第15話 山賊討伐 1

 ランスの休日に合わせて食料や武器などのアイテムを揃えていた。早速クエストの目的地である共和国と獣人王国の国境沿いへとやって来た。


「なんでこんな辺境のクエスト受けたんだ?」


 ランスから辺鄙な国境近くまで連れて来られたことで疑問が浮かんだようだ。


「お前には必要だと思ったからだよ」

「俺に必要ってどういうことだよ?」

「さぁな。それより、俺からも質問していいか?」

「なんだよ」


 ランスの後ろに付いてくる二人に視線を向けたヨハンは溜息を吐きたくなる。


 小柄な少年と魔法使いの少女。どちらも冒険者で、ランスがパーティーメンバーということで連れてきた。


 少年は職業シーフ、ダガー系のナイフを持った生意気そうな雰囲気をしている


 少女は職業マジシャン、黒いローブに黒いステッキを持っていた。


 どちらも明らかに旅をするような装備ではなく、軽装備と言っていい荷物しか持っていない。


「こいつらはなんなんだ?」

「やっとかよ。一日ついてきたのに、こいつらもお前が相手にしないからショボくれてるだろ」


 ランスは俺の反応に大きく息を吐く。


「最初は見間違いかと思ったんだ。パーティーメンバーだということは分かる。だけどな、どうしてこんな子供を連れて来てんだよ」


 明らかに駆け出しである新人冒険者の二人だ。ランクも最低ランクのEが良いところだろう。


「いきなりのクエストだったからな。集められる奴がこいつらしかしなかったんだよ。それでも俺とお前が居れば大丈夫だろう?」


 ランスの言葉に溜息を吐きたくなる。


「それでお前達は何ができるんだ?」

「やっと話してくれるっすね。おいらはフリード、フリーって呼んでほしいっす。職業はシーフで探索が得意っす。鍵開けとかは特訓中なので、成功率が低いっす」


 軽いノリでベラベラと話をするバカにしたくなるような話し方に頭を抱えたくなる。もう一人に視線を向ける。


「わっわたしは……リンって……いいます。あの~その~マジシャンで……火の魔法が使えます……一応中級まで、あと風も」


 さっきのバカと違い今度はオドオドとした少女だ。ただ、魔法の才能はありそうでこれからの成長が楽しみな少女だ。二人とも12歳で、冒険者登録して一カ月だという。ミッションの成功率が低く成長できないため、困っているところにランスに声をかけられたらしい。

 ランスは面倒見がいいところがるので、こいつらの困っている姿に黙っていられなかったのだろう。

 まぁ、バカだったヨハンと付き合ってくれたのもランスだけだった。それを想うと放っておけなかったのだろう。

 ランスのことがあり、自分たちのことがある以上悪く言い辛い。


「状況はわかった。俺はヨハンだ。王国軍ミリューゼ王女直属部隊第三魔法師団所属だ。職業は斧戦士で魔法も使うことができる。魔法はヒールと水の初級が使えるから、ケガをしたら遠慮なく言えよ。それと今回のクエストは重要クエストだから失敗したくない。それぞれの役割を自覚してくれ。まぁ緊張するのは仕方ないから俺達のサポートを頼む」


 話しているうちにリンがガチガチと震えだした。最後はサポートと言う言葉を強く言っておく。


「いいな?」

「了解っす」

「はい~」


 フリードは元気よく、リンは戸惑いながら返事をした。甘い自分にランスのことを言えないなと思いながら笑っちまう


「お前も俺のことは言えないよな」


 そんな俺の気持ちを読んだのか、ランスがニヤニヤした顔でそんなことを言ってくる。


「うるせぇ!」


 ランスの肩を小突いて俺は先頭を歩き出す。


 目的地付近に到着すると、探索が得意だと言ったフリードに先行させて山賊を探させた。どこでイベントが起きるのか、現実になってしまえば発生する場所がわからない。分かるのは国境沿いにある山付近でイベントは起こるというだけだ。


 山賊が目撃され冒険者に依頼が来ている以上。間違いはないはずなのだ。


「今日も収穫はなしだな。まぁここまで来るのに二日、クエストを開始して三日目だからな。そろそろ打ち切りを決めないとな」


 ランスの休みは10日しかない。ミッションのことを伝えていたので、10日の休みをとってくれたのだ。


「そうだな。帰るのに場所を使っても一日はかかる。収穫なしだと痛いな」


 俺の言葉にランスも同意を示す。山に入ったことでモンスターと遭遇して素材は得ている。あくまで目的は山賊狩り、ミッション達成しなければ赤字を覚悟しなくてはいけない。


「アニキ達!人影があるっす」


 偵察に出ていたフリードが洞窟へと駆け込んできた。辺りは真っ暗で良く見えない。夜目の効くフリードの話では数人の影が、川沿いを歩いていたという。

 こんな夜中にご苦労なことだと思い。この機会を逃さないために俺達はすぐ出発した。リンは強行軍に大分疲労がたまっているようだった。

 体力回復を兼ねてヒールをかけてやる。


「ありがとうございます」


 三日過ごせば普通に挨拶ぐらいはできるようになるものだ。会話をマトモにすることは未だにできないが、挨拶や単語が言えるなら十分だろう。


「いや、これから長くなる。今のうちに体力は回復しておけ」


 ヒールの後に水と乾パンを渡してやる。リンに続いてランスとフリードにも荷物から食事をとらせる。

 こんなにも長くクエストに出たことがないのだろう。四人分の世話をする羽目になってしまった。戦争用に数カ月は生活できるだけの食料をアイテムボックスに用意していた。問題はないが後で請求してやろうと思っている。


「あっ、あの~」


 全員に食料を配り終えるとリンが珍しく声をかけてきた。


「なんだ?」

「ヨハンさんは魔法師団所属なんですよね?」

「そうだ」

「魔法を使えるのに、どうしてヒールも使えるんですか?」

「はっ?」

「だって、魔法使いは火力が命だと師匠に教わりました。ヒールなんて覚えるのは神官の役目だと」

「ああ、俺は魔法師団に所属はしてるが魔法使いじゃないからな。俺は戦士で騎士を目指さしているんだ。だから自分の身を護れるならヒールでも火力が大事な魔法でも覚えるよ」


 驚いた表情でリンが固まってしまった。リンの師匠は相当に火力を大事にする魔法使いらしい。


「私、冒険者になって思ったんです。もっと皆さんの役に立ちたいって。ヨハンさんに会えてよかったです。私にも希望が持てました」


 何に感銘を受けたか知らないが、尊敬の眼差しを向けれれている気がする。


「ヨハンのアニキ、影が見えたっす。イチャイチャはその辺で止めてほしいっす」


 フリードが膨れっ面で発見報告をしてくる。どうやらフリードはリンが好きなようだ。リンに対して女性としての視線を向けたことはない。


「すまん、すまん。それで、敵は何人だ?」


 フリード、ランス、リン、俺の順番で隊列を組んでいるので敵の数が見えない。


「5人だな。何か大きな荷物を運んでいるようだ」

「大きな荷物?」

「ああ、四人がかりで大きな箱を抱えている。一人は警戒しながら道を作っているな」


 どうやらビンゴだ。大きな箱にお姫様がいるはずだ。


「フリード、相手の風貌とか見えないか?」

「月の光も無いんじゃ、これが限界っす」


 フリードも夜目を最大限に使っているが見えない。これで戦闘を仕掛けて違いましたでは済まない。俺達は物陰から尾行を続けながら、相手の様子をうかがう。


「あっ!」

「どうした?」


 フリードの声にリンが驚き、ランスが声をかける。


「リン!」


 驚きの声を発したリンが崖を踏み外してしまった。手を伸ばしたが間に合わず、リンが山間を滑り落ちていく。仕方なく俺はリンを追いかける。


「ランス!」

「おう」


 はぐれるぐらいならば一緒に落ちた方がいい。ランスは俺の意図をすぐに察してフリードを掴んで山間に飛び込んだ。

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