第68話 第三章 エピローグ

鳥人族に早朝という意識はなかった。

奴隷という身分から必死で逃げてきたのだ。

夜通し歩き続けてガルガンディアまでやってきときには夜が明けていた。

大部屋を貸し与え、休みように言うとほとんどの者が眠りに就いた。

数人の見張りと、タカの顔をした鳥人だけは寝ることができずに大部屋の前で座っていた。


リンの家族に手伝ってもらって500人の分の料理を用意する。

久しぶりに作る料理に気合も入って、暖かい野菜スープと大量の白パンをこねて作った。


「人数が増えると活気がいいな」

「どうして、素直に受け入れたのですか?」


料理作りに一段落着くと、見守っていたサクが質問してきた。


「故郷に帰ってきたのに、戦わなければならないほど辛いことはないだろ?」

「……ここはすでに王国領です」

「そうだな。でも、彼らの故郷でもある」

「あなたは本当に15歳とは思えない人ですね」


今更年齢のことを言われてキョトンとしてしまう。

精神年齢は元々15歳ではないのだ。今更15歳と言われても困ってしまう。


「そうかな。まぁたくさん本を読んでいるからな」

「本を読んでいるだけで、そこまでの気遣いが身に付くとは思えません」


サクが何を言いたいのか何となく分かる。態々自分から墓穴を掘ることはない。


「そんなことよりも彼らとの交渉をどうするか考えてくれたか?」

「相手の出方次第ですが、いくつか考えました」

「そうか。サクも朝から起きているんだ。彼らが起きてから話し合いをするからそれまではゆっくり休め」

「はっ」


サクはヨハンから離れると厨房を出ていった。

料理が完成すると起きている鳥人達から食べてもらうために、リンやウィッチ達が運んでいく。昼が過ぎるぐらいには全員に食事がいきわたったようだ。

腹が減ってイライラした状態で話をしても良い答えなど出るはずがないので十分な休憩を取ったことは彼らにも余裕をもたらせることができる。


シェーラは他に侵入者がいないのか森の警戒のために、ガルガンディア要塞から出て行った。

チンにも警戒を解くように言っているので、カンはセリーヌ領地の監視に着いたままだ。

逆にトンの領地には共和国から鳥人族への追っ手がかかっていないか警戒を強めるように言ってある。


「少しいいだろうか?」


俺が執務室に戻ると、タカの顔をした鳥人が入ってきた。


「ああ、あんたは客人だ。遠慮することはない」

「すまない」


先程までのギスギスした雰囲気ではなく。礼儀正しい青年と言ったこところだ。


「いや。それでどうしたんだ?」

「まずは、礼を言わせてくれ。我が一族の者を受け入れてくれたこと感謝する。女、子供には随分とキツイ強行軍だった。

ガルガンディアを見た瞬間、安堵したものの、敵対行動をとられていたら正直きつかった」

「それについても同じだな。傷付く者が少ないと考えての行動だ。気にすることはない」


死に物狂いで攻め立てられれば被害が出ないとは言えない。


「うむ。それと名乗っていなかった非礼を詫びたい。私はガルーダ族が戦士ヨルダンだ」

「俺は名乗ったからいいか?」

「ああ、相手の名乗りを聞いたのに名乗っていなかったこちらが無礼であった」


軍人の礼儀正しさと戦士の誇りがヨルダンという男を作っているように思えた。


「いや。ちゃんと名乗ってもらったからいいさ。

それにこのガルガンディアに余裕があったから受け入れることができた。

もし、余裕が無ければ俺達も死に物狂いで戦っていただろうしな」


ヨルダンが胸の前に片手を上げる。握手を求められ、ヨハンもそれに応じる。


「話し合いがどのような者になるかわからないが、有意義であることを私は望む」

「そうだな。それが互いのために成ればいいな」


話し合いをする前に感謝を述べに来た律義さにヨハンは苦笑いしてヨルダンを見送った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


会議場に対面するように座った面々で話し合いが行われる。

ヨハンとヨルダンが対面に座り、サクやリンなどが脇を固める。

護衛として、チンとオーク族が後ろに控えた。


鳥人族は、ヨルダンの他に年老いたフクロウの鳥人と、白い羽を生やした美しい鳥人の女性。最後に黒い羽を持った鳥人の青年の四人でやってきた。


「それではガルガンディア要塞の権利について、王国代表ヨハン・ガルガンディア様と、ガルーダ代表ヨルダン殿の会談を始めたいと思います」


サクの号令と共に互いに頷き合う。


「まず、ガルーダ側から要求をお願いします」


サクの言葉にヨルダンが立ち上がる。


「このような場を頂いたこと、まず礼を言いたい。

本来で有れば戦闘になっていたはずだった」


ヨルダンに続き、残りの三人も頭をさげる。


「改めて我々の要求を伝える。本来、このガルガンディアは我らがガルーダ族の土地であった。お返し頂ければありがたい」


ヨルダンの言葉にヨハンは黙って何も答えない。代わりにサクが立ち上がる。


「王国側からの要求としては、すでにこの土地は我々王国のモノであり、ガルーダ族の方には申し訳ないが、お返しすることはできません。

また、ガルーダ族は共和国では奴隷であったということは、市民権がなく、この王国でも奴隷としての身分になります」


サクの言葉にガルーダ族のモノだけでなく、王国側もどよめく。

非情な言葉にガルーダ族のフクロウの老人が立ち上がる。


「発言をよろしいかな?」

「構いません」

「私はガルーダ族、族長の一人でノズと申す。

そちらの言い分は勝手な物言いではないだろうか?

