第34話 閑話 リンはお供します

 リンはお供します。


 これは私がまだあの方に出会う前の話。


 私の家は大家族です。弟も妹もたくさんいて、いつもみんなお腹を空かせていました。お父さん、お母さんは、二人とも働きに出ているので、兄弟姉妹たちの世話をするのは私の役目でした。

 ですが、いくら両親が働いてくれていても金が足りません。

 

 12歳になった私は両親を助け、兄弟姉妹がお腹いっぱいにご飯が食べられるようにするため冒険者になる決心をしました。

 幼い私では他の仕事についても多くの金銭を稼げないと思ったからです。


「とっ登録お願いします」


 弟たちなら、男性でも話すのは恐くありません。


 ですが、冒険者ギルドにいる大人の人たちは恐くて見ると言葉が出てきません。特に男の人は恐くて仕方ありません。

 それでも冒険者として登録したことで薬草採取や、お使いなどの任務をすることでお金を稼げるようになりました。

 魔法を使う仕事ではありませんが、危なくない仕事もあって一安心でした。


 仕事を始めると、助けてくれる人にも出会いました。フリード君と言って、私と同い年の男の子です。

 12歳から冒険者登録をしているのは、私と彼だけで同い年ということで、陽気に話しかけてくれます。


「魔法を使えるっすか?凄いっす」


 彼はよく私を褒めてくれます。シーフの職業に就いていて、俊敏性アップと短剣のスキルを持っているそうです。今は修行中で、罠解除や鍵開けも覚えているところだと言っていました。

