第27話 故郷アイゼン

 王都からアイゼンまでは徒歩で二日、馬車ならば一日あれば着くことが出来る。

 

 今回は騎士ガッツが馬が手配していたので、速足でアイゼンに向かうことになり、半日ほどでアイゼンまでたどり着いた。

 乗馬スキルはなかったので、スキルポイントを使って乗馬スキルを修得した。


 乗馬スキルはスゴイ。乗馬スキルが無くて馬に乗ったら、落馬させられるわ。言うことはきいてくれないわ。最悪だった。

 乗馬スキルを3まで上げただけで、馬が言うことを聞くようになり5まで上げれば思うように動いてくれる。

 最大値である10まであげればどうなるのか、気になるがスキルポイントが尽きてしまったので仕方ない。


 同じく馬に乗ったことがないというリンは、ルッツに乗せてもらい恥ずかしそうにしていた。

 先頭はガッツ、次に二人乗りのルッツ、そして俺の順番で隊列が組まれた。


「そんなへっぴり腰で馬に悪いと思わんのか!」


 初心者である俺にも容赦なく怒声が飛んでくる。


 どうやらガッツの基準では、俺は軟弱な魔法使いと言うレッテルが貼られたらしい。村に着くぐらいには乗馬スキルは6になっていた。

 騎士様はどうにも初心者を優しく指導する気はないようだ。強行軍で乗馬の乗り方が上達することはわかったが、あまりやりたくない。


 乗せてくれた馬は最初こそ落馬させられたが、今では可愛い相棒である。騎士殿の悪辣なスピードにも振り落すことなく運んでくれたのだから。


「ついたな。まぁ今回は初心者がいたので、ゆっくり向かってきたが。次からは倍速で駆け抜けるぞ」


 アイゼンの街を見下ろせる丘にたどり着き、のどかな風景が広がっていた。辺境と言っても辺境伯が納める村なのだ。

 帝国からの侵略を退けるためそれなりに戦闘慣れした村人。王都ほどではないが、辺境にしては発展している村が広がっている。


「辺境と言ってもそれなりの町を形成しているではないか」


 王都の発展に比べれば慎ましいの一言に尽きる。発展していると言っても、露天商などが店を開く商店街などは存在しない。雰囲気も田舎らしい穏やかな空気が流れている。


「ガッツ様、村に入る前に小休憩をとりませんか?ここまでの旅でリン殿がお疲れの様です」


 ルッツの言葉にリンを見れば、確かに蒼い顔をしていた。馬酔いでもしたのだろう。ルッツは紳士を装い、自分の飲んでいた水を渡そうとしていたが、リンは丁重にお断りしていた。


「うむ。では、一旦休憩とする」


 ガッツも騎士として、紳士として女性や子供には優しくあるようだ。ルッツの進言でリンを見て、小休憩を決めた。

 改めてタオルと水を持って行ってやると辛そうに息を整えていた。


「大丈夫か?」

「すみません。ご迷惑おかけします。慣れない人の近くに居たので、緊張してしまって」


 どうやら馬酔いではなく、ルッツ酔いだったらしい。二人乗りで神経をすり減らしてしんどかったようだ。


「ここからは距離がそれほどない。俺の馬に乗るか?大分慣れてきたからリン一人なら乗せてやれるぞ」

「本当ですか?お願いします」


 先程までのしんどそうな顔が一気に晴れ渡る。相当な人見知りなのだろう。もう少しリンを気遣ってやらなければならないな。


「そろそろ出発するぞ」

「リンは私の方に乗せます。ご迷惑おかけしました」


 自分の補佐は自分で見るとアピールすることで、リンが言い出したと言わないようにしておく。どちらにも非がないようにだ。


「わかった。素人なのだ無理はするなよ」


 ガッツは興味無さそうに、ルッツは飄々とした雰囲気とはうってかわり鬼の形相で睨んできた。気付かないふりをしておく。


 乗馬スキル6まで成長を遂げたお陰でリン一人ぐらいならば、問題なく乗せて騎乗することができた。

 リンもルッツと乗っていたときよりも緊張が解けたのか、顔色が良いようだ。


 丘からアイゼンの村までは半刻ほど走ることでついた。リンは前に乗ってもらっていたので、後ろから抱き締めるようなかたちになる。

 多少リンの顔が赤くなっているような気がしたが、顔色が良くなったお陰だろう。

 

「ふむ。到着したのである」


 アイゼンの村と言っても大きな柵と門で囲われている。入るためには門番に身分証を見せる必要がある。


「王都エリクドリアより参った。騎士ガッツである。連れは供に王国に仕える者なり、調査のためアイゼンに参った」


 ガッツの声は相変わらず、怒鳴り声でうるさいほどデカい。


「王都から!!!しばし、待たれよ」


 門兵が他の門兵に村長を呼んでこいと叫んでいる。あれは誰だろう?村の奴なら知っているはずだけど。ここを出てからまだほんの二年ほどなのに何も変わっていない。ランスと供に冒険者になるために街に出て、随分と出世したものだ。


「これはこれはよくぞ御出で下さいました。私がアイゼンで村長をしておるものです」

「うむ。私は王都エリクドリア第一騎士団副団長を務めるガッツである。此度は調査のため、ここを訪れさせてもらった。スマンが一泊の宿の提供を頼む。メシや水などは自身で賄うため所望はせぬ。雨風が凌げればいいのだ」

「それは構いませんが……本当に何も用意しないで大丈夫なのですか?」

「ああ、我々は調査のために来たのだ。歓迎を求めてはいない」


 ガッツはどうやらお堅いらしい。本来の調査団というのは、村に着けば横暴な歓迎を求め、貧しい村をさらに困窮にしていくものだ。

 しかし、ガッツは自分達のことは自分達ですると村人のことを考える。真面目で騎士として、悪い人ではない。


「わかりました。では、我が家をお使いください。手狭ではありますが、雨風は凌げますので」

「かたじけない」


 村長に招かれて中へと入って行く。村に入るまえにフードをかぶっているので、相手にはわからないだろう。俺から見れば見知った顔ばかりだ。

 王都から来た騎士を一目見ようと人が集まってきている。


「あっ!お前!」


 少し離れたところで俺を指差している男がいた。歳は30台半ばぐらいの中年で、筋骨隆々として精力的なオッサンだ。


「ヨハンだろ!」

「うん?」


 名前を呼ばれたことで、ガッツにその男の存在を気づかれた。


「お主の知り合いか?」

「父親です」

「なっ!そうか、ここは貴殿の故郷か」

「はい」

「ヨハンさんのお父様!」


 ガッツは行って来いと片手を振り、リンはなぜか髪を整え出した。ルッツは我関せずと前を向いている。


「しばらく離れます」

「うむ。村長の家で待っておるぞ」


 馬を転身させ、父親の方に足を向ける。リンも乗ったままでいいというので、供に乗せたままだ。


「お久しぶりです。父上」


 礼儀正しく挨拶をした。


「お前、本当にヨハンか?どこかで頭でも打ったんじゃねぇか?それとも頭がおかしくなったのか?」


 オヤジはそんな俺を見て鼻をほじりながらアホにしてきた。この男はいつもそうだ。アホなことを平気でやってのける。どこまでいっても知識3のヨハンの親だ。


「私は頭など打ってはおりませんよ。王都に行って勉強しただけです」

「はっ、アホがいくら勉強してもアホなだけだ」

「私はアホではありません」


 ヨハンの感情が一気に膨れ上がる。バカに反応しないくせにどうしてアホには反応するんだ。


「はっ、お前が何をしに帰ってきたか知らん。ただ、村に迷惑をかけるんじゃないぞ」


 それだけ言うとヨハンの父は背を向けて歩き出した。


「あんたに何が分かる」


 自然に漏れた声はリンにだけ届いた。しかし、リンは何も言わずに顔を俯かせた。

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