本来我々は奴隷ではなく、このガルガンディアの地にてガルーダ族という部族として生きてきた。それを勝手な侵略によりこの地を奪われたのだ」

「弱いあなた方が悪いのでは?」


ノズの言葉に対して、サクが弱者だと切って捨てる。


「何を!」


黒い羽の青年が立ち上がって反論しようとするがノズが押止る。


「確かに我々は弱かったかもしれない。

だが、この地に戻ってきたからには、我々は死にもの狂いでこの地を取り戻すために戦う覚悟はできておる」


ノズの言葉に黒い羽の青年が腰にさげている剣を抜く。


「待て、ブライ」


黒い羽を持つ鳥人を止めたのはヨルダンだった。


「失礼した。しかし、そちらの物言いはあまりではないだろうか?」


ヨルダンはずっと黙っているヨハンを見る。


「これは王国の見解です」


サクの言葉にヨルダンは苦虫を噛み潰したような顔になる。


「我々に救いはないのか?」


ヨルダンは沈痛な面持ちでヨハンに問いかけてくる。


「一つ、手立てがある」


今迄黙っていたヨハンは、ヨルダンを見つめて言葉を発する。


「手立てとは!!!」


ヨルダンは声を荒げ、ヨハンの言葉にガルーダ族が顔を上げる。


「俺のモノになれ」


ヨハンは笑う。笑って右手を差し出す。


「どういう意味だ!!!」


ヨハンの申しの意味がわからず、ヨルダンがテーブルを叩いて立ち上がる。

奴隷として従えという意味なのかと怒りを表す。


「そのままの意味だ。王国に行っても、共和国に行っても、ガルーダ族には居場所がない」


ヨハンは事実を突きつける。優しさだけでは何もできない。

世界はそんなに優しくはないことをヨハンは知っている。

だからこそ、彼に与えてやれるヨハンからの提案は一つしかなかった。


「ならば力で!」

「力で何ができる?」

「お前達を倒して、この地を手に入れる」

「それで?俺達を倒した後も戦い続けるのか?王国から兵が送られ、お前達は一族全てを殺されるまで戦い続けるのか?」


沈痛な顔をしたヨルダンが黙り込む。


「どうすればよろしいのでしょうか?」


白い羽を持った美しい女性がヨルダンに変わりヨハンに問いかけてきた。

それは助けを求めるような弱々しい声ではなく、はっきりと意思を伝えるだけの強い言葉だった。


「さっき言っただろ。俺のモノになれ」

「あなたのものとはどういう意味ですか?我々を奴隷にするということですか?」

「そうじゃない。改めてこの地に住むために俺の領民になれ」


ヨルダンは、ヨハンに何を求められていたのか。

より良い決断とは何なのか。ヨハンのためになり、鳥人族のためになり、王国からも認められ、共和国から救う方法、それはこれしかないと思った。


「領民とはどういう意味だ?」


暗い顔をしていたヨルダンが、ヨハンを見据える。

覚悟を持った表情に、真面目なヨルダンなりに何かの答えを出そうとしているのだろう。


「そのままの意味だ。俺に雇われ、俺の私兵になり、俺に従え」


それは彼らの誇りを踏みにじる物言いであり、決して平和的な物言いではない。

なぜ、ヨハンがそんな言い方をしたのか、それは彼等に考えさせるためだ。


「そんなことができると思うのか!!!」


ヨルダンに変わり、ブライが激昂して立ち上がる。すでに剣を抜いている。

その切っ先はヨハンに向いていた。


「それは決別ととっていいのか?ガルーダの戦士ヨルダン」


ブライの行動に対して、ヨハンはブライを見るのではなく。ヨルダンを見つめる。


「あなたの申し出、受けさせていただきます」


それはヨルダンではなく、ましてや族長だと名乗ったノズでもなかった。

白い羽を持った美しい女性がヨハンを見据え、凛と背筋を伸ばして答えた。


「ガルーダ族が王、ソフィーア・ガルーダの名の下。ヨハン・ガルガンディア様に全てを捧げ従います」

「ソフィーア様!」


ブライはソフィーアの発言に驚き、持っていた剣をさげた。

ブライの反応を見る限り、どうやらガルーダ族の大将はヨルダンではなかったらしい。


「あなたが王?」

「はい。私こそが聖鳥ガルーダの正統なる後継者です」


ヨハンの問いに彼女の答えは明確だった。


「鳥人族は、この日よりヨハン・ガルガンディア様の私兵となり、ガルガンディアに刃向う者有れば、ヨハン・ガルガンディアの名の下、戦うことをここに誓います」


ソフィーアの宣言に応えるようにヨハンが立ち上がる。


「鳥人族をガルガンディアの領民として認める」


宣言にヨルダンやブライは戸惑いを見せていた。

しかし、リンやヨハンの部下は拍手を打ち鳴らした。

サクだけは何も言わず、会議室を後にしていく。


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あとがき


これにて第三章 領地経営編完結となります。


戦争から離れた話なので、ちょっと戸惑ってしまいますが。

ほんわかしたヨハンやリンの話が書きたくなったので、書いてみました(*'ω'*)

第四章に入るまえに閑話を数話挟んで第四章に突入していきますので、どうぞよろしくお願い致します。


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