第59話 いざ、ガルガンディアへ

顔が変形した父親と、笑顔を絶やさない母親に見送られてリンの家を後にする。

リンはメイド服のままなのは、母親の策略であることが判明している。

出かける前にリンが着替えてくると言いうと、母親が笑顔で阻止していた。


王都で声をかけられる場所は全て周り終えたので、ヤコンの店へと戻ってきた。

店では慌ただしく人が行き交っている。

使用人たちがゴブリン達を洗って服を着せたり、店の奥ではエルフの少女とウィッチ達にお化粧をしたり、服を選んだりと楽しそうな声も聞こえてきた。


「ああ、ヨハン殿、おかえりなさい」


ヨハンが店に入ってきたことに気付いたヤコンが声をかけてくれる。


「なんだこの騒ぎ?」

「使用人たちがエルフの少女に歓喜してしまって。はは、着せ替え人形になってしまっています。それとオークとゴブリンの汚さに古参の者達が腕まくりをしてやる気を出しましてね」


ヤコンも使用人たちの熱に圧されて、額に汗をかいている。


「ははは。ヤコンもそんな顔をするんだな」

「まったく、あなたの傍にいると飽きることがありませんね」


慌しい店内を見たリンが凍るような表情をしていた。


「えっと……リンさん?」

「ヨハン様……これはどういうことですか?」

「いや~これは~なぁ~ヤコン」

「私は知りませんよ。世話代はしっかり頂きますからね」


ヤコンはヨハンとリンを置いて店の奥へと入っていった。

残されたヨハンは恐る恐るリンを見る。


「ヒッ!」


般若のような形相をしたリンに睨まれた。


「説明して頂けますね!どういうことですか?」


何故か石畳みの上に正座をさせられて説明させられることになった。

奴隷商館に行ったこと、奴隷商に怒って奴隷を全てかい受けてしまったこと。

リンは恐いし、足は痛いし、使用人たちには微笑ましそうに見られるし、恥ずかしかった。


「商館に行ったことは不潔だと思います。それでもそこでの行いは確かに理解できます。だから相殺ということにしておきますが、次は許しませんよ」

「はい!」


大きくハッキリした声で返事をする。リンは溜息を吐きながら納得してくれた。


「あんたは何様なの?」


やっと落ち着いた雰囲気をぶち壊す声がかかる。


「はい?」

「あなたはこの人の何なの?」


それは先程までボロボロの奴隷服を着ていたエルフの少女だった。

今では綺麗に洗われた金色の髪と、白さを取り戻した綺麗な肌、エルフ特有の整った顔立ち。

ハイエルフの姫だけあって、物凄く美しい少女が最大限発揮されている。


「えっスゴイ綺麗……エルフの女の子?」


あまりの美貌にリンは言葉を詰まらせる。


「ねぇ、あなたは彼の何?」


エルフの少女はリンに詰め寄るようにもう一度同じ質問を投げかける。


「わっわたしはヨハン様の従者です」

「従者がご主人様を説教してもいいの?」

「うっ、でも、ダメなモノはダメだと言える人がいないと」

「主人の意向に従うのが、従者でしょ?」

「さっきから何なんですか!あなたは?」


リンも責められるのに耐えられなくなったのか、逆にエルフ少女に問い返した。


「私は奴隷。ご主人様の慰みものになる存在よ」

「慰みものって!不潔です!」


リンに睨まれてビンタされてしまう。


「おい!誤解を招く言い方をするな!」


とりあえずリンを説得するのに必死だった。

リンが落ちついたころには、ヤコンが全ての用意を終えていた。


「それで、どうするんですか?」


ヤコンの質問に対して精神的に疲れた。

当初の予定通りヤコンに宿を紹介してもらって一泊してから王都を立つことにした。

宿の振り分けは、

ゴブリン、オーク、ウィッチはそれぞれ三人で同室になってもらった。

エルフの姫様であるシェーラはリンと同室してもらう。

どっちもヨハンと同室を希望したが、丁寧にお断りしておいた。


夜が明けてすぐにヤコンが用意してくれた馬車へ乗り込んでいく。

荷物は、アイテムボックスがあるのでそれぞれが持てる最小の飲み物と武器だけもってもらった。

ゴブリン三人が馬車を運転できるというので、交代で任せることにした。

オークやウィッチも綺麗にしたおかげか、奴隷商館で見たときよりも明るくなっていた。


「それで?お前はなんなんだ?」


ヨハンの横にはエルフの少女が陣取っている。


「シェーラ」

「はっ?」

「シェーラよ。ご主人様」

「ああ、お前の名前か」


同い年ぐらいの見た目をしているくせに、大人な雰囲気を醸し出してくる。

シェーラと名乗った少女に素っ気ない態度を取っているのは、雰囲気にのまれそうだからだ。


「ご主人の土地に行くのでしょ。楽しみね」


隣に座ったことで良い匂いまでしてくる。

その美しい瞳に吸い込まれてしまいそうなほど美しい。

昨日の昼からリンには素っ気なくされているのが悲しい。


「はぁ~ガルガンディアは元々共和国の領土だからな。

あまり珍しいものはないぞ。あるのは森ばっかりだ」

「ええ、知っているわ。ヤコンと言ったかしら、商人との話を聞いていたもの」


この少女はやはり賢い。こちらの意図や感情を理解することもできる。

そのうえ何かの目的を持って行動している様子だ。


「シェーラは何が目的なんだ?」


狙いがあると判断したので、直接問いかけてみた。


「ふふふ。ご主人は頭のいい人ね。嫌いじゃないわ。でも、内緒よ」


やはり醸し出す雰囲気に妖艶さが見え隠れする。

彼女がランスの攻略対象でなければ襲っていたかもしれない。

気分を変えるために馬車の外を見る。


「どうやらお客さんのお出ましだ」


姦しいウィッチたちが黙って、オークが武器を構える


「ヨハン様!盗賊です」


ゴブリンと共に御者をしていたリンが荷台へ声をかける。


「そうみたいだな。でも、ただの盗賊じゃないだろう」


王都を出てガルガンディアまで半分も進んでいる。

仕掛けるならこの辺だろうと思っていた。


「みんな思う存分暴れていいぞ。死ななかったら直してやる」


奴隷たちにも馬車に乗る前にこうなることは告げている。

彼らには得意な武器や必要なモノを事前に聴いている。

彼らも覚えているのだ。自分達を酷い目に合わせた奴のことを……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る