第43話 ジョブチェンジ

 共和国側に潜入する方法は三つ存在する。


 戦争状態であっても、抜け道はあるものだ。その一つが商人だ。武器、食料、人。戦争をするからには必要な物は多く存在する。 


 また、大義名分をもって通ることができる商人ほどではないが、冒険者は仕事の依頼として戦争に関与しないことを条件に国境を超えることができるように協定が結ばれている。


 最後に敵の目を盗んで国境を超える方法だが、そのためには危険な魔物が多く生息する森を抜けなければならない。


 今回、俺が使った方法は二つだ。


 部隊の400を森攻略に当て、残り百を商人として森を超えた。商品となる物資はアイテムボックスから出すことが出来たが、100人もの人数を全て商人だと言い張るのは難しい。そのため、今回の商人は食料と奴隷を設定にした。

 商人と付き人が合わせて20名。奴隷が80名と言うわけだ。


 ヨハンが商人として、門番の意識を注目させている間に、ミリーには別動隊として魔物の森攻略を行ってもらう。


 幸い、国境を隔てる魔物の森は人の手が入っているので攻略が行いやすい。共和国側に回り込めれば、森に拠点を作り合流する手筈になっている。

 見知らぬ土地ではあるが、図書室に国境沿いの地図が存在していたので、拠点とする場所も予め決められた。


 ヨハンはレベル上げをしたことで得たスキルポイントによって、ジョブチェンジという特殊ステータス項目を習得した。

 ジョブチェンジはステータスに表示されている職業を変更できるものであり、職業を変更することで得られるスキルに変化が生まれるのだ。


特 殊 ジョブチェンジ


 ステータスに新しく表示された特殊はステータス画面の職業を変えることができる。


 特殊を得て新たに分かったことがある。

 ヨハンのメインジョブは冒険者3である。サブ1に斧戦士5、サブ2に魔法師1が配置されていた。

 それぞれの補正として、冒険者は俊敏性が上がりやすく。探索系のスキルが習得しやすい。

 戦士はスマッシュのような戦いの技を閃きやすく、体力や攻撃力を上げてくれる。魔法師は知力と魔力アップだ。魔法を覚えやすくなり、魔力消費も抑えてくれていた。


 職業により、覚えられるスキルが違うように職業によって補正も違っていたのだ。それを理解した上で、ジョブチェンジである。職業はスキルポイントを使えば新たに覚えられる。

 覚えたジョブはいつでも配置を変えることができるので、これから重宝していきたい。


 まだ解禁されていないが、ジョブにもスキルと同じで熟練度が存在するので、熟練度を上げれると上級職が開かれる。

 さらに、特定条件を満たすことで特殊ジョブも得られるようだ。


 例をあげるとするなら、騎士の熟練度と僧侶の熟練度を両方上げることで、聖騎士のジョブが開かれるらしい。条件が書かれていて理解できるものもあればそうでないものもある。


 こうして、メインジョブ商人。サブジョブ1奴隷使い。サブジョブ2冒険者に設定することで共和国側の国境を商人として突破した。

 多少、見た目綺麗なミリューゼ配下の魔法隊や騎士隊に手を出そうとする共和国軍人に手を焼いたが、何とか無事に国境を超える検問を突破することができた。 


 検問を通過すると、共和国側の地理を調べるため、魔導師隊に探索の魔法を使ってもらって地理を書きだしていく。


 ジョブチェンジの職業に地図作成師があったので習得してみれば、地形の高低差や、敵、魔物の位置などが理解できるようになった。マッピング機能が付いたジョブのお陰で地図を描くのが上手くなった。

 戦闘に向いていないジョブだが、現状のような状況には適している。


「これが地図です」


 一日掛かりで作り上げた四枚の地図を作る頃にはミリーの隊が合流していた。無事に国境を超えられたようだが、疲労が溜まっていたので今は休んでもらっている。


 その間に、ヨハンは共に国境を超えた騎士たちの人たちを使って、隊を四つに分けるため地図を配ることにした。

 それぞれ125名で分かれ、100名を騎士と従士、25名を魔導師で構成している。


「へぇ~凄いもんだね」


 休憩から戻ったミリーが地図を見て感心した声を上げた。


「細かな地形などは現場で確認してください。これで完成と思わず、違いを見つけた場合は書きこむようにしてください」


 ここまで完成した地図をミリーは見たことがない。それこそ、目的地と現在地が書かれた紙に、適当な道と目印を書き込んだ物を地図だと言われてきた。

 それが、地形の高低差や敵の位置。存在する道の存在まで書かれている精密な物に驚てしまう。


「こんなにも精密にかけるかね?」

「別にミリーさんが描かなくてもかまいません。誰かそう言うのが得意な人がいないか部隊で話し合ってください」

「分かったよ」


 ここにきてヨハンに異を唱える団員はいない。料理で胃袋を掴み。国境越えから地図作成までヨハンの能力の高さは団員が認めることとなった。


 部隊を四つに分けるため、今回はヨハン、ミリー以外に二人の人間が作戦会議に来ている。褐色の肌に黒髪は王国内では珍しいタイプだ。名前はガーナさん。

 無口な人だが、食欲旺盛でヨハンの食事を一番楽しみにしてくれている人物である。


「ガーナさんも問題ないですか?」

「問題ない。今日のご飯は何?」


 何故、今その質問なんだろうか。


「ガーナはあんたの作る物を気に入ったみたいだよ」

「えっと、後で全員分を作ります。手伝いができる人が居たら寄越してください」

「わかった」


 ガーナは言葉短く答えると、その場を離れて行った。


「あいつは、作戦より飯みたいだね」


 ミリーはガーナの態度に大きい声で笑っていた。ガーナさんが去っても、他の二人は気にしていないようだ。ふくよかな身体におっとりとした物腰をしたマリルさんも微笑んでいる。ミリーやガーナとは違って、大人な雰囲気を持っている人である。


「ガーナちゃんはまだまだ食べ盛りですからね」

「お前が言うなマリル。なんで騎士なのにその体型なんだよ」

「これがベストな体型だからですわ。私はこれ以上痩せてしまうと色々と不都合がありますの」


 確かに女性の中にはふくよかな体型じゃなければ、貧血や病弱になる人がいる。そういうことなんだろうと勝手に思っておく。


「それで、今の話は大丈夫なのか?」

「もちろんです。私も絵を描くのは得意なんですよ」

「まぁそうだな。お前の絵は確かに上手い」


 マリルの趣味は絵を描くことらしい。この体型だから料理かと思ったが、料理は食べるのが専門で作るのは苦手だということだ。そのためヨハンの料理のファンの一人である。


「では、私も隊長殿の料理ができるのを心待ちにしておりますね」


 マリルさんには商人の手伝いもしてもらっているので面識がある。料理のことを言われるとヨハンとしても作らずにはいられない。

 500人前の料理をどうして隊長が作るのか不思議なことだ。ジョブチェンジを手に入れたヨハンはメインジョブに料理人を添える。料理人は、包丁、短剣、ナイフの扱いが上手くなり、火の魔法が使える。

 さらに、自分で作った料理や他人のレシピを暗記しておくことができる。


「なんだか、一番こき使われてる気がするのは気のせいかな?」

「ははは、偉くなったら一番働くのが常識だろ」

「なんか意味違うくないですか?」


 ヨハンの言葉にミリーとマリルは笑っていた。

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