第44話 本当の作戦会議
時間は少し遡り、ヨハンが作戦を言い渡され天幕を去った後。
総大将を勤めるセリーヌが目を開いてサクに視線を向ける。
ヨハンには知らせられなかった。作戦を伝えるように促していた。
「かしこまりました。では、皆さんにはこれから本当の作戦をお話しします」
サクの言葉にトリスタントは無表情な顔をピクリと動かした。
「どういう意味でしょうか?サク殿」
「だから言っているではないですか。邪魔者がいなくなったと。
あんな平民の小僧には無駄な働きをしていてもらえばいいのです。
私達が本体です。我々が活躍するために彼らには行動を別にしてもらう必要があったのです」
サクの言葉にまったくの感情は読み取れない。
とういうことはサクは誰かにその言葉を言わされているということだ。
トリスタントはそこまで思い至りセリーヌを見る。
しかし、セリーヌは目を瞑った黙していた。
トリスタントは自分付きの従者にミリーに警告を伝えにいくように促した。
「トリスタント!何をしようとしている?」
黙っていたセリーヌがトリスタンとの行動を咎めた。
「お茶の準備を頼んだだけです。ここまでサク殿を含め話していて喉が渇きましたので」
「それならばいいけれど。余計なことはしないでね」
妹だけではない。姉であるセリーヌも平民が嫌いなのだ。
ミリーは下級貴族であり立場的には平民と変わらない。
ヨハンの部隊に編成されている者は、ミリューゼ隊でも下級貴族がほとんどだった。
「何も致しません」
トリスタントは、それ以上動くことはなかった。
従士は、数分もかからずお茶を用意して戻ってきた。
セリーヌも従士の素早さに疑いを止め、元のように腕を組み目を閉じた。
「では、小休憩も終えたところで、本題に入りたいと思います」
二人の小競り合いのような雰囲気が止んだところで、サクは何もなかったように話し始めた。
「すでに我々の密偵がガルガンディア要塞内に入り込んでおります。
我々が一週間の間この場に留まれば密偵により、中から門が開けられることでしょう」
「では、何の動きもしないということですか?」
サクの言葉にトリスタントは何のためにここまで一万三千もの兵を連れてきたのかと憤りを覚えた。
「いいえ、あなた達にもちゃんと働いてもらいます」
サクではなくセリーヌがトリスタントの疑問に答えた。
それは狂気に満ちた笑みであり、トリスタントは六羽に属する女傑を恐ろしさを知ることになった。
♢
ガルガンディア要塞内会議場に人影はない。
薄暗く光がまったく入らない会議場で、六つの赤い目だけが光を放つ。
「ふふふ、ここは素晴らしい狩場だね」
女性の声が部屋の中に広がり、声に反応するかのように銀色の細い線が煌めく。
「この要塞を根城にもらったことを感謝しないとね」
廊下を歩く兵は息を潜め、歩く音さえも消すように静かに扉を通り過ぎようとする。
それでも、どこで気付いたのか突然開いた扉から白い糸が兵士を飲む込む。
「つれないねぇ~ここにいる子達は全てあたしのもんだろ。
そんなにビクビクするもんじゃないよ」
松明を持っていた兵士が落とした光によって、赤い目の輪郭がはっきりと映し出される。すでに松明の持ち主は事切れ息はない。
映し出された影は上半身は美しい女性であり、妖艶な雰囲気すら漂わせている。
普通の女性と違うところがあるとすれば、額に小さい四つの目があり、六つの目が怪しく光を放っていた。
一番の特徴と言えば、上半身が人間の女性に対して、下半身が蜘蛛の足と胴体をもっていた。
アラクネ、彼女の種族はそう呼ばれる蜘蛛人間なのだ。
「あんた面白い情報を持っているね」
アラクネは兵士が持っていた密書を手に取りにやりと笑う。
そこには兵士がこの密書を外にいる仲間へと渡そうとしているところだった。
内容にはこう書かれていた。
城の門を一週間後に開くというものだ。
「面白いじゃないか。この情報を使わせてもらうよ」
楽しそうに笑うアラクネに応える者は誰もいない。
それでも彼女は一人で笑い続ける。
来る一週間後の楽しみを思い浮かべて笑いが止まらない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あとがき
内容が短めでしたので、あとがきを書いてみました。
小説家になろうと大筋は同じ内容なのですが、書き方や内容を多少いじり始めています。
気づかれた人はいますか?楽しんで頂けていたら幸いです。
【キシナリ】も随分と進んでまいりました。
レビューの★を+でポチポチしてもらえたら物凄く嬉しいです。
どうかよろしくお願いします(^-^)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます