第51話 エピローグ 

王城で行われた豪華絢爛なパーティー会場で、場違いな印象を受けながらも整えられたスーツに身を包んだヨハンは従者として参列したリンと共に唖然としていた。


豪華なドレスに身を包んだ女性が話に花を咲かせ。

タキシードに身を包んだ貴族や文官、鎧を脱いで武勇伝を語り合う武官たち、そんなお偉いさんが集まる場所に連れて来られてしまった。


共和国との戦争は勝利を飾ることができた。


ガルガンディア要塞を攻略したことで、敵将である傭兵王が和睦を申請してきたのだ。度重なるゲリラ先方も王国第一軍が壊滅させたので、共和国側の攻撃手段が低迷したためであった。

和平を結ぶにあたり、此度の戦で使われた三つの砦を差し出し周囲の土地も明け渡すので許してほしいという内容だった。


王国側も同意して、和平が成立したのだ。

この場に集まった者達は戦争で活躍した者を王様が労うために呼び出したであった。その一人としてヨハンも含まれている。


「ランスも活躍したんだな」

「まぁな。ヨハンの活躍も聞いてるぞ。ガルガンディア要塞攻略に貢献したらしいな。リンも久しぶりだな」

「ランスさん、お久しぶりです」


そうなのだ。ランスは第一軍中でも群を抜いて活躍を示した。

救った町の数は十件を超え、倒した敵の指揮官も多くいるらしい。

ランスが付いていた騎士もよかったらしく。

ランスの活躍をそのまま上官に報告してくれたのだ。

そのおかげでランスの活躍は評価され、こうして祝賀会にまで呼ばれることになった。


「俺なんてお前に比べたらたいしたことはないさ」

「謙遜は止せよ。セリーヌ様がお前を命の恩人だと言っていたそうじゃないか。十分な活躍だ」


セリーヌは条件を反故にしたのではない。しかし、厄介なことになっている。

確かに約束通り悪い方には手を出されていない。

もちろんアラクネを倒したのはセリーヌということになった。

しかし、セリーヌはヨハンがいたからこそアラクネを倒すことができたと吹聴したのだ。

傷を負ったセリーヌに代わり、その後の指揮も俺に一任したと報告したのだ。

間違ってはいないだけに否定もできない。

軍の指揮をできる人材として、過大評価されてしまった。

セリーヌが何をしたかったのかますますわからなくなった。

いつまでも考えていても仕方ないので、とりあえずもらえるモノはもらっておこうという結論に至ったわけだ。


「そろそろ始まるみたいだぞ」


パーティーの主催者である国王様が祝賀会場に現れる。

隣には王太子様とミリューゼ様が付き従っていた。

ミリューゼ王女はいつも以上に美しく、ドレスは誰よりも豪華だった。


「皆の者、よくぞ集まってくれた。

ここに集まってくれた者、我が国のため命を捧げてくれた者、全てが私の誇りだ。

そして今日はその中でも生き残り、多くの活躍をしてくれた勇者を称えたいと思う」


王様の横にいたミリューゼ様が名前の書かれた書状を王様に手渡している。


「では、今から名前を呼ぶ者は前に出よ」


パーティー会場にはこの国の重鎮達が集まっている。

文官の最高位である宰相や、武官の最高位である元帥も参列しているのだ。

この国を操る人物達の前で呼ばれたのは足った五人の人間だった。


「まずは、第一功労者である。第二軍総大将、ミゲール・アンダーソン。貴殿は此度の戦いで王国を勝利に導いた立役者である。誰も貴殿の活躍を疑う者は居らぬであろう」


第二軍総大将ミゲール・アンダーソンは公爵家の人間である。

今回の共和国との戦いでは、自身の考えた苛烈な作戦を数々成功させた。

その成果で王国に勝利をもたらしたことは誰もが知っていることだ。


「はっ!」

「貴殿には爵位は不要であろう。新たな領地と金3000とする」


すでに公爵家の長男として生を受けているため、家督が継がれることはわかっている。

そのため奪った領地の管理と言うかたちで褒美を取らせたのだ。

それは領地と領地経営に必要な金銭の授与という形でなされた。


「ありがたき幸せ、この身は王国のために」


アンダーソンは頭を垂れて、王様から書状を受け取る。


「第二功労者、第三軍司令官、セリーヌ・オディヌス。貴殿は共和国に救う魔族の討伐という多大な武勲を残した。王国の危機を未然に防いだのだ。貴殿の働き誇りに思う」


セリーヌはアンダーソンと同じ公爵家の人間ではある。

女性として生を受けたため、セリーヌは家督を継ぐことはない。

オディヌス家はセリーヌ以外に長男がいるのだ。  


「はっ!有難き幸せ」

「貴殿には金1000と名誉騎士の称号を授ける」


女性であるセリーヌに貴族としての爵位を与えることはできた。

しかし、男爵位を授かることをセリーヌが望まなかったため、報酬と騎士としての称号だけを贈ることで折り合いがついた。


「では第三功労者、第三魔法師団副師団長ヨハン。貴殿もセリーヌ・オディンヌと共に魔族の討伐。ガルガンディア要塞攻略の立役者である。よくぞ王国のために働いてくれた」


それは周囲の人間からは意外な名前であった。

平民が功労者になることはあるが、第三功労者として呼ばれることは珍しい。

ほとんどが将軍クラスの指揮官が呼ばれるのだ。

文官などはどうして平民がなどと騒ぎ始める始末だ。


「はっ!」

「貴殿には爵位を授けるものとする」


会場中に更なるどよめきがおきた。

平民が戦争の活躍で爵位をもらうなど前代未聞な出来事であり、もし、もらえたとしてもセリーヌのように名誉騎士と呼ばれる特別枠である。

一度の戦争で貴族の仲間入りをするなど考えられなかった。

もちろん名誉騎士のように武勲をたて、尊敬を集めた者はいる。

なにより、名誉騎士は一代限りの貴族階級であり、その子らは貴族としての地位を受け継ぐことはできない。

だからこそ、他の貴族達も寛容に接することができた。

しかし、ヨハンのもらった爵位は正真正銘の貴族の仲間入りする切符である。

この日を持ってヨハンは貴族への仲間入りを果たしたということだ。


「さらに、爵位を授けるにあたり二つのモノを授ける。

一つは我が国の貴族になるに当たり、ガルガンディアの名を授ける。

これからはヨハン・ガルガンディアと名乗るがよい」

「ありがたき幸せ」

「最後にガルガンディア要塞を貴殿の城として、周囲の統治をせよ。

初期資金として金300を与える」

「はっ!」


王様に反論できるはずもなく書状を受け取り元の位置へと戻った。


「第四功労者 王国第一騎士団従士隊所属 ランス。貴殿は共和国のゲリラ部隊を壊滅に追い込んだ功績を称える」

「有難き幸せ」

「貴殿には名誉騎士の称号を与え、我が国の騎士となってもうぞ」

「喜んでお受けいたします」


ランスが名誉騎士の称号を得て、晴れて騎士となった。

五人目はランスと共に戦ったルッツが名誉騎士に任命された。

以上の五人が最も国に貢献した者として称えらることとなった。


「おいおい。どこが俺と比べられないだよ」

「俺も驚いているよ」


本当に驚いている。セリーヌにハメられた感が半端ない。

明らかにセリーヌがもらい受けるはずだった物が渡されたような気がするのだ。

何より領地持ちになるなど考えていなかった。


「とりあえず、お互いに夢は叶えたな」


清々しい顔をしているランス。

ヨハンは困惑顔になりながら、ランスが夢を叶えたのだと思い出した。

自分のことでいっぱいいっぱいだった。

このゲームはランスが主人公であり、ランスが騎士になって王国を救う話なのだ。

ランスの旅は第一段階を終えたに過ぎない。本当の物語はここから始まるのだ。


「そうだな。俺は騎士を通り越して爵位をもらうことになったけどな」

「爵位はナイトの称号でもあるだろ」

「まぁな」


胸の内にいるヨハンは、ランスの成長を見届けることができた。

ここからは互いの道に進むために分かれていく。


ランスがどのルートを進むのかわからない。

だが、共通ルートを終えたランスはヒロインルートに突入していくのだろう。

そこにヨハンの存在は元々いないのだ。


「好きな女はできたのか?」


二人きりで話すのもこれが最後になるのだろう。

酒を片手にテラスに来たので恋バナを振ってみる。


「えっおい。いきなりなんだよ」

「お前もいい歳だろ。俺らも15を超えて成人は済ませたんだ。好きな女の一人や二人ぐらいいるだろ?」

「……気になっている子はいるよ」

「おっやっとだな」

「でも、上手く行くかなんてわからないだろ」

「そうだな。だから、頑張れよ。俺は王都から離れるからな。なかなか相談には乗ってやれないぞ」

「バカやろ。それぐらい一人でもできるっての」


親友と酒を飲みながらバカな話をする。

心は本当のヨハンと交じり合い。一つになったような気がした。


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あとがき


これにて第二章 共和国編完結となります。


変更した内容が大分増えてきました。

第三章でもどんどん変更していきたいと思いますのでどうぞお楽しみ頂ければ幸いです。


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