第39話 商人
セリーヌからの報酬として、500人分の食料費をもらうことになった。
王都の商人と言えば、露天商たちだが。
正直ここで500人前の準備ができるはずがない。
それでも情報を揃えるのにここほど適した場所はない。
「おう。ヨハン今日も来たな」
「ヨハンちゃん。今日は何を買ってくれるんだい?」
露店商街は俺が足を踏み入れただけ声をかけてくる。
第三魔法師団に所属するようになって、実入りは良い。
臨時収入も多く入るようになったのでお金に困らなくなった。
それでも無駄な物にお金を使う気はない。
「今日は、オッチャン達に聞きたいことがあってきたんだ」
「おっ、なんだ?今日は500人隊長記念だからな何でも教えてやるぞ」
「なんで知ってるんだよ?」
「商人の情報舐めんなよ」
露天商でもさすがは商人である。軍事機密が駄々漏れになっている。
オッチャンは悪戯を成功させた子供のように笑っていた。
オバちゃんも後ろでクスクス笑っている。
「じゃあ丁度いいや。今日はその商人の情報をあてにしに来たんだ」
「おっ!面白そうだな。何が知りたいんだ?貴族様達の裏取引の場所か?
それとも騎士様達の逢引きスポットか?なんでも教えてほしいことなら教えられるし調べてほしいなら集めてやるぞ」
商人の情報はどうなっているのだろうか?一回全部聞いてみたい。
今はゴシップ記事よりも大切なことがある。
「いや、今回は二日後に出撃を控えているからな。そういう話はまた今度教えてください」
最後はなぜか敬語になってしまった。
ミーハーで何が悪い。俺だって貴族のゴシップとかデートスポットが気になる。
「それじゃあ何が知りたいんだ?」
「この辺の露店商をまとめている商人のことを知りたいんだ。
ちょっとまとめて商品を買いたくてね」
「大量買いか……確かにうちじゃ集められても100人分が良いところだな。
隣近所を回ってそれが限界だ」
「今回は500人分の食料と調味料を一月分欲しいんだ。
それと300人分の衣類を三日分ぐらいもね」
「いったい何するつもりなんだ?」
自分のお金で無駄な物は買いたくない。
それでも人の金だと思えば思う存分に使ってやれる。
セリーヌに下知はとってある。
仕事に関することならば絶対に叶えてくれると言っていた。
この買い物は今回の任務に必要なことだ。
使ったお金は全て請求させてもらう。
それが無かったら意地でもジェルミーに押し付けたけどな。
「ちょっと戦争しに行ってくるんだ。その時に必要でね」
「第三軍も出るのかい?」
すでに一カ月が経っているのだ。
商人の情報網があれば、第一、第二が出撃していること。
共和国と膠着状態であることも知っているのだろう。
だからこそ第三軍も出るとなると、負けていると判断して不安になってもおかしくない。
「ミリューゼ様率いる本体は王都を護るために残るよ。俺は別働隊なんだ」
「はぁ~そういうことかい。なら元締めのヤコンさんを紹介してやるよ。
この辺じゃ商人ギルドのギルドマスターもやってるからな」
ヤコンと呼ばれた商人への紹介状を受け取る。早速商人ギルド本部へと向かった。
商人ギルド本部は小規模デパートのように大きく。
三階まで買い物ができるようになっていた。
四階からは事務所としてヤコンと事務関係の職員が使っている。
見張りをしているオッサンに紹介状を渡し、ヤコンと対面した。
「あなたがウイの紹介のヨハンさんですね」
ウイとは露店商のオッサンの名前だ。
「はい。ヨハンといいます」
「知っていますよ。王都第三軍魔法師団副団長殿ですね」
「はい」
「驚かれないのですね?大抵の人は素性をこちらが言うと驚くモノなんですが」
「ウイさんで慣れていますから。どうして知っているんだということを商人の方は知っていますからね」
俺の答えにヤコンは頷く。
握手を求めるように手を差しだされた。
「あなたは聡明な方なようだ。それで?今日はどういった用件で起こしですか?」
「500人分の食料と調味料を一月分。300人分の衣類を三セットほしいのです」
「相当な量になりますね。どう使われるか聞いても?」
「共和国との戦争に使うとしか答えられませんね」
「ふむ。確かに現在は戦争中です。今の内容の物がどうして必要なのかという説明にはなっていないと思いますが」
ヤコンは鋭く試すような視線を俺に向ける。
「それを説明する必要がありますか?」
ヤコンの鋭い視線に対して不敵に笑いながら聞き返した。
「全く必要ありません。私共から商品を買っていただけるなら、それは全てお客様の自由です。あなたが気にいらないから売らないと突っぱねることはありません」
「それを聞いてよかった」
ヤコンに腹の底を見せてもいいかと言葉を続ける。
「私は六羽を信用していません。ですから自分で用意するのです」
それは王女様への反逆発言にも取れる言葉であり、ヤコンも聞いた意味を噛み締める。
「お人が悪い。六羽は我が国が誇る貴族のご令嬢や騎士様のご息女さまですよ」
ヤコンの事務所だと言っても、誰が聞いているかわからない。
慎重に言葉を選びながら、俺を咎めるような言葉を発する。
「そうですね。では、あなたから商品を買うことはできないと?」
「いえ、そんなことは申しておりません……」
「まぁ今のは冗談です。あなたが俺を試すような視線をしていたので、こちらも試させて頂きました。子供の戯言と笑ってやってください」
そう言って言葉を否定しておく。
ニッコリと笑ってやると、ヤコンは今まではとは違う顔になる。
「本当にお人が悪い。あんな言葉をこんなところで話すとは。
あなたの度胸に感服いたしました。ご協力させていただきます」
ヤコンは二日以内に注文したした物を届けてくれるという。
出陣式前には受け取れることになった。
「よい取引ができました」
「ええ、これからも末永いお付き合いを」
最後は来たときと同じように握手を交わして、事務所を後にした。
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