第64話 マダラベアー 後編

マダベアーの速度が増すごとに、ヨハンの体から血飛沫が飛び散る。

電光石火もすでに発動して全身の神経インパルスはフル活動しているはずなのについていくのがやっとの速度にまでマダラベアーは速い。

レベルが上がったことで過信していた。獣系魔物の存在を舐めていた。


「ガウガウ!!」


パンダは調子が上がってきたのか、視界では爪の動きが見えなくなってきた。


「調子に乗るなよ!」


一か月半ほどのデスクワークで体が鈍っていた。外の世界に出れば上には上がいる。

親父に教えてもらったことを忘れていた。

この森を調べればもっと凄い奴が出てくるかもしれない。

それでもこの間抜けでむちゃくちゃ強いパンダに勝てないで、この先もやっていく自信などあるはずがない。


「氷壁」


襲い来るパンダとの間に氷の壁を作り出す。

速度はそのまま破壊力になる。パンダの爪がすぐに壁を破壊する。

氷を薄い膜のように数十枚重ねて時間を稼ぐ。

速度を上げても追いつけないなら、相手の動きを止めてしまえばいい。


「雨」


魔力に任せて辺り一帯に魔法の雨を降らせる。


「風よ」


風によって雨を吹き上げ冷やしていく。


「銀世界」


広範囲に広がった雨と風を使って、魔法で一気に気温を下げて全てを氷つかせる。

氷壁破壊に夢中になっていたパンダを、氷の中に閉じ込めた。


「終焉」


凍りついた世界に光が降り注ぐ。人工メテオストライク。

巨大なファイアーボールの中に巨大なロックを作り出してパンダに落とした。


「お前がここまでさせたんだ」


動きを止めたパンダごと森の一部を消し飛ばす。

巻き起こる砂煙の向こう側に生物など存在しない。


「オーバーキルだったか?」


今できる魔法を全て組み合わせてパンダを撃退した。


「ガウ」


弱りきったパンダは片目を傷つき片腕を落とされて、それでも立っていた。


「変異種にしてもお前は本当に凄いな」

「ガウガウ」


パンダは残された力を振り絞るように片腕を伸ばし爪を向ける。


「なぁ、パンダ、もうパンダでいいよな?」

「ガウ?」

「お前の名前だよ。なぁ俺と友達にならないか?」

「……」

「俺はお前をこれ以上傷つけたくない。この先にあるガルガンディアのボスだ。

食料はいくらかもってこさせよう。だから、俺の民を襲うな」


言葉を理解していることは分かっている。


「お前はこの森の主になってみせろ。片手が無いぐらい大したことはないだろ?」


ヒールで腕の止血と、片目を回復してやる。

無くした者は無くならないが、出血は止まり痛みは引いたはずだ。


「腕は生えないが、傷ついているだけの目なら治せる。どうだ?」

「ガウ……」


パンダは傷ついた片目を開き、爪を納めた。

間抜けだと思っていた顔もどこか愛らしく見えてくる。

こいつも野性で必死に生きているのだ。

短い手足を補うために爪が成長してこんな歪な成長を遂げたのだろう。


「なぁパンダ。俺がこの辺のボスになる。お互いに一人前になったら、またやろう」


パンダと名付けたマダラベアーは森の奥へと去って行った。


「ヨハン様!」

「ふぅ~どうしてこうも戦いになるとギリギリなのかね」


リンに回復魔法をかけてもらいながら一息ついた。


「それにしても、いつの間に回復魔法を覚えたんだ?」


リンは元々風と炎の魔法が得意だった。

人を傷つけたくないと、補助魔法を重点的に覚えていたのは知っている。

回復魔法まで覚えていたとは知らなかった。


「いつもいつも私の傍で傷付いている人がいますから」

「なんだ?危なっかしい奴だな」

「ええ、年上なのにまるで子供のような世話のかかる人なんです」

「そういう奴とは付き合わない方がいいぞ。ほっとけほっとけ。絶対に人の迷惑とか考えてないぞ」

「ふふふ。そうですね」

「うん?何かおかしかったか?」


リンは、その後もおかしそうに笑っていた。


