第11話 第三師団の日常

 師団長の私的な事情によるイジメが発覚したことで、ミリューゼ様に逆に謝られるような変な構図が出来てしまった。


 それからは自分の経歴の話になり、冒険者をしていたこと。友人が門番として兵士になったこと。冒険者として、魔法の研究をするために必要な材料を自分で手に入れたいなど。


 とりあえず本当の話から、適当な話まで冒険者として活動できるようにミリューゼ様を説得してみた。


 マルゼリータ師団長が射殺さんばかり睨みつけていたが、兵舎にいても息苦しく感じてしまうのであれば自由にできる時間がほしい。

 貴族が住んでいそうな屋敷に自分の居場所があるとは思えない。


 説得が功を奏して、ミリューゼ様直々に冒険者として活動することに許しをもらえたので、師団長は奥歯を噛み締めるように血の涙を流しているように見えた。


 正直メッチャ恐かった。


「ハァー息が詰まりそうな場所だねつくづく。これなら図書館にいる方が幸せだっつうの。アリスさんにもお礼を言いたいしな」


 話し合いを終えて自由の身になったので、とりあえずいつもの日課にしていた図書館へと戻って来ることが出来た。


「すいませ~ん」

「あっ!ヨハンさん」


 アリスさんの表情は見る見る花が咲くような笑顔に変わって迎えてくれる。数日しか経っていないのに随分と懐かしく感じる。


「お見舞いに来てくださったそうで、ありがとうございます。色々と心配をおかけしました」

「本当に本当に良かったです。無事に帰ってきてくださったことが本当に嬉しい。

それにヨハンさんが活躍したって聞きました。

正規兵に採用されたんですよね?おめでとうございます」


 アリスさんは自分のことのように喜んでくれた。なんだが恥ずかしくて、頭を掻きながら照れてしまう。


「ありがとうございます」

「ヨハンさん。今日はどうされたんですか?」


 図書館に来た理由を尋ねられて、アリスにお礼を言いに来ただけと言うのが恥ずかしくて数冊の本を借りた。


「では、今までよりも難しい参考書や歴史書はありますか?」

「もう、そんな物まで読めるようになったんですか?」

「読めるかはまだ分かりません。見て勉強していきます」

「ふふふ、とっても勉強熱心なんですね」


 アリスさんの好感度が爆上がりしてりう実感がある。主人公ならば、女性陣の好感度パラメーターが見えるところであるが、俺にはそんなものは見えない。


 だが、ゴブリンでも分かるシリーズから、人間なら理解できるシリーズへクラスアップして渡してくれたのだ。歴史書にはエリクドリア王国の成り立ちが記されていた。ゲームの設定で読んだものよりも詳