第26話 騎士ガッツ
図書館にやってきた俺はアリスの下に近づいていく。
「こんにちは」
「ヨハンさん!いらっしゃいませ」
嬉しそうな顔で出迎えてくれるアリスさんに、リンがムッとした顔をする。
「お久しぶりです。色々ありまして、なかなか来れませんでした」
「いえいえ、私も噂で色々聞きました。でも、ヨハンさんを信じていましたよ」
どうやらスパイだと言う話は、兵士だけでなくアリスの耳にも届いていたらしい。
ということは、露店商の商人たちも知っていたのだろう。それでも変わらず出迎えてくれたことに心から感謝だな。
「それで今日はどんな本をお探しですか?大分出世されたヨハンさんが読むような本がうちにあるか不安ですが」
アリスは本当に残念そうな顔で問いかけてくる。
「市場に出回っている物はなかなか軍の図書ではお目にかかれないです。ここの方が種類が豊富ですよ。あそこは専門書ばかりなので」
「まぁ。ふふふ」
ヨハンの言葉にアリスは嬉しそうに笑っていた。
「種類の多いアリス図書に、今日は分かりやすい専門書を求めに来ました」
「分かりやすい専門書ですか?」
「はい。今回は魔石に関するものがあればありがたいです。あと武器に関する物もあれば嬉しいのですが」
「魔石と武器?簡単な内容のもので良ければあると思いますが」
「では、それを。あとリン、何か本を読むかい?」
「集合まで時間があまりないですよ」
「そう、急くことはないさ。一冊読むだけの時間はあるだろ」
正午まで一刻ほどの時間がある。
「わかりました。では、魔法に関する本があれば」
「なら、あれだな」
「あれですね」
俺はアリスと笑い合う。ゴブリンでも分かるシリーズを手渡す。内容はあまりないが、薄くて分かりやすい。短い時間で読むには最適な本だ。
魔石に関する専門書を受け取り、しばしの読書タイムだ。
「あの~アリスさんとヨハンさんってどういう関係なんですか?随分と仲がよろしいようですが」
「本を借りに来る客と司書の関係だけど」
「そうは見えませんでしたけど……」
膨れっ面でゴブリンシリーズを読むリンを放っておいた。話をするよりも今は、知識を吸収する時間がほしい。
魔石とは装備することで、宿っている魔力を使ったり、自身の魔力の増幅や、封印されている召喚獣を呼び出すことができる。
魔石を加工する技術者のことを魔石技工士と呼び特殊な能力を有する。魔石技工士になるためには、技能ある魔石技工士の下で10年間の修行が必要になる。
修行を完了させると魔石技工士の特殊な能力を宿すことができる。魔石技工士はその技術から存在が少なく、世間に出回る魔石は数に限りがあり、値段の高騰が近年問題視されている。
ゲームの中では普通に金が有れば買えて、MPを使わないお手軽な魔法ぐらいに思っていたけど案外大変なものなんだな。
「ヨハンさん、ヨハンさんってば!」
リンの声で意識を覚醒させる。どうやら本に集中し過ぎていたみたいだ。
「あっすまん」
「もう、そろそろ行かないと時間がヤバイですよ」
リンの言葉に外を見る。太陽の位置が真上に上がろうとしているところだった。
「ヤバいな。急ぐぞ」
アリスさんに本を返却して、リンと供に街中を駆け抜ける。図書館から北門は遠いが、まだ間に合う時間だ。問題はないだろう。
「ハァハァ、どうにか着きましたね」
息も絶え絶えになっているリンを気遣いながら、第一演習場に入って行く。時間ギリギリに来てしまったので、一番最後になってしまったようだ。
「遅いぞ!!!」
大きな声で一人の騎士が俺達を怒鳴りつけた。
「すみません。急いだのですが」
「言い訳はいい。これで全員だな」
騎士はすでに俺達に興味はないのか、集まっている方に視線を向けて話し始める。
「まずは、この隊の隊長を任されたガッツだ。俺は第一騎士団副長をしている。知っていると思うが、俺は優しくはないぞ!」
俺以外のメンバーはガッツのことを知っているらしく。ゲンナリとした顔をしている。
「今集まってもらっているのは、各第一から第三まで、騎士が一人、従士が一人、魔法師が一人、魔法隊から一人の計12人だ。それを三体に分けて各方面を調査してもらう。メンバーを発表するぞ」
みんなが手を組んでいるのはガッツから離れたいためだろうか。
「まず、第一騎士団所属、俺と行動してもらうのは、第三魔法師団ヨハンとその補佐、前へ」
「俺です」
最悪な役割を引いたのは俺でした。後ろで小さなガッツポーズがいくつも見えました。
「キサマか、まぁいい。では次に第二騎士団と第一魔法師団、第三騎士団と第二魔法師団」
それぞれのチームが決まったところで互いに挨拶をしている。
「規則も護れん奴とチームを組むとはな。
まぁいい、貴様のことはこのガッツが鍛え直してやろう」
「はぁ~よろしくお願いします」
「元気がないな。ちゃんと飯を食っているのか!」
バンバンと背中を叩かれる。物凄い力で叩かれたせいで咽てしまう。
「ウフッォ!食べてますよ」
「本当か?これだから魔法使いはダメなのだ。覇気が感じられんぞ」
「俺は魔法使いじゃないですよ」
「何を言っているローブを身に着けているではないか」
「これは魔法防御が高いので着ているだけです」
そう言ってローブを捲ると、シルバーメイルを着込んでいるのを見せる。さらに、腰に四本の手投げ斧を忍ばせているのが見えるはずだ。
「それは……どうなっている?」
「俺は元々冒険者ですからね。冒険者時代は戦士をしていました」
「そんな奴が何故、魔法師団になんかいるんだ?」
「それは色々あるんですよ」
「訳の分からん奴だ。とにかく、今回は俺とチームだ。俺に従ってもらうぞ」
「はいはい。わかってますよ」
同じ副長でも、向こうは騎士なのだ。貴族か何かだろうし、逆らっても意味はない。
「では、私の従士を紹介しよう。ルッツだ」
「あっどうも、ルッツです」
ガッツの後ろから出てきたのは、どこかガッツと顔が似ている青年だった。歳は俺よりも少し上だろうか?飄々とした雰囲気で、顔は似てるが似ていない。
「第三魔法師団副長ヨハンです。こっちが私の補佐をしてくれるリンです」
「第三魔法隊のリンです」
ルッツは俺の自己紹介は聞き流し、リンの方ばかり見ていた。
「うむ。自己紹介も終わった事だし、行くとしよう」
「行くってどこに向かうか聞いてませんが」
「お~そうであったな。我々は辺境伯様が管理されておられる、アイゼンに向かうことになっておる」
「げっ!」
アイゼンは、ランスとヨハンの実家がある場所であり、ヨハンの記憶では帰りたくない場所であった。
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