「こんなところまで来てしまいましたね」

「うん?」

「最初は駆け出し冒険者だったのに、今では貴族様の専属従者です。私」

「はは、そういえばリンに出会ったときは、駆け出し冒険者だったな」

「はい。追う背中がすぐに走り去ってしまうので、追いかけるのが大変なんです」


リンの言葉に何のことを言っているのかわからない。

王都に着いてからリンとは一番長く一緒にいる。


「いつも世話になってるな」

「いえ、私が好きで追いかけているだけですから」


どうやら先ほどの追いかけるのが大変だと言ったのは、自分のことだとヨハンも気付いた。そんなに急いで走っていたかなと考える。


「二人で出かけるのも久しぶりだな。王都ではよく図書館とか買い物に行ってたからな」

「そうですね。私はヨハン様に振り回せれてばかりで……」

「おいおい、そんなことないだろ?露天商に行ったときは奢ってやったし、図書館でもいい本を薦めたじゃないか」

「そうですね。露天商では物凄く値切ってオジサンが泣きながら渡してきた肉串を一緒に食べたり、難しい本を読ませようとするから、私が困っているとアリスさんが読みやすい本に渡してくれましたけどね」

「そうだったのか?」


ヨハンの知られざる新事実に驚きながら、リンと思いで話に花を咲かせる。

ガルガンディアの外に出たことで開放的になっていたのかもしれない。

久しぶりに思い切り暴れて、気分が良くなっていた。


「なぁリン、もし帝国との戦争に生き残れたら……」

「帝国との戦争?」

「いや、この話はまた今度にしよう」


何を言おうとしていたのか、13歳になったばかりのリンは少しづつ大人へと近づいている。変なことを言ってしまいそうになるぐらいには……


「もう、いきなり変なことを言ってなんですか?」

「なんでもないさ。リン、いつもありがとう」

「本当にどうしたんですか?あっ、まだ痛みますか?もしかして頭でも打ちました?」

「そうかもな」

「大変です。どこですか?見せてください」


リンの太腿に頭を預け目を瞑る。

心配そうに頭をまさぐっていたが、次第にヨハンの意図を理解したのか、頭を撫で始めた。


「少しだけですよ」


リンの膝枕に身を任せしばし心の癒しを得た。 


現在のステータス


名 前 ヨハン

年 齢 15歳

ジョブ ガルガンディア領主 サブ1魔法師 サブ2戦士

レベル 60

体 力 200/680

魔 力 120/1023+100(ジョブ補正)

攻撃力 312+10+20(ジョブ補正)

防御力 330+10

俊敏性 452+10

知 力 680


スキル 

斧術MAX、投擲7、乗馬MAX、探索5、夜目3、気配断ち、攻撃力上昇、防御力上昇、敏捷性上昇、体力自動回復、魔力消費半減、経験値アップ、アイテムボックス

 

魔 法 

ヒールMAX、エスナ2、ウォーター5、ファイアー5、ストーン6、ウィンドー4、ライト4、サンダー4、アイス5


補助魔法

アタック1、ガード2、スピード2、レジスト2、電光石火


複合魔法

銀世界、メテオストライク


兵 法 

背水の陣、釣り野伏、打草驚蛇、借屍還魂、調虎離山、欲擒姑縦、抛磚引玉、擒賊擒王


協力技 雷神剣(ランス)、エクスプロージョン(リン)


スキルポイント 21


アタック、攻撃力を二倍する補助魔法。

ガード、防御力を二倍にする補助魔法。

スピード、俊敏性を二倍にする補助魔法。

レジスト、魔法耐性を上げる補助魔法。

電光石火、肉体にサンダーを流すことで神経インパルスを刺激して全身を加速させる。

銀世界、大気中の水分を使って魔法範囲内を氷つかせる。ウォーターとウィンドーの属性がなければ使えない。

メテオストライク、巨大なストーンにファイアーを纏わせて降り注がせる。


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