第69話 閑話 エルフの王女とランス

第一騎士団第二十四中隊は部隊を二つにわけて訓練をしていた。

森の中に作られた辺鄙なこの場所は、新鋭の二人に与えられた訓練所であった。

共和国との戦争で活躍を認められた二人の名誉騎士が指揮する部隊であり、二人の部下になった仲間と共に訓練を重ねている。


「なぁ、ランス。共和国との戦争も一年が経つけど、なんにも起きないな」

「それが一番じゃないか、ルッツだって戦いたいわけじゃないだろ?」

「そりゃ~戦争なんて無い方がいいけどさ。それでも俺達は騎士だぜ。騎士の務めっていたったら戦いだろ?」


二人は共和国との戦争で多くの村を救い。多くの人を救った。

それは王国の勝利をもたらした第二軍の働きを支え、王国の威信を守り抜いた。


「なら、俺が相手してやるからかかってこいよ」

「はぁ~お前も訓練バカだね」


そう言いながらも両手に剣を持ち、ランスに相対する姿を見れば、どっちも同じだろうと部下たちは笑ってしまう。

彼らも名誉騎士となり、平民の部下を持つようになった。

二部隊合わせることで中隊と言えるが、まだまだこれからの成長が期待されている。隊長たちが剣を交えていると、演習場に闖入者が現れた。

金髪に白肌をした美しき闖入者はエルフの女性だった.


「た、す、けて」


ボロボロな身体を引きずって現れた女性は、森から演習場に現れると倒れてしまった。女性の近くで戦闘をしていた二人は緊急停止して、女性へと駆けよっていく。


「大丈夫ですか?」


ランスは腰にぶら下げていた水袋を女性の口に当てる。

水を含んだからか、女性は起き上がり、ランスの胸に飛び込む勢いで叫んだ。


「助けてください」

「助けてって何から?」


ランスが応えるよりも前に、ルッツが周囲を見ながら質問する。


「誰かに追われているわけではありません。

エルフ族をエルフ族を助けてほしいのです。帝国から!」


沈痛な顔で、女性はランスの胸の中へ抱き着いた。

抱き着き何度も願うように助けを求めた。


「助けて……」


喉が枯れ、泣き腫らした瞳は、彼女の必死さが伝わってくる。

ランスは助けを求める彼女の手を手放すことができなかった。


「何から君を救えばいいんだ?」


ランスの問いかけに女性は顔を上げる。

女性の態度に呆然としていた部下や、周囲を見ていたルッツが、ランスの発言に驚いた顔をする。


「助けて……くれるのですか……?」

「何から救えばいいか教えてくれないか?」


ランスは女性の助けを求める手を掴んだ。


「ありがとう」


女性は帝国との戦いを語った。

ここにヨハンがいたなら彼女を見捨てるようにランスに言ったかもしれない。

しかし、ランスの答えは一つしかなかった。

女性を連れて城へとて登城する。

城には第一軍の司令室があり、王国軍最高司令長官でもある元帥がいる。

ランスは直々に元帥の下を訪れ、エルフ族の話をした。


時を同じくして王国に帝国からの宣戦布告が成されていた。

それはエルフの一族が絶体絶命であり、ドワーフ一族が敗北したことを王国に知らせるには十分だった。


「極秘任務を与える」


王様から話を聞いていた元帥は、ランスがエルフの女性を連れて来たのは、導かれた流れによるものであると判断した。

元帥からの命として、ランスは第二十四中隊を率いて、エルフの一族を救出する任務が与えられた。

エルフの今後が決まる重大な任務であった。また、王国から出せるエルフへの手立てはそれだけだった。

王国も帝国が攻めて来るとわかっている状況で、態々滅びを迎えそうなエルフを救えるほどの兵をそれ以上出せないのだ。


「謹んでお受けします」


ランスは元帥の命令を嬉々として受けた。

それは、身近らが危険にされされることもいとわない勇者の心構えであった。

ランスの勇気にルッツは仕方ないなと付き合ってくれる。


「ランス、本当によかったのですか?」


エルフ族の里までの案内のため、共に歩く女性は申し訳なさそうな顔をしている。だが、その表情は心許ない兵力に不安を抱えていた。

すでに名乗りあったことで、彼女の名前がシェリルだと聞いていた。


「必ずあなたの一族を救って見せます」


数々の苦難を乗り越えたランスは、美人と話すことも克服しつつあった。


「あなたを信じます」


シェリルは潤んだ瞳でランスを見つめ、それに耐えらないないランスは顔を反らし天を仰ぐ。


「シェリルのために……」


ランスの言葉にシェリルはランスの胸に飛び込んだ。


「ありがとう」


名誉騎士ランスは任務を成功させてシェリル王女と、彼女の一族を救った。

救われたエルフたちは元の森を捨て、新たな住処としてガルガンディアの森に住むことになった。


ヨハンが築いたガルガンディアに新たな市民が増えたのだった。

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