第35話 会議

 共和国から二度目の宣戦布告がなされたのは、ヨハンたちが帰って来てから三日後の事だった。

 魔物を使役している共和国を警戒して、王国側は防備を固める決断をした。


 戦争が開始されて、すでに一月が経とうとしていた。最初こそ共和国の奇襲に苦戦していた王国軍であったが、辺境伯から得た情報のお蔭で浮足立つことなく迅速な対応が取れたことで盛り返し始めていた。


 共和国は三つの拠点を軸に王国へ進行を開始していた。防備を固めたことで戦線は均衡状態になり、王国側は次の一手を打とうとしていた。


 開戦当初は王国の南、イルム平原で激しい戦闘が行われていた。


 共和国の執拗なゲリラ戦法によって平原の戦いから村を護る防衛線に変わり、また共和国側に奇襲をかけた第二軍の成果により、それぞれの軍は攻撃と防御と二面戦争となった。

 王国内は第三軍である姫将軍に防衛の要として中央を固めさせ、攻撃を第二軍、防御を第一軍が遊撃として務める形で戦闘が行われている。

 第一軍はゲリラ的に表れる共和国の傭兵部隊を各隊が分散することで対応してみせた。


「ランスの時代が来たな」


 そんな情報を聞いた俺は嬉しくなっちまう。ゲームシナリオが本格的に始まったのだ。ランスにはメインヒロインが五人存在する。


 一人は言わずと知れた我らが姫将軍である王女ミリューゼ様だ。二人目はパン屋の娘であり、平民のメリル嬢。そして獣人王国の姫君であるティア姫だ。


 現在出現している三人の他に二人の攻略対象が存在する。まぁこれからのランスの活躍次第だが、ランスが出世することで彼女達とのイベントが発生していく。

 

 そのために共和国との戦争は必須事項だった。


 まぁそんなことを思っていた時もあったさ。しかし、この状況はどういうことだ。


「うむ。この作戦で本当に大丈夫だろうか?」

「ミリューゼ様、私としましては……」

「なぁここの傷は治るか?」

「古傷は、定着してしまっているので魔法では無理ですね」


 勝手におしゃべりしまくっている人々に目を向ければ、左を見ても右を見ても女性、女性、女性である。

 六羽プラス一とミリューゼ様の会議になぜか参加させられているのだ。


 それもこれもジェルミーのせいである。


「団長、今回は何の用ですか?」


 報告を終えたヨハンの休暇もそこそこに団長であるジェルミーに呼び出されて団長室にやってきていた。

 書類仕事に追われているジェルミーが顔を上げてヨハンを見る。


「来たか。ヨハンに重要な案件を頼みたいんだ」

「重要な案件?」

「そうだ。共和国との戦いが始まって、すでに一月が経つ。そろそろ王国としては膠着状態を脱したい。そこで第三軍が動くことになった」

「そうなんですね」

「ああ。それでなんだが、君には私の代理として魔法師団の指揮を任せたい」

「はっ?」


 ジェルミーの言っている意味が分からず聞き返す。


「だから、君には私の代わりに魔法師団の指揮を任せたいと言ったんだ」

「俺って副師団長でしたよね」

「そうだよ」

「俺って新参者ですよね」

「そうだね。でも、君は冒険者として経験豊富だろ?研究者であるここにいる他の者に比べれば君の方が優れていると思うよ」

「俺みたいな若造に皆さん付き従いますかね?」

「それは問題ない。みんな君のことを可愛がっているからね」


 そうなのだ。第三魔法師団のメンバーは、ほとんどが俺より年上だ。しかも魔法使いとしても俺を可愛がってくれている。親切に色々と教えてくれる。

 まぁ自分の実験を人に披露したいだけだともいえるが、俺としては色々な魔法が見れて勉強になる。


「反発とかは……」

「最大の反対勢力であったマルゲリータ団長がいなくなったからね。表だって反対する者はいないよ」


 ジェルミーにはどうやら外堀を埋められているらしい。


「わかりました。わかりましたよ。それで、俺はまず何をしてらいいんですか?」

「そうだね。差し当たって、会議への参加かな」

「会議?」

「そう。ミリューゼ様が会議をお開きになる。本来であれば、六羽の方々とミリューゼ様で開かれるんだけど。今回は騎士師団と魔法師団の団長が変わったからね。会議に呼ばれているんだ」

「それってジェルミー団長が参加しないとまずいのでは?」


 俺の素朴な疑問に、ジェルミーがにやりと笑う。


「すでに君を代理にたてることは告げているよ」

「相変わらず、根回しとか裏で動くのが好きですね」

「そうでもないさ。貴族としての嗜みだよ」

「はぁ~それで、会議はいつですか?」

「今晩だ」

「はっ?」

「だから、今晩だ」

「なんの心の準備もできてないんですが」

「君には必要ないだろ」

「俺をなんだと思ってるんですか」


 大きく息を吐いて、逃げれないことを悟りながらも愚痴ぐらいは溢したい。


「う~ん。面白い質問だね。君は僕にとって僕の人生を豊かにしてくれる存在だと思っているよ」

「明らかに面白がってますね」

「もちろん」


 肩を落として団長室を退室した。


 王女様の前に出ても恥ずかしくない格好など、第三軍から支給される緑色のローブぐらいしかない。


 会議が開始される時刻になり、指定された場所に参上してみればそこはお茶会でも始まりそうな綺麗な花が飾られている談話室だった。

 温かければ外でお茶を楽しむこともできる優雅な雰囲気のテラスもある。


「来たわね」


 眼鏡キノコが現れた。談話室の前にはマルゲリータ元魔法師団長殿が待ち構えていた。何故か怒っているように腕を組んで仁王立ちしている。


「はぁ~お久しぶりです。マルゲリータ団長」

「私はもう団長ではないわ」

「はぁ~」

「何っ!その気の無い返事は?ハッキリしなさい」

「いえ、相変わらずだなぁ~と思っただけです」

「ふん。あなたで最後なんだから早く入りなさい」


 あなたが邪魔だったんですがね。


「では、失礼して」

「ちょっと私を押し退けて入ろうとしないで」


 早く入れって言ったり入るなって言ったりめんどくさい人だ。


「じゃあ、先に入ってください」

「ふん。当たり前よ」


 眼鏡キノコがプリプリしながら扉を開ける。扉を開けると中から甘い花の香りが風に乗ってやってくる。


 とまぁ、最初こそドキドキしたが、現在に至る訳で……


「皆さん聞きなさい!」


 一番年上そうな女性がテーブルを叩いて大声を張り上げる。この会のまとめ役をしているらしい。セリーヌ様だ。


「あなた達、いい加減にしなさい。ここは会議場です。勝手にお話ばかりして、談話がしたいなら他所でやりなさい!」


 セリーヌ様は六羽の長であり、ミリューゼ様の副官も務めている。真面目な委員長タイプと言ったところだ。


「現在我々にはある任務が言い渡されています。ムダ話をしてる暇などないのですよ」


 セリーヌ様の一喝に一番無駄話をしていた。元騎士団長殿と、聖女と呼ばれている聖グリット教のシスターが一番頷いていた。


「あなたたちのことです」


 指を指された二人はニヤニヤと笑っていた。


 大丈夫なんだろうか?この人たち……

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