 薬草を採取しているときに彼のナイフがゴブリンを倒すのを見て、スゴイと伝えたこともあります。


「ナイフ?まだまだっすよ。おいらが目指しているのはS級っすからね。鍛えるっすよ」


 謙虚な上にフリード君には目標があって凄いと思いました。私は家族のためにお金を稼いでいるだけです。

 フリード君のように目的なんて何もありません。


 私が使える魔法と、私ができる仕事で、家族が食べていけたらそれだけでいいのです。そんなときにフリード君から、ある任務を一緒にやらないかと相談を受けました。


「向こうは見習いでもいいって言ってくれてるんすよ。しかも報酬がメチャクチャいいっす。戦闘は極力しなくてもいいって言ってるっす」


 フリード君の相談は自分たちよりもランクが上の人と依頼を受けることでした。依頼書を見せてもらい見習いでもいいとは確かに書いてありました。

 しかし、戦闘が少ないというのはフリード君の嘘だとすぐに気づきました。依頼内容が山賊退治です。戦闘をするのが決まっている依頼です。

 いつもお手伝いしかしていない私にできるとは思えません。


 依頼内容をもう一度見ると、二人のC級冒険者のサポートでした。見習いを求めるなんて、いったいどんな人だろうと恐い反面興味もありました。


 どうしたらいいのか悩んでいる私は報酬の項目に目を止めて驚きました。依頼達成の暁には成功報酬の全てをサポートに渡すと書かれていたのです。

 E級の私では到底手に入らない金額が、C級では得ることができるのです。もしそんなお金が手に入ったら、弟や妹がお腹いっぱいご飯を食べられます。


 私が一年間薬草取りをしたところで稼げるかどうかわからない金額。私は唾を飲み込み。フリード君と一緒であることを考慮して承諾しました。


「こちらが、C級のランスさんっす」


 フリードに紹介されたのは、私達よりも少し上のお兄さんでした。優しそうな人で一安心です。大人の男の人ほど恐くはないです。

 ですが、C級冒険者と言うことはとても強い方なのだと思うと緊張してしまいます。


「はっ初めまして、リンです」

「ああ、ランスだ。急な求人だったのに来てくれて助かるよ」


 爽やかに笑うランスさんは、悪い人じゃないと安心できました。


 しかし、もう一人仲間がいると言うので、三人で連れだって集合場所に行きました。不機嫌そうな顔で立っているランスと同い年くらいのヨハンさん。

 ヤンチャそうな顔に大きな斧を背中にぶら下げているのに、服装はローブとアンバランスな人でした。とにかく顔が恐くて不安です。


「ヨハン、仲間を連れてきたぞ」


 ランスさんが声をかけても、その人は返事もしませんでした。凄く怒っているようで、私は大丈夫だろうかと不安に思いました。

 ランスさんを一目見ただけで、その人が歩き出したので私たちもついて行きます。


 それから二日ほど歩く間一言も話さないので、ずっとランスさんが私達に話しかけ橋渡しをしてくれていました。

 そして、ようやくその人が私達に話しかけてきました。


「それで何ができるんだ?」

「やっと話してくれるっすね。おいらはフリードっす。フリーって呼んでほしいっす。職業はシーフで探索が得意っす。鍵開けとかは特訓中なので、成功率が低いっす」


 フリード君が嬉しそうに自己紹介を始めた。私にも視線を向けられるので、必死に言葉を絞り出しました。 


「わっわたしは……リンって……いいます。あの~その~魔法使いで……火の魔法が使えます……一応中級まで、あと風も」


 ちゃんと言えたかわかりません。それでもヨハンさんは、溜息を吐きながらも私達が同行することに同意してくれました。

 どうやらサポートはランスさんが勝手に依頼を出したようで、ヨハンさんは知らなかったようです。

 ヨハンさんは怒ると恐いと人だと私は委縮していました。


 それからは山賊を探すために山に入りました。とても険しくて、何度も帰りたいと思いました。

 そのたびにヨハンさんは無言で私を気遣ってくれていました。私が転びそうになると、腕を掴み支えてくれ。進み難そうな道は斧で切り開いてくれるのです。

 憎まれ口を言いながらも、この人は優しい人だと段々と理解しました。そして移動も二日目の晩になり、夕食の時間になりました。


 元々お金に余裕のない私とフリード君はマズくて硬い黒パンでお腹を膨らませるつもりでした。

 しかし、ヨハンさんがどこから出しているのかわからない調味料や食材を使って簡単なスープを作ってくれました。

 そのスープが美味しくて黒パンと一緒に食べているはずなのに、黒パンが美味しいのです。

 硬い黒パンだからこそ、味の濃いスープが染み込んで本当に美味しいのです。


 一日だけでなく山に入ってから、ヨハンさんは毎晩スープを作ってくれました。暖かい食事が食べられて、いつもより元気になったような気がします。

 他にもスープに乾麵を入れたり、トマトとトウガラシを加えた体が温まるスープだったり始めて食べる物ばかりでした。

 どれも食べたことがないほど美味しくて、弟妹たちにも食べさせてあげたい。自然とヨハンさんが作るご飯に私は魅力されていきました。


 私はどこかで浮かれていたのかもしれません。疲れて足がふらつき、私は足を踏み外してしまいました。


「リン!」


 落ちていく私をヨハンさんは迷いなく助けてくれました。飛びこんで抱きしめてくれたのです。落ちていく間もどこかで私は安心していました。

 

 ヨハンさんなら私を助けてくれる。


 落ちた先に居た山賊さん達を見て慌てはしましたが、ヨハンさんが私を庇ってくれました。後ろに隠して、山賊さん達と話をしています。

 私が恐くて泣いてしまっていると、ヨハンさんがとんでもないこと行ってきました。


「魔法は使えるか?」

「ここでですか?」

「ああ、特大のファイアーボールを作ってくれ」


 ファイアーボールの特大?どうやって作るの?わからない。魔法は唱えたらそれで終わりじゃないの?


「要はイメージだ」


 ヨハンさんに言われるがままにファイアーボールを作り出して魔力を注ぎ込む。


 大きくなーれ、大きくなーれ。


 ヨハンさんが山賊さんと話している間に、私は巨大なファイアーボールを作ることができました。

 でも、正直にいえばもう支えられない。暴走しちゃう。


「今だ!」


 ヨハンさんの声でファイアーボールを手から放ちました。ですが、遅くて進まない。やっぱり失敗したんだ。


「ぎゃはは、そんなものが当たると思ってるのか」


 山賊さんの言うとおりです。こんな遅いファイアーボール意味がない。


 私がそう思っていると、ヨハンさんは両手に魔法を発動させて私の魔法と合わせて山賊さん達に攻撃しました。

 魔法を二つも!ヨハンさんが、そんなことができるなんて知らなかった。目の前で繰り広げられている出来事が信じられなくて、私が唖然としてしまいました。

 山賊たちの後ろからフリード君と一緒にランスさんが現れて、山賊を倒してくれました。


 その後はメイちゃんのお世話したり、スパイとして捕まったり大変でしたけど。任務を終えた私が思ったことは、ヨハンさんについて行こうでした。

 優しくて、ご飯がおいしくて、魔法の使い方をたくさん知っていて、でも不器用なヨハンさんから目が離せないから。


「リン、行くぞ」

「お供します」


 私はヨハンさんの行く所についてきます。

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