第50話 閑話 ランスとサクラルート 

王国第一軍は共和国の傭兵を相手にゲリラ戦を強いられていた。

騎士である彼らは突然現れる傭兵たちに翻弄されるばかりで、後手後手に回っていた。

王国第三軍が加勢したことで一気に戦況が変わる。

王国第三軍のサクラは諜報活動を得意としており、共和国の動きを事前に察知するように情報収集に努めた。

またサクラの情報を元にカンナが敵の中隊クラスを倒していくので、敵の数も減っていった。


これに気付いた共和国もバカではない、誰を叩けばいいか心得ている。

調査をしていたサクラを捕まえるために、暗殺部隊をサクラに向けて放たれた。

調査をしていたサクラはケガを負いながら、なんとか暗殺者から逃げのびた。


「おい!大丈夫か」


サクラが木にもたれて休んでいると、兵士が声をかけてきた。

第三軍の者であれば警戒する必要もないのだが、第一軍は男性ばかりの軍である。味方であっても自分のような女性に慣れていない者が多い。

そのため、たまに暴走する者がいるので用心しなければならない。


「私に構うな」


サクラは兵士から離れるために立ち上がろうとする。

しかし、足に受けた傷のせいで上手く立ち上がることができない。

倒れそうになったサクラの身体を兵士が支える。


「無理をするな。傷の手当てをするだけだ」


顔を隠しているサクラに、兵士は傷の確認をして手早く回復薬を塗り込んでくれた。

サクラが女性であることも察して、体を見ないように視線は極力サクラ以外に向けてくれている。


兵士がどうして顔を背けているのかと自分の身を見れば、服は破け肩や足が露出していた。恥ずかしい場所は何も見えていない。

それでも気遣ってくれる優しさと兵士の純情さがサクラには心地よく感じられた。

そのお陰で緊張の糸が緩んで、警戒を解いてしまった。 

兵士は持っていた腰袋から綺麗な布を取り出して、丁寧に汚れも落としてくれた。


「手慣れてるね」

「まぁ幼馴染がヤンチャな奴でよく手当してたからな」


サクラは顔こそ隠しているが、動きやすさを重視するため薄い黒装束をまとっている。兵士には肌にピッチリ張り付く服装だけでもドキドキしてしまっていた。

傷の手当てを終えると立ち上がった。

サクラは何かされるのではないかと警戒を強める。

しかし、兵士は纏っていたローブをサクラに投げかけた。


「傷の手当は終わった。熱もあるようだから水も置いておく。後は自分でなんとかできるか?少し休むなら見張りをしているが?大丈夫ならもう行くが」


兵士の気遣いにサクラは警戒したことを恥じる。


「……名前は?」


本来であれば名を聞くことなどない。

それでも傷の手当てをしてもらい、自分が警戒をしていることを悟って去ろうとしている。そのままにするほど礼儀知らずになりたくないと思った。


「ランスだ。第一軍従士隊所属だ」

「ランス……ありがとう。私はサクラ。礼はする」


サクラは水筒を飲み、意識を覚醒させる。

傷口を縛られたことで、漏れていた血が止まり、渇いていた喉が潤ったことで自分が冷静でなかったことを悟った。


「そうか」


ランスはそれ以上何かも聞いてこなかった。

口数の少ないランスの態度が、サクラには好ましかった。


「いく」


サクラは短く別れを告げ、その場を後にした。

共和国と第一軍の戦闘はすでに集結しており、第一軍が勝利していた。

そのおかげで敵の暗殺者もサクラに追っ手をかけられず退却したようだ。

サクラはカンナがいる本陣へと戻ることができた。


「なんだい、そのボロボロの布?」


カンナはサクラが腕に巻いている布を見て、そんな質問をしてきた。


「別に」

「ケガしたのかい?」


怪我をしたのは腕ではない。それでもこの布を持っていたいとサクラは思った。

腕に巻いて肌身離さずいようと思ったのだ。


「大丈夫」

「あんたから届く報告は雄弁なくせに、あんた自身は相変わらず端的だね」


カンナは頭を掻きながら、サクラの様子に困惑していた。


「必要ない」


サクラはしゃべる必要はないと、本陣を飛び出した。

すでに情報収集は最終段階に入っている。

セリーヌがガルガンディア要塞を落としたと連絡もきた。

近いうちに共和国は瓦解することだろう。


「はぁ~あたし達も引き上げ時だね。

あまりでしゃばって第一軍に睨まれても困るからね」

「退く」


カンナの言葉に短く返事を返した。ランスに思いをはせながら戦場を後にした……

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