第31話 遭遇戦

親父がつけてくれた稽古は今まで物はとまったく別物だった。

斧を振るだけの基礎トレーニングや、スキルを学ぶ応用トレーニングとも違う。


言うなれば、精神を鍛えるトレーニングだった。

殺気を放ち続ける親父の前に立ち続けるだけでも辛かった。


夜が明け、帰りの道すがら振り返ってアイゼンの地を見る。

短い間ではあったが、故郷へ帰った意味はあった。

辺境伯との出会いは、伝説を垣間見れることになり、実在する伝説は存在感が半端なかった。


化け物の存在。魔物化の片鱗だったのかはわからない。

まだ自分が知らない世界が存在することを思い知らされた。

【キシナリ】の世界であると同時にここが現実の世界なのだと思い知らされる。


最後に親父は凄かった。

親父の事をアホだアホだと思っていた。

それはヨハンが気づいていいないだけで、親父は凄かった。

大事なことなので二回言っておく。

あの丘で親父に見せられた力はこれからの俺にとって必要不可欠な力になる。


「色々ありましたね」


リンが俺と供に二人乗りをすると言ったので、リンは俺の前に乗っていた。

ルッツの顔が鬼のように見えたが無視しておく。

何を考えているのかわからないが、12歳の幼女に欲情して睨まないでほしい。


「ああ」


短い返事にリンは満足そうな顔をしている。

言わなくてもリンには気持ちが伝わったような気がして、気恥ずかしくなる。

王都までの帰り道、半分ほど来たところで乗馬スキルも7まで上がり、リンを乗せていても快適そのものだ


「一度小休憩としよう」


ガッツから休みを告げらるのは珍しい。

すでに一刻ほど走っても疲れないほどスキルが上達していた。


「ルッツ、ちょっと来てくれ」


ガッツが最後尾を走るルッツを呼ぶ。

ガッツが何かを警戒していることに気付いて探索を発動する。

左の目にオレンジ色の団体が映し出される。

どうやら敵になりそうな団体が先を歩いているようだ。


「どう思う?」

「辺境伯様が仰られていた共和国では?」

「うむ。私もそう思う」


騎士ガッツはデカい声を小さくしている。

近くにいる俺達には丸聞こえだ。

ヒソヒソ話もデカいとは致命的である。


「ヨハン、ここより先に怪しい団体がいる。しばし様子を見ようと思うがよいか?」

「はい。ガッツ殿にお任せします」

「うむ。では小休憩をとりながら、一時様子を見る」


オレンジ色の点まで大分近くに来てしまっている。

こちらが森でなければ向こうにも気づかれていただろう。

もし探索などのスキルを使われれば厄介だと思いガッツに進言してみる。


「向こうに探索のスキルを持っている奴がいるかもしれません。

この位置ではばれてしまうのではないですか?」

「うむ。しかし、今動くのは危険だ」


ガッツの意見ももっともだ。

辺境伯とあってからガッツの様子がおかしい。

自分の判断で、この位置は危険だと判断した。

リンを連れ、馬を置いて密かに距離をとって身を隠す。

ガッツ達も俺の意見を取り入れたのか、馬を森に隠して身を潜める。

自然に二手に分かれたところで、怒声が木霊した。


「キサマらそこで何をしている!」


それは団体から離れた位置で探索をしていた騎馬であった。

森に隠れようとしたガッツが見つかってしまったのだ。。


「止むおえん」


見つかったことに気付いたガッツは探索兵を斬りつけ。

その勢いのまま馬に跨り来た道を駆け抜けていく。

一人が斬られたことに気付いた他の探索兵がガッツを追いかけていった。


残った団体さん達も森へと進路を変えて進軍をしてきた。

リンの口を塞ぎ気配断ちを発動する。

身体を密着していれば、もう一人ぐらいは気配を消すことができる。


考える。

このままガッツを囮にして団体が通り過ぎるのを待つことができるはずだ。

それともガッツと供に応戦するか……

そんなことを考えながら視線を動かすと、ガッツに置いて行かれたルッツが逃げ遅れて囲まれていた。


その瞬間に考えるを止めた。俺は跳び出して魔法を発動する。


「サンダー!」


最速の魔法。

今にもルッツに斬りかかろうとしている奴を吹き飛ばす。


「お前!」


まさか俺に助けられると思っていなかったのだろう。

ルッツは驚いた顔をしていた。


「いいから構えろ」


敵は三十人ほどの小隊だった。

森の中なので、一本道でガッツを追いかけるため二列に並んだ隊列を組んでいる。

そこに隠れていたルッツを見つけた奴が襲い掛かってきたのだ。

俺の行動に一斉に団体さんが向きを変えようとするがもたついている。


「ヤバいな」


転身してくる団体に冷や汗を流す。

そんな俺を護るようにリンの魔法が発動した。


「ファイアーボール」


リンは俺が慌てる中、魔法準備をしていたのだ。

この任務で成長したのは俺だけではないらしい。

無数に分かれたファイアーボールが団体に命中していく。

前にイメージでファイアーボールを大きくした応用ができている。

それでも進軍を止めることはできない。鉄で造られた盾が火の玉を払いのける。

リンの頼もしさに、冷静さを取り戻した。

探索で相手の人数と場所を特定し、ある実験を開始する。


「リン、ルッツ、下がれ」


親父から教えてもらったのは相手を殺す覚悟だ。


左目に探索を発動した状態で、左目に写る赤い点すべてに雷を落とすイメージを作り出す。


「サンダー!!!」


俺は精一杯の魔力を注ぎ、三十人全てに雷を叩きつけてやる。

鉄で造られた甲冑であろうと、雷を払いのけることはできない。

ファイアーボール違って鉄は雷の熱を吸収し中の者を焼き切る。


「スッゲー……」


後ろからルッツの感嘆の声が聞こえた。

俺は魔力を使い果たしてへたり込む。


「ヨハンさん!」


リンが慌てて俺を支える。


「大丈夫だ」


リンに応えながら、左目で敵の残存を確認する。


「どうやら何とかなったらしいな」


とっさのこととはいえ、無茶をしたものだ。


「あっありがとう」


ルッツは照れくさそうに傍に来てお礼を告げた。

この任務の間、マトモに話す機会がなかった相手だが。

案外素直な奴だとヨハンはルッツを見直した。


「当たり前のことをしたまでだ」


先程迷った自分を隠したくて、顔を背けながらそう告げる。


「そうか、俺もお前のようにそう言える騎士になるよ」


俺の照れ隠しを真に受けて、ルッツは誇らしげな顔で見つめられるのはむず痒い。

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