第13話 ヨハンの想い

獣人族は、固有魔法を使う特別な種族である。

動物的な特長と習性を持って生まれてくる。

見た目だけならば耳だけのものであったり、上半身や下半身が獣そのものであったりと様々だ。


ただ、一つだけ俺は思う。


人の形にワンポイント獣を交えただけで、どうしてああも魅力的になるのか!

愛らしい顔に犬耳犬鼻をつけるだけで女性の魅力が跳ね上がる。

尻尾まであった日にはご飯何杯でもいけてしまいそうだ。

ここに宣言しよう。獣娘は正義であると……。


「ランスのところに行くか」


朝から異世界妄想を爆発させてしまった。

一人でバカなことをしてしまった恥ずかしさから冷静になり、あくまで俺の存在は本編主人公のお助け役である。本来登場しない人物なのだ。

ヨハンはランスの親友であり、ランスのために何かしてやりたいと思っているヨハンの意思を組んでやらなければならない。

 

ランスは始めて王都エリクドリアにやってきた際に利用した門で門番をしている。

仕事場に行くのは初めてのことだが、緊急事態だから仕方ない。


「よう、ランス調子はどうだ?」


ランスを見つけるのは簡単だった。

門番は出入りする者の名前や物資を確認する仕事をしている。

配属されたばかりのランスがする仕事はあまりないのだろう。

他の門番がしている仕事を見ているような立ち位置にいた。

仕事の邪魔をしてはいけないので、休憩時間を聞いて話をすることにした。


「二日ぶりぐらいなのに随分と久しぶりだな」

「俺達はずっと一緒だったからな」

「そうだな。でも、今はヨハンに先を越されてるな……」


ランスが空を見上げて黄昏。

その表情はどこか誇らしく嬉しそうな顔をしている。


「そうか?俺なんて歓迎されてなくて上官にイジメめられてるぜ」

「本当か?」


イジメという言葉に反応して、ランスが本気で怒っているような真剣な顔になる。


「大丈夫だよ。庇ってくれる人もいるからな。社会人として鍛えられてると思えば大丈夫さ」


これでも前世記憶持ちだからな。


「そうか、まぁ鍛えられてるなら仕方ないな。本当にヨハンは大人になったな。

なんだか雰囲気まで変わったような気がする」


知力が上がったお陰で纏う雰囲気が変わったんだろう。

着ている服も王女様直属ということもあり上質なローブだ。

第三魔法師団支給の緑色のローブは冒険者をしていたときの俺なら絶対に手に入れることができない。


そういうランスは門番として兵装が渡されたようで、小奇麗な恰好になっている。


「そんなことはないさ。それよりも聞いたか?」

「ああ、また戦争が始まるらしいな」

「そうだ。そこでランスに良い話を持ってきた」


俺はニヤっと笑う。


「いい話をする顔には見えないぞ」

「そうか?お前にとっては本当にいい話だと思うんだがな」

「それで、なんなんだ?」

「今度の休みはいつだ?」

「なんだ?休みに何かあるのか?」

「おう、俺と一緒にクエストを受けてほしい」

「おいおい、俺達は正規兵だぜ。冒険者の仕事をしたらまずいだろ」


ランスは基本的な真面目な性格だ。

騎士を目指すのもカッコいいと言うこともあるが、マジメで正義感が強いからだ。

だが、今回はそれではダメなのだ。それでは本編が進まない。

ゲーム中では戦争に参加するために装備を整える。

そのためにも兵士だけの給金だけでは足りないから冒険者として稼がなければならない。

主人公としてのキャラは悪くないが、賢いとは言えない。 


「兵士の訓練や装備だけで、前にあった戦争を生き残れると思っているのか?」

「うっ、それは確かに厳しいけど。規則が……」

「休みの日まで縛られることはないだろ?一日だけだ。付き合えよ」

「はぁ~ヨハンは強引だな。わかったよ。付き合うよ。それで何をするんだ?」

「山賊退治だ」


俺はニヤっと笑う。そんな俺を見てランスは溜息をついていた。


この山賊退治という任務は、ゲーム中ではシナリオ中に組み込まれている。

いつ起こるのかは不明だが、条件として獣人王国との戦争が決まった時点で発生するはずだ。

ランスの休日と合わせれば間違いない。


ランスと別れた俺は、早速冒険者ギルドに行って目ぼしいクエストを探してみる。

場所は獣人王国と公国の国境沿いにあるエリクドリア領土内。

そこに何をしに来たのか知らないが、獣人のお姫様が山賊に襲われているはずだ。

それをランスが助けて、戦争を終戦させるカギを握るのだ。


「俺もゲームの世界を満喫してるなぁ。

まぁ、本来はランスが他の冒険者と手を組んでイベントに挑むんだが。

今回は俺がいるし大丈夫だろう」


名 前 ヨハン

年 齢 14歳

職 業 冒険者(ランクC)戦士、エリクドリア王国第三魔法師団所属

レベル 32

体 力 260/260

魔 力 140/158

攻撃力 178+10

防御力 236+10

俊敏性 221+10

知 力 209


スキル 

斧術3、投擲1、攻撃力上昇、防御力上昇、敏捷性上昇、体力自動回復、魔力消費半減。アイテムボックス、経験値アップ


魔 法 

ヒール4、ウォーター5、ファイアー1、ストーン1、ウィンドー1、ライト1


兵 法 背水の陣


スキルポイント 7


スキルや魔法が大部増えたな。実践は未だに恐い。

恐いけど思っている間は俺は人として大丈夫だとも思えた。

死を感じることもある。それでもこの世界を楽しいと感じ始めている。


「俺とヨハンが融合してきてるんだろうな」


元の世界の自分ならば人が死ぬことに敏感だった。

死からは逃げたいとすら思っていた。

気持ちは変わってないが、立ち向かうべき心をヨハンがくれている気がする。


「ヨハンの願いは俺の願いだ。俺はランスを騎士にする」


ヨハンのたった一人の親友である。ランスのために俺は動くと決めているのだ。

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