第70話 閑話 あの人を信じて……
あの人を信じて……シェーラ編
私は一族を救ってくれる人を探すためにエルフの里を出た。
森の中でしか生活したことが無かった私を待っていたのは、厳しい世の中だった。
元々数の少なくなっていたエルフは、世の中では貴重な存在なのだとドドンは言っていた。その中でも若く幼いエルフは里から出ることがなく、成人してからも数百年は里で暮らすのが普通なのだ。
百歳にも届かない私を捕まえるために、ドドンは私を騙した。
奴隷商のドドンに騙された私は奴隷に身を落として従うしかできなかった。
身ぐるみを剥がされ裸同然の姿で人前に晒される。
だけど、私は運が良かった。
商品として、教育をされていないということで大衆の前に出される前に貴族に見せると言ってドドンが私を連れ出した。
初めてあった新鋭の貴族がご主人だった。
ご主人は、まだ子供なのに奴隷買いに来ているのかと私は最初こそ蔑んでみていた。どこかの貴族の子息かと思えば、戦争で活躍して貴族になったという。
そんな彼は私を見ると驚いた顔をしていた。
他の奴隷や商人たちは私を見れば、欲情するでも動物のようにイヤらしい気持ち悪い視線を向けて来ていたのに。
ご主人は驚いた顔をしただけで、困った顔をしていた。
私がエルフで珍しいからだろうか?いや、それとも何か違うような気がするように思った。
私の首に巻き付いた鎖をドドンが引っ張る度に彼はまるで自分のことのように悲痛そうな顔にする。
「どうかされましたか?」
「いや、少し考えていただけだ」
「そうですか、それでどうされます?」
彼はふぅーと息を吐き、何かを決心したように話し始めた。
「10人全て買う。だからまけてくれ」
「はっ?」
「だから10人全て買うと言ったのだ。
ゴブリン三人で銀貨70になるなら、全員セットで買えばもっとお得なんだろ?」
彼の決心は全ての奴隷を買うということだった。
私も驚いてしまう。大胆なことをする変わった人である。
奴隷は安くない買い物だ。それを10人全員買うと言い出すとは。
視線に続いて、気前のいいご主人に不快感が取り外されていく。
「よろしいので?」
ドドンは私を見た後に、彼に聞き返した。
「まぁ俺も新鋭の貴族だからそれほど金がない。そこを汲んでくれればありがたい。もちろん、これからの付き合いも考えてくれると嬉しいのだが」
「それはそれは……」
私は高値売れるとドドンは言っていた。
それを値切る彼はドドンに臆することなく、また恥ずかしげもなく値段の交渉を始めた。
私は彼の行動に唖然とするばかりで、自分が売り買いされている事実も忘れて呆然としていた。
「では、金貨20枚でどうでしょうか?エルフを買っていただければ他の者はオマケとして付けます」
ドドンなりに思い切った値引きをした方だろう。
私が売りに出されるのは初めてだが、他の者が売られているのを聞いたことがある。いくら他の人が値切ってもここまで負けることはなかったはずだ。
「確かにエルフ一人で10人が買えるなら魅力的だな。
しかし、これからの付き合いを考えた金額とは到底思えないがな。
俺はてっきり、無償で渡してくれるのかと思ったぞ」
ご主人はさらにとんでもないことを言い出した。
金貨一枚でも十分な値引きと言えるのに、それを七枚も値切ったドドンに対して無償で提供と言い出したのだ。頭がおかしいのではないだろうかと疑ってしまう。
「どうやら新鋭貴族様はモノを知らないご様子で、私が定時したのは破格の値段です。それを横暴にも無料にしろだなんて」
「おいおい、ちょっと待てよ。俺は無料にしろなんて言ってないだろ」
「はっ?しかし先程無償でと」
「だから、無料だとは言っていない。無償でプレゼントされるのかと思ったと言ったのだ。そこを間違えてもらっては困る。
俺は買う気がないのではないんだ。てっきり祝いの品を頂くことが多かったのでな。初顔合わせのドドン殿も私にプレゼントしてくれるのかと思ったのだ」
ご主人の悪びれる様子もない物言いに、ドドンは今度は呆れたような顔になる。
「話になりませんな。お帰りいただいて結構です」
「ほう、私との取引は要らぬと」
「はい。必要ありませんね。バカとは話す気も無い」
ドドンはご主人に対して完全に見限ることを決めたようだ。
「そうか、ならしょうがない。今すぐに衛兵を呼ぶことにしよう」
「はっ!何を言っているのですか、私は悪いことなど何一つしておりませんよ」
「そうかな?もしそのエルフが私のモノだと主張したらどうする?」
「はっ?そんなことあるはずが……」
ドドンは私を見る。私は彼が何を求めているのかすぐにわかった。
そして、聡明なご主人になら私は一族の命運を託せるかもしれない。
「私はあの人のモノです」
「なっ!」
「ドドン殿、どうされます?」
彼はドドンに勝ち誇り、ドドンは顔を真っ赤にしていました。
すぐに表情を元の厭らしい顔に戻しました。
「それで勝ったつもりですかな?いいですか?奴隷とは奴隷紋と呼ばれる刻印が刻まれます。その奴隷紋には魔力を流すことにより主人の命令しか聞けぬようになってあるのですよ。いいですか?」
そういうとドドンが鎖越しに魔力を流してくる。
私の意志とは関係なく口が勝手に動き始める。
「わっわたしは……どっどん、ドドン様のどっどれいで……す」
私の意志とは無関係に発せられる言葉に私は悔しくて涙が流れそうになる。
「エスナ」
そのとき、ご主人から魔力の放流を感じる。
不思議なことに、私は体の自由を取り戻した。
「どうですかな?この子は私の奴隷だ」
「どうかな?」
ドドンの勝ち誇った顔に対して、ご主人は不敵に笑い。私に優しく笑いかけた。
「もう一度言ってくれないか?」
私は必死に涙を堪え、ご主人の求めに応じる。
「私は彼の者です。あなたの物じゃない」
私はこの時に誓いを立てた。ご主人に我が一族を救ってもらおう。
ご主人ならばその知恵できっと我が一族を救ってくれる。
エルフの一族は、王国から派遣された騎士団によって救出されることになる。
しかし、逃げ延びた一族が新たに住まう地を与えてくれたのはご主人であった。
私は……シェーラ・シルフェネスは、御主人様を信じて奴隷から解き放たれた。
でも、心は一生ご主人様の奴隷であり続けます。
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