますが、一か月が良いところだと思います。

全ゴブリンにはすでにガルガンディアに入るように告げてあります。

オークたちも一年で三人から百人まで増えましたから防衛には役立ちます」

「そうか……一か月か」


サクの言葉では敵の影を見つめるように外を見る。

外は日が落ちて、暗雲が立ちこめているように闇が広がっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る