第14話 思惑

獣人王国エルドールでは、苦渋の決断がなされようとしていた。

ライオンの鬣を持つキングティガーは、巨大に成長した樹木で作られた城。

聖エルドール城にある執務室で椅子を叩き壊した。


「共和国のクズ共が、思惑には乗ってやる。しかし、只で済むと思うなよ」


エルドールは隣国である共和国及びエリクドリア王国と仲が良いとは言えない。

それでも戦争を仕掛けるほど関係が悪化していたわけではない。

しかし、エルドールはエリクドリア王国へ宣戦布告を仕掛けた。

その裏には共和国の影がちらついていた。


「キングよ。本当によろしいのですか?」


キングティガーの傍らに黒豹の顔を持つ忠臣が問いかけた。


「元々エリクドリアなどどうでもよい。我々の住む場所が侵されなければな。

付き合いとして、口実がなければ戦争を仕掛けるほどでもなかった。

しかし、今回は口実ができた。

何より奴らの領土を奪うのは我々が豊かに暮らすうえでも必要なことだ」

「キングティガー様のお気持ちはわかりました。では、皆にもそのように伝えまする」

「頼んだ。カゲロウ」


カゲロウと呼ばれた黒豹は姿を消して、ティガーは一人になる。


「王国を相手にしながらも、共和国には痛い思いをしてもらわねばなるまい」


キングティガーは巨木である聖エルドールに作らせたテラスにその身を晒す。

国全体を見下ろせる場所には、雲に届きそうなほどの巨木に抱かれていた。

聖木に愛されるキングティガーの一族は恩恵に報いるためにこの地を護り続けてきた。

家族を愛し、家族を守り、家族と木が共存できる場所を守ってきた。


それが侵されようとしている。


「皆の者よ。我が国は隣国であるエリクドリア王国に宣戦布告を宣言した。

これは我が一族の願いであり、我が国を豊かにするために必要なことだ。

どうか、我に力を貸してほしい。どうか、我と供に戦ってくれ。

我と供に戦ってくれるのであれば、我は貴殿らの魂を崇高なる存在へと昇華させようぞ!!!」


獣人達は精霊に近いモノだと言われている。

その魂は大地に愛され、自然に帰る。

そのときに精霊として昇華されると言われているのだ。


「我に続け、我が名、キングティガー・キングダムと供に歩もうぞ」


「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!」」」


聖木エルドールの前には大地を埋め尽くす獣人達が集まっていた。


それはキングの家族を守るため、それは自らの家族を護るため、それは自分自身の誇りと精神を護るため。


彼等は戦いに赴こうとしていた。


 ♢


夜の闇に身を隠し、黒いローブに身を包んだ男が薄暗い廊下を歩いていた。

辿り着いた場所は、牢屋のようにドブ臭い薄汚れた場所だった。


「来たか」


蝋燭の光だけが、部屋を照らし声の主の姿は闇の中に隠れて見えはしない。

黒いローブの男は膝を突き、礼を尽くす。


「遅れて申し訳ありません」

「構わぬ。それで、闇法師よ。首尾はどうだ?」

「共和国と王国の戦いは余計な邪魔が入り、失敗に終わりました。

しかし、作戦は次の段階に入っております」

「うむ。失敗はかまわぬ。しかし、必ずエリクドリアの地を手に居れよ。

そのために黒騎士には上手く働いてもらおう」


闇法師と呼ばれた、黒いローブに身を包んだ男は、決して顔を上げようとしない。

ただ、声の主が去るのを待つ。

声の主はそれ以上の報告がないと分かると立ち上がり、闇法師の横に立つ。


「全てはあの方のために」


肩に手を置いて囁くように言った言葉は、闇法師の身体を地面にひれ伏させるのに十分な威圧が込められていた。


「全てはあの方のために!!!」

「全てはあの方のために!!!」

「全てはあの方のために!!!」


 

叫ぶように言葉を繰り返す闇法師に満足したのか、男はその場から去って行く。

それでも闇法師は繰り返し言葉を叫び続けた。


足音が消えてなくなるまで……

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