第29話 紅き瞳の少年

 ヒールで親父の傷を治して、事情を問いかけた。 


「どうなっているんだ?」

「さぁな。俺にも分からん。一週間ぐらい前から噂があった。夜になると、人を襲う奴が出るってな。最初は一人の変な奴が夜に徘徊していたらしい。それを見つけた奴が襲われた。

 次の日、襲われた奴と襲った奴がまた違う奴を襲って、噂が流れ出して一週間でこの有様だ。まさかここまで大きな事件になるとはな」


 最初は噂程度だった。村長も噂話があるとか言っていた。


「お袋達は無事なんだな」

「もちろんだ。指一本触れさせてねぇ」


 力こぶを作って笑う中年オヤジに、昔を思い出して嬉しくなる。


「そうか、ならここは任せる。俺はこいつらがどこから来て、どこに帰るのかを調べてくる」

「本当に……」

「うん?どうかしたのか?」

「何でもない。ハンスの奴が辺境伯様に知らせに行っている。それまでどうにか持ちこたえろ」


 オヤジは何かを言いかけて、話を逸らした。ハンスとはランスの父親で、昔は冒険者をしていたオッサンだ。かなり強くて何度か稽古をつけてもらったことがある。

 親父と違って頭もいいから安心だ。


「わかった。後は頼む」


 リンを連れて駆け出す。ガッツにも知らせた方がいいかと思ったが、今から探している時間惜しい。何より夜明けが近くなってきて、間に合わないと判断した。

 変になっている人間たちが多く集まっている場所へと向かう。その様子を伺いながら、夜が明けた後はどこにいくのかを突きとめる。


「お父様、良い人でしたね」

「そうか?」

「はい。ヨハンさん笑っていますから」


 どうやら気付かぬうちに笑っていたらしい。


「私、安心しました」

「心配かけたな」

「いいえ」


 リンもニコニコと笑っていた。


 日が昇る少し前、変になった奴らが同じ方向に退去していった。それを追いかけ、変になった奴らが森の中に入って行くところまで追いかける。


「リン、ここからは俺一人で行く。退路の確保を頼む」

「私もお供します!」


 俺の言葉にリンは逆らい、声を荒げるが認めるわけにはいかない。


「ダメだ。もしも俺が帰らないときは、ガッツに俺が森に消えたことを伝えるんだ」

「でもっ!」

「頼むぞ」


 俺はリンの返事も聞かず、森へと足を踏み入れた。


 どんな奴がいるかわからないためリンの世話までしていられない。いつも以上に警戒を強めなければならない。


俺はステータス画面を開く。


名 前 ヨハン

年 齢 14歳

職 業 冒険者(ランクC)戦士、エリクドリア王国第三魔法師団副団長

レベル 42

体 力 270/350

魔 力 200/256

攻撃力 223+10

防御力 261+10

俊敏性 270+10

知 力 282


スキル 

斧術6、投擲4、乗馬6、攻撃力上昇、防御力上昇、俊敏性上昇、体力自動回復、魔力消費半減、経験値アップ、アイテムボックス


魔 法 

ヒール6、ウォーター4、ファイアー4、ストーン3、ウィンドー3、ライト2

サンダー1、アイス1 


兵 法 

背水の陣、釣り野伏


協力技 雷神剣


スキルポイント 34


 人を殺したことは胸糞悪いが、レベルが上がっている。スキルポイントを使って夜目と探索を習得する。


 夜目、暗闇でも視界がクリアになるスキル

 

 探索、レベルに応じて探索出来る範囲が限定される。探索内に存在する生物がどこにいるのか知ることができるスキル。


 レベルが40を超えたことで、違う職業のスキルが習得できるようになった。


 本来戦士である俺が習得できない。『気配断ち』と呼ばれる職業忍者でしか習得できないスキルが入手できた。

 スキルポイントの消費は多いが、今の状況ではありがたいスキルだ。


 気配断ち、自身の気配を消すことができる。気配を消している間が身動きが出来ない。


 三つのスキルを修得したことで、スキルポイントを使い果たした。

 それでも変な奴らを追いかけるのには最適なスキルを修得出来た。


 夜目と探索を発動した状態で森を突き進む。探索のスキルを使うと大小様々な点が左目に浮かびあがり、色分けされている。

 左目にウィンドーが現れて、赤点は敵、青点は味方、緑はNPC、オレンジは敵になり得る存在と認識される。

 現在、リンが青、変になった奴らは赤で表示されていた。後はほとんどがオレンジに表示されているので、動物か魔物がいるのだろう。


「起こさないようにしないとな」


 警戒を強めながら夜目を使い変になった奴らの後をつける。


「どうやら今日も成功したみたいだね」


 変になった奴らをつけていくと、白髪頭の青年が両手を広げて変になった奴らを出迎えた。

 青年が見える位置で物陰に隠れ、気配断ちのスキルを発動させる。


「どうやらあの男の言っていたことは本当だったみたいだね。この僕こそが王に相応しい。まぁ忌々しいのは太陽と言ったところか」


 キザッタらしく髪を書き上げ、変になった女に近づいて首筋に歯をたてた。


「何をしているんだ?」


 俺の呟きは誰にも届かない。


「美味い。やはり飲むならば女性に限るな。体も元気になるし、何より雑味が無い」


 訳の分からないことを言いながら、青年は飲み終えた女を退かせてる。一人、また一人と女性の髪を撫でていく。


「うむ。男共など使い捨てればいいが、女性は代えを探すのが大変だからな。

大事にしなくては」


 青年は一通り女性たちの髪を撫で終えると、変になった者達を連れて歩き始めた。


 このまま追っても良いモノかと考えている所で、馬鹿でかい声が森中に響いた。


「ヨーハーンーーーー!!!どこにいるのだ!単身で乗り込むととはどういうことだ!」


 聞き覚えのある怒鳴り声が森中に響き渡る。


「無粋。しかし、誰かを探しているのか?」


 青年は声に反応して周囲を警戒する。紅い目に殺意が込められ俺のすぐ上に視線を止める。

 圧倒的な力を持った強者が放つプレッシャーに両肩が震えだす。紅い目を見た瞬間から相手が化け物だと判断できた。

 見つからないように息を殺し、気配断ちに集中する。


「ふむ。この辺には誰もいないようだ。しかし、先ほどの声を聞く限り、調査が始まっているのかもしれないな。この辺で実験するのは今日で最後だ。行くぞ」


 青年はそのまま変になった奴らを連れて去って行く。


 青年の姿が消えるまで必死に息を殺した。姿が見えなくなると、聞こえてくるガッツの声に安心感を覚えてしまう。

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