第25話 ショッピング

 ヨハンが副長を務めるようになってから、第三魔法師団の雰囲気は良くなった。師団のメンバーは、マルゲリータによって抑圧されていた反動もあったため、好きな時間に魔法実験が出来るので実験が捗って没頭している。

 たまに暴走させる者や、危険な薬草の研究をする者などがいるのでジェルミーに咎められている。


 そんなある日、ヨハンはジェルミーから呼び出しがかかった。


「任務ですか?」

「そうだ。最近、辺境の村々でモンスターが暴れていると報告があった。なんでも普通に暮らしていた鬼人や夜人などが魔族化がする事件が起きているらしい。その調査をしてきてくれないか?」

「どうして自分なんですか?」

「各隊から数名出すことになってな。第三魔法師団からは君を押しておいた」


 書類仕事や団の管理をジェルミーに丸投げしているので、仕事を申し付けられれば断ることは出来ない。


「まぁ他の人たち見たいに研究熱心ではないですね。お金を頂ければ問題ないと思っています」

「そうか。なら、今回の任務を達成できたなら特別報酬をだそう」

「やりましょう」

「君は分かりやすい奴だな」


 ジェルミーからは神経質で寡黙な印象は薄くなり、最近は随分と柔らかくなった。その点、精神が図太くなったのか、たまに悪だくみしていそうな顔が増えている。


「何かたくらんでいるんですか?」

「別に何もたくらんでいないさ。今はね」


 腹黒さを隠そうともしない。そんなジェルミーが嫌いではない。


「わかりました。その任務お受けします。私以外に誰が付くのでしょうか?」

「第一から数人と、第二からも誰か来ると言っていたな。第三からも騎士が出るぞ。それと君には補佐を付ける」

「補佐ですか?」

「そうだ。ここを出てエントランスに行ってくれ。そこに君の補佐を待たせている」

「わかりました」

「それと集合は本日正午に第一演習場だ」


 ジェルミーに頭を下げて退室した。


 意外なことではあるが、マルゲリータに代わったジェルミーは隊員に好かれている。わけのわからない(ミリューゼ様)命令を出されない上に、師団長としての判断は正しく。人としてしっかりしている。


「面倒事にならないといいが」


 魔族化という現象はゲーム内で聞いたことがない。本来は恋愛を楽しみつつ、他国から侵略してくる敵国を排除していく。

 冒険者をして魔物を倒すことはできたが、それだけであったはずだった。

 

 こんなサブシナリオは知らない。


「ヨハンさん!」


 中央階段まで来ると、聞き知った声が俺を呼ぶ。


「うん?リンか?」


 エントランスで手を振る人物を見てジェルミーの悪だくみをしていそうな顔に納得してしまう。


「リン、どうしてここにいるんだ?」

「はい。この度第三魔法隊から派遣されましたリンです。魔法師団副団長ヨハン様の補佐をさせて頂きます」


 軍人らしく、両手を背中に回し胸を張った状態で名乗りを上げる。


 様になった姿を見て、唖然としてしまう。12歳の胸はローブの上からでも若干の膨らみが見えた。


「第三魔法隊所属になったんだな。補佐はリン?」

「はい。ジェルミー団長からはそう伺っております」


 魔法隊はまだ若い少年少女のために作られた部隊だ。これからの魔法師団を支える存在達を若いうちから教育する。改め、囲い込むために存在する場所である。

 主な仕事は魔法師団から派遣される講師の授業を受け、また魔法師団の任務の手伝いだ。


「まぁ、リンなら俺も見知った相手だからな。気が楽か」

「はい。私も初任務がヨハンさんと一緒と聞いて安心しました」


 リンの嬉しそうな顔を見ていて悪い気はしない。ジェルミーの配慮に感謝しながら、任務のことについて考える。


「前回のオーガみたいに魔族化している奴の調査だ。危険も伴うが、大丈夫か?」

「はい。国のために働けること、家族を養えることが嬉しいです」


 魔法隊は魔法師団よりも給料は良くない。今回の任務を達成すれば特別報酬が出るのだ。リンもやる気になるかと、俺は笑ってしまう。


「そうだな。まずは時間もあることだし、ショッピングにでも行こうか?」

「はい。お供します」


 リンは嬉しそうに俺の後をついてくる。旅をするにも準備は必要だ。俺にはアイテムボックスがあるので、多めに用意しても手ぶらで済む。

 戦争になったときに備蓄していた分もあるので、それほど多くは必要ないが、市場を見ることは悪いことじゃない。


「集合場所はどこなんですか?」

「第一演習場だ」


 第一から第三まで大きな軍団があるため、全ての訓練が王都内では収まりきらない。そのため郊外に作られた演習場がいくつか存在する。

 第一演習場は、北門から出て近いため、焦らずとも間に合うため旅の準備を先に済ませておこうと露店商にやってきた。


「何を買われるんですか?」

「まぁ、何日旅をするかわからないからな。とりあえずは一カ月分ぐらいの食料を用意する。この間ので恩賞金ももらったから、多少金に余裕がある。金は大切だけど、有事の際に備えて備蓄しておくことに限るのも事実だ。金は天下の周りもの、金がなくちゃ何もできない。

 だが、いざとなっとき金が有っても食う物がなかったら人は死ぬだろ。備えられる時にはしっかり備えておかないとな」


 俺の言葉を何故かメモしているリンと露店商周りをする。手慣れたもので、ここに来るとどこに何があるのか分かるようになった。顔見知りの露天商に話を聞きながら市場の状況を把握していく。


「おっヨハンじゃねぇか」

「なんだヨハンきたのかい」


 いつものオッチャンやオバちゃんが出迎えてくれるのに挨拶を返して、肉や薬草、水や火打ち石などを仕入れる。旅には結構な物資が必要になる。

 ついでにローブや下着などの着替えも何点か買っておく。何着か所持している物を持って行くが、多く用意してくことに越したことはない。


「武器の手入れはちゃんとしているか?」

「はい。私はロッドを使いますので、魔石を買い替えるぐらいです」

「そうか、なら魔石の補充をしておこう」


 魔石を売っている露店商にやってきて、多めに買うことで値段を下げさせる。


「ヨハンにはかなわんの~」


 魔石屋の老人は仕方ないと笑う。魔石50個を銀貨30枚で売ってくれた。


「こんなに安く魔石って買えるんですか!」


 リンに取ってはあまりの安さにびっくりしている。本来の相場では魔石一つ銀貨三枚で取引されている。

 しかし、露店商では粗悪品を加工して使えるようにしているので、本来の魔石よりも安く。また大量に買うことで値切ることができるのだ。

 今まで自分に必要なかったので、魔石の加工や武器の鍛冶をしてこなかった。これからお金を浮かすためにはそういう技術も必要かもしれない。

 オーガを倒した後のスキルポイントも使っていないので、そういう方面に手を出すのもいいかもしれないと思い始めていた。


「まぁやり方次第だな。とりあえず、今日の買い物は終わりだ。もう一軒寄りたいところがあるんだがいいか?」

「お供します」


 いつもの場所に足を向ける。

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