第53話 人材発掘

戦争が勝利で終結したことで王国内には好景気が訪れていた。

共和国側から得られたのは土地だけではない。

多くの資源や人材も確保できたため商人がこぞって王都に押し寄せていた。


共和国から手に入れた三つの要塞と新たな領地には褒美として三人の人間に与えられた。

一つ目の砦を第二軍総大将アンダーソンへ。

二つ目の砦に関してはミリューゼへ。

最後のガルガンディア要塞は平民出身者であり、第三軍魔法師団所属ヨハンに与えたことは様々な噂となって知れ渡った。


ヨハンは王都からガルガンディア要塞へ拠点を移すために視察に訪れいた。


「この間までは、たくさん人がいたから気付かなかったけど、広いなここ」

「そうですね。なんだか広すぎて落ち着かないです」


同行者としてリンがヨハンの従者としてついてきてくれた。


リンはヨハンが貴族になって領地を賜ると「お供します」と着いてきてしまった。

リンの家族もガルガンディア要塞へ呼び寄せてくれるというこで大家族が丸ごとガルガンディア要塞の使用人になることが決定している。


ヨハンの家族にもガルガンディア要塞を賜ったことは伝えてある。

父を強さを知ったこともあり、来てくれるように手紙は出したが返事はない。

ガルガンディア要塞を拠点に街を作らなければならないので人手はいくらでもほしい。

周辺に村はなく。森が広がっているだけなので開拓が必要になる。

 

「まぁ出だしとしてはこんなものでしょう」


もう一人の同行者である商人のヤコンが砦内の調査を終えて戻ってきた。

こんな辺鄙なところで領地を運営するのに、必要な物資を集めるためヤコンに視察に来てもらったのだ。


「収容人数三万といったところでしょうか?手付かずの森が広がっているので、領地を増やすのにも人手が必要ですね。

戦争後のお蔭で備蓄してある食料はかなり多めにありました。

今すぐ一万人を収容しても一年は持たせられるでしょう。

ただ、砦という形をとっているせいで畑や建物が少なすぎますね。

寝泊りはできても生産性がある生活を送るための農地を作るのに苦労しそうです」


ヤコンの報告を聞きながら、やらなければならないことの多さに目が回りそうだ。


「とりあえず何から手をつければいいんだ?」

「まずは人材の確保でしょうね。誰か有力な人材が居れば取り立ててください。領地経が出来る者がいれば助かりますね」

「領地経営ができる人材か……」

「それと、街を造るに当たり、どのような街にするつもりですか?」

「どのような街?」

「はい。街とは納める者の思想が反映されます。

ヨハン殿がどんな街にしたいのか、それが大切だと思いますよ」


領地経営などするつもりもなかったので、何も考えていなかった。

まずは自分の思想を固めるところから始めなくちゃならない。


「色々あるんだな。それで?ヤコンは俺に仕えてくれるのか?」

「私は商人ですからね。仕えるという言い方は適切ではありません。

交渉相手として協力すると思ってください。

今のあなたは貴族になり立てで味方がいない。

しかし、私はあなたを面白い人材だと思いますので、先行投資として協力させていただきます」


ヤコンのハッキリとした物言いが嫌いじゃない。

ガルガンディア要塞の領主になったときに、一番に声をかけてきてくれたのがヤコンだった。

信用するわけではないが、頼りになる相方ぐらいには考えている。


「とりあえずは人材だな。人材を増やす方法はどんな方法があるんだ?」

「そうですね……戦争難民や孤児を拾ってくるか。どこかの住民に移民してもらうか。奴隷を買うかですかね?」

「奴隷?」

「おや?興味を持たれましたか?」

「不潔です」


ヨハンが奴隷に反応したことにヤコンは嬉しそうな顔をするが、リンが奴隷は不潔であると叫び出した。


「不潔なことなのか?」

「いえ、普通ですね。奴隷商は王国が認めた商売です。税も納めております」

「不潔です!」


ヤコンが説明してもリンは激怒して取り合わない。

何をそんなに怒っているのか?この世界は奴隷商が商売として認められているというのに。


「とりあえず、それは一つの案だな。まずは、知り合いに声をかけてみるよ」

「そうですね。私も協力すると決めたからにはそれなりに動かせてもらいます」

「リンもそれで頼むぞ」

「不潔です」


ご立腹のリンは聞いているのかわからない。

とりあえずの方針を決めて、行動に移すことにした。

王都に戻って来ると一番に欲しい人材のところに顔を出す。


「いらっしゃいませ」

「お久しぶりです。アリスさん」


いつも訪れる図書館はレベル上げをするのにガルガンディア要塞にも必要な場所となる。

いつも通り静かな雰囲気とアリスの笑顔が出迎えてくれるに癒される。


「この度は貴族様になられたそうで、おめでとうございます」

「いえいえ。中身は全く変わっていませんから。むしろ知らないことばかりで戸惑うばかりですよ」

「それでも凄いです」

「はは、それでなんですが……アリスさんにお願いがあってきました」

「はい?」


アリスの顔を見つめ、緊張が高まってくる。緊張が伝わったのか、アリスも顔を赤くしてしまう。これでは告白するみたいでますます緊張する。


「……」


息を飲み、覚悟を決める……


承諾してくれるのか不安で、言葉がなかなk出てこない……


それでも意を決して言葉を発した。


……………………


「俺の城で司書になっていただけませんか!」


意を決して伝えることが出来た。


「はっ?」


衣装を疲れたような顔でアリスが驚いている。


「えっと、俺の城で司書になっていただけませんか?」

「……ヨハンさん」


間を空けて名前を呼ばれる。 


「はい……」

「バカーーー!!!」


アリスからの返事は叫びとともにビンタだった。

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