第16話 山賊討伐 2

一番近くにした俺がリンを掴んで共に滑り落ちていく。

マズイ状況に陥った。

目の前には大きな荷物を持った五人組、上からはランスとフリードが落ちてくるはずだ。ランスたちを放って置けば逃げることも出来ない。


「すっ、すみません」


抱きかかえているリンが泣きながら何度も謝っている。

リンが悪いわけではない。

疲れているところにフリードの声が重なり驚いて足を踏み外してしまったのだ。

誰が責められる。責められるとするならば強行軍を強いた俺自身だろう。


「リンは何も悪くないから、もう泣き止んでくれ」


リンの肩を抱いてやり背中を擦る。

五人組は突然現れた俺達に戸惑いっていたが、リンの泣き顔を見て嘲り笑う。


「なんだガキじゃねぇか!こんな山奥で何をしてやがる」


上からではほとんど見えなかった顔も下に降りてみれば月明かりが照らしてくれる。

はっきりと見える山賊風の衣装と悪人面。

まぁ間違っていてもいいかと思える相手に俺はむしろ怒りが湧いてきた。


「あんた達を退治しにきたのさ。あんた達が持っている荷物をもらうぜ」


リンを背に庇い様子をうかがう。一向にランスたちが落ちて来ない。


「おうおう。威勢だけは一人前だな小僧」


先頭を歩いていた男は道案内役などではなかった。

5人の中で一番大柄で、強そうな見た目をしている。

五人組のリーダー格なのだろう。


「リン、魔法は使えるかい?」

「ここでですか?」

「ああ、ファイアーボールを特大サイズで頼む」

「特大サイズ?そんなのどうやれば」

「イメージするんだ。君ならできる。魔力を振り絞れ」


魔法はイメージだ。

ファイアーボールが作れるのであればサイズを変えるなど魔力を注げば誰でもできるはずだ。


「やってみます」


リンが魔法を唱える。小さなファイアーボールが俺達の頭上に浮かび上がる。


「なんだ~?その豆みたない火は、それで俺達を殺そうってか?ギャハハハハ。笑わせやがる。マジシャンが居てもそれじゃあ意味がねぇな」


男の声に後ろの四人も笑い出す。


「荷物を置いとけ、小僧は殺してもいい。後ろの女は奴隷に売るぞ。

魔法が使える女のガキだ、金貨がもらえるかもな」


男は下衆な笑顔を浮かべて、俺達ににじり寄ってくる。


「今だ!」


俺の声にリンが作り出したファイアーボールが特大サイズへ膨れ上がる。


「なっ!」


男たちは特大サイズのファイアーボールに度肝を抜かれる。


「撃て!」


リンがファイアーボールを放つが大きいだけでノロい。


「なんだ?こんなのが当たると思っているのか?」


リンがイメージできたのは、デカいが遅いということだったのだろう。

そこにアクセントを加えてやる。

右手にウィンドーカッター、左手にストーンエッジを作りす。

二つの魔法をリンが作り出した特大ファイアーボールにぶつける。

 

風によって切り裂かれたファイアーボールは無数に分かれて速度を増し、ストーンエッジに炎が纏わりついて山賊たちに襲いかかる。


「ぎゃあああ!!!」


男達が悲鳴を上げてのた打ち回る。荷物から離れたのが男達の運の尽きだ。

魔法も要は使いようである。一つの魔法でダメなら合成されることで強力な攻撃力を生み出すように変えればいい。


「貴様ら!!!」


半身を焼いても男は立ち上がり、ヨハンたちを睨み付けた。

大ダメージを受けたようだが、他の部下たちも起き上がってきた。


「リンは下がって」


すぐにリンに隠れるように言って斧を構える。


「あらよっと」

「っす」


戦闘モードに入った瞬間、二人の山賊が倒れた。


「遅くなってすまん。木に引っ掛かってた」


ランスは詫びながら剣を振るう。

話ながらも二人目を倒してしまう手際は随分と腕を上げたのが分かる。

フリードも短剣を突き刺して二人目を無効化した。

奇襲とはいえ、ためらいの無い戦いにフリードが優秀であることがうかがえる。


「さすがはヒーローだな。美味しいところを持っていきやがる」


ランスの主人公体質に笑ってしまう。ヒーローは遅れてやってくるものだ。

ここぞと言うときに助けてくれるからありがたい。


「それはどうも、それで?あんたが親分かい?どうする?」


三方向を固められ、男の額に汗が流れる。


「ちっ!」


男は持っていた斧をランスめがけて投げた。隙を作って逃走を図ったのだ。

俺とフリードの投擲が同時に放たれる。

俺の手斧は男の肩に、フリードの投げナイフが男の心臓に突き刺さる。


「まだ聞きたいことがあったんだぞ」

「すいませんっす。自分の投擲じゃあ、どこに当たるかまではわかねぇっす」


絶命した山賊の頭を見てフリードが素直に頭を下げる。これ以上怒っても仕方ない。


「リン、もう出て来て大丈夫だ」


恐々と言った感じでリンが姿を見せる。


「終わりましたか?」

「もう大丈夫っすよ」

「ああ、とりあえず荷物を確認しよう」


山賊たちが持っていた荷物を開ける。

中にはお姫様が……入っているはずなんだが、中にいたのは子供だった。


「子供だな」

「子供っす」

「わぁ~可愛い」


荷物の中で寝ていたのは幼稚園児ぐらいの子供だった。

青色の髪に獣耳を生やした幼女が荷物の中にいた。

おかしい、お姫様を救ってヒロイン候補にするはずだが、幼女を救って誘拐事件を解決しのか?


「うっうん……あっ!ここはどこですか?姉様はどこですか?」


気付け薬をかがしてやると、起きた子供は姉を探して辺りを見渡した。


「ここには君しかいないけど」

「どうなってるですか?私は姉様と一緒にいたはずなのです」


幼女の慌てっぷりから想像するにヒロインは姉の方だ。

山賊退治イベントはまだ終わっていないらしい。幼女を見つめて溜息を吐いた。

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