第65話 森の隠れ家

領地経営を初めて三カ月が過ぎようとしていた。


パンダとの遭遇でヨハンが焼き払った場所は、物見櫓を建てている。

狩りに出ているゴブリンに領地に住む一環として、通行する者を見守るよう頼んでいる。

 

あれからパンダとは食事を渡すときに軽く話をするようになった。

なったと言ってもヨハンから一方的に話すばかりだ。

それでも食事を持っていけば姿を見せるパンダは心を許してくれているようにヨハンは感じていた。 


ガルガンディアの情勢も三か月の間に随分と落ち着けるようになってきた。

事務的な処理速度がサクがいることで格段に上がり、ヨハンの自由な時間が増えた。

サクが事務的なことをしてくれるので、秘書をしていたいシェーラは執務室からいなくなり、森に狩りに出るようになっていた。

森には精霊が多く。精霊魔法の強化がしやすいらしい。

他にも狩りに出ることで危険なモンスターを察知するスキルや、獲物を探索するスキル向上につながっている。

確実にレベル上げを果たしているシェーラは強くなっている。

彼女はエルフを救うために頑張っているのだ。


「この案件を見ていただけますか?」


執務室でサクに出されるままハンコをついていると、サクが書類を見てほしいと言ってきた。

ほとんどの案件はサクが判断してくれるので、軽く目を通して判を押すだけでいい状態になっていたため、重要な案件かと目を通す。


「森に村を造りたい?」


それは意外にもサクからの案件だった。


「はい。ゴブリン族も大分増えてきました。彼らは元々洞窟や自らの集落を造って生活をします。生活環境も我々とは違うので、ゴブリンだけの村を作らせてはどうかと思いまして、彼らの繁殖力はかなり高いです。

他の種族に種付けされても困りますし。できるなら同じ種族だけで安全に行ってもらいたいのです」


ゴブリンが人を襲わないようにしようということらしい。

彼らが住民になってくれたお陰で三か月ほどで、1000人ほどの私兵ができた。倍々で増えていく彼等だ。

最初は三人だったのに森で勧誘したり、生まれたりで、三か月で約三百倍になった。一年も経てば、千倍になっていてもおかしくはない。


「ふむ。確かにそうかもしれないな。彼等には大事な手駒でいてほしいからな。

ルールを決めてくれるか?」

「ルールですか?彼等自身で話し合わせては?」

「それはダメだ。こちらが有利な存在であり、こちらが主でなければならない」

「わかりました。考えてみます」


他の種族はゴブリン程の繁殖力はない。

二ヵ月で一人生まれるゴブリンが異常なのだが、彼らの管理こそが私兵を手に入れる秘訣になりそうだ。


「それとトン、チン、カンを呼んでくれるか?」

「どうされるので?」

「それを言う必要はないだろ?」

「かしこまりました」


サクは優秀な人間である。何も言わなくてもこちらの意図を理解している。

だからこそ言わなくても分かるだろと、意地悪を言いたくなる。

だが、今回はサクを信用していないからだ。

トン、チン、カンとは、この三か月で友好関係を築けていると思う。

三人と風呂に入ったこともあるし、酒を飲んで話あったこともある。


「主人、入るよ」


声をかけてきたのは、三人のリーダー的存在であるトンだ。


「ああ、入ってくれ」


トン、チン、カンは言葉を話せるようになった。

執務室に入るときもこうして確認を取る礼儀も覚えた。

アリスさんの図書は大繁盛してるようだ。


「何か用か?」


彼らは人の言葉を話すための呂律が上手く回らない。

そのため、カタコトで話をするので、まるで来日した外国人のようだ。


「お前達に新しい仕事を頼みたい」

「主人、ゴブリン使い荒いよ」

「「荒い、荒い」」

「そんなことはないだろ?お前達には結構好きにやらせていると思うが?」

「そんなことないよ。畑の管理に孤児の管理、最近は物見やぐらの管理までやらせてるよ。この間だって本を読めとか言って訳の分からない本読ませたよ」


使える私兵はゴブリンがほとんどなのだ。

ゴブリン使いが荒いと言われても仕方ないかもしれない。

トン、チン、カンにはゴブリンでも分かるシリーズをそれぞれ見せてみた。

本とは素晴らしいものだ。ゴブリンでも分かるシリーズは、本当にゴブリン達にも理解できた。

言葉を理解した彼らはトンは今のように呂律こそ回らないが、こちらの言う言葉を深く理解し計算もできるようになった。

チンは魔法が使えるようになり、カンは建築スキルを身に着けた。


「そのかわりできることが増えただろ?」

「まぁそうだよ。それで何をすればいいね?」


 こいつらは文句は言うが、仕事はキッチリこなしてくれる。


「お前達を族長としてゴブリンの村を作りたい。頼めるか?」


相当意外だったのか、三人は同時に尻餅を突いた。


「ご主人、何を言っているのか分かっているのか?」

「わかってるよ。俺はお前達を信じている。

お前達が俺の友人である限り、俺はお前達を信じるさ」

「「「ご主人!!!」」」


感極まった三人が飛びついてくる。

なんだかんだとこいつらは一番雑用を押し付けてきたのだ。

この辺でご褒美を与えても問題ないだろう。


「但し、あくまでもお前達は俺の部下だ。そこは弁えておいてくれよ」

「大恩あるご主人のこと我々が忘れることないね」

「「そうよ、そうよ」」


こいつらは信用できるが、軽いので緊張感が無くて困ってしまう。


「なら、これは男と男の約束だ。俺達は家族だ。家族が困ったときは助けに行く。お前達が困ったら俺が助ける。俺が困ったらお前達が助けてくれ」

「ゴブリンと人が家族?ご主人はやっぱり面白い人ね」


トンの言葉に残りの二人も笑う。

それでもヨハンは本気で言っているのだ。

その気持ちはゴブリン達にも伝わったようだ。


「約束するよご主人。私達は家族よ」


トンが手を差し出し、ヨハンと握手を交わす。

それに重ねるようにチンとカンも手を合わせてくる。

確かに彼らは普通の人間ではない。

だけど、彼らは言葉を理解し考える教養を持っている。


「ああ。約束だ」


サクの案とゴブリン達の働きにより、すぐに村作りが開始された。

村を作りにあたって、パンダにゴブリン達のことを頼んだ。

慣れ合おうとはしないパンダだったが、ゴブリン達のことは見守ってくれている。


三か月という期間で、ガルガンディアに地盤作りは整い始めていた。

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