第33話 密談
共和国某所にて
テーブルを囲むように三人の人物が席についている。
共和国内に住んでいる者ならば、この三人が一堂に会するなどありえないと誰もが言うことだろう。
黒いローブに身を包んだ怪しげな男は、黒太教の教祖をしている。
闇法師と言われる人物であり、信仰も特殊故に共和国内でも危険視されている人物だ。
闇法師の向かいに座るのは、共和国を中心に傭兵家業で一代を築き上げた傭兵王ビスタである。戦場を渡り歩き今の地位を手に入れた豪傑である。
最後に残った人物は、大商人のドン・アスタークという。
闇商人の肩書きを持ち、違法武器から人身売買まで売れるものであれば何でも取引している恐ろしい人物だ。
「よくぞ御出で下さった友たちよ」
主教、戦争、商売、それぞれの立場がある三人は共和国では大物であり、決して相容れない闇のドンである。
そんな三人を会見の場に引きずり出したのは、闇法師であった。
大仰に両手を広げながら話を始める。
「何が、友だよ。前回の戦闘ではケチクサい予算で、相手を牽制してこいとか言いやがって、まぁ化け物どもを貸してくれたからな。
あれのお蔭で俺の家族に被害はないがな」
前回、共和国が仕掛けた戦争は闇法師の依頼であった。
ビスタは、モンスター使いを護衛する役目を担っていた。
いくつか闇法師の手下を差し向けられ、モンスターの指揮官としていたのだ。
「うむ。前回は余計な邪魔が入ったせいで、思った以上に情報が少なくなってしまった。しかし、そこから得られた情報を元に今回は十分な改良をしている」
「へっ、俺達に被害が無ければ問題ねぇよ」
ビスタは家族を大切にする男である。
その代り、裏切り者と自分の敵には容赦はなく。
傭兵の家族を食べさせるため、闇法師の依頼を引き受けていた。
前回はモンスターたちを使って王国に攻め入り、戦略家であるビスタの戦略にモンスターがどれほど使えるか試していたのだ。
「まぁアイツらも十分に動いてくれるしな。駒としては丁度いい」
モンスターたちは個でも強力な強さを発揮する。
闇法師の手下が操ることで連携も取れ、その力は野生のモンスターよりも厄介になる。
そのため危険な任務から、攻めるのが難しい要所に責め入り王国軍と渡り合うことができた。
途中から参戦した。第三軍の加入があったため、状況は崩れてしまったが。
ビスタはそれなりの手ごたえを感じていた。
「うむ。また総大将をお願いしたいがよろしいかな?」
「おうよ。次こそ王国の奴らを蹴散らしてやんよ」
「それで、どうしてワシは呼ばれたのかな?」
大商人と言われているが、身体はやせ細り、窪んだ瞳はどこまでも深い闇が見える。お世辞にも裕福そうな大商人には見えない。
しかし、その目は全てを見透かすように、常に人を見ている。
この男が共和国の闇を背負い、ドン・アスタークと呼ばれていることも事実なのだ。
「アスターク殿にも今回の話に関与して頂きたいのです」
「ワシがこの男と手を組むと思うのか?」
戦闘狂であり、浪費家のビスタのことをアスタークは嫌っている。
悪と悪、同じ人種に見えて目的が大きく違う。
生理的に合わない。人として好きになれないと互いに思っている相手だった。
「組みますとも。今回の戦闘にはそれだけの利益がもたらされる。
大商人のあなたがそれを無視できるとは思いません。前回同様ね」
闇法師の意味深な言葉にアスタークはニヤリと笑う。
「利害が一致しておるということか……」
「はい。ビスタ殿が表舞台、アスターク殿が裏方、そして私が出資、提供者としてご協力致します」
闇法師の言葉には甘美な響きが含まれている。
戦闘を求める傭兵王は新たな戦場を得て、戦いに赴くことができる。
それも国をかけた大戦となれば血が滾る。
それと同時に戦争という大事業ほど儲かるものはない。
食料、武器、防具、何を揃えるためにも金がいる。
その金が湯水のように提供されると言うのであれば大商人として願ってもないことだ。
提供と口にした闇法師自身もモンスターを使いあることをしようとしてる。
三人の利害は完全に一致していた。
「では、ここに契約を」
大商人であるアスタークが魔法の紙を置く。
そこには契約書と書かれており、ここで行われた一切のことを他言無用とし漏らした者はその身から火を噴き出し焼かれるというものだった。
これが闇の取引であることは、ビスタもアスタークも理解しているため、商人としての処置である。
「よいでしょう」
闇法師は自らの指を切り裂き、血を垂らす。
ビスタ、アスタークも続き三人の契約は完了した。
同じ物を三枚造り、三人がそれぞれの持っておくことして解散となった。
ここに長い長い共和国と王国の戦争が開始されようとしていた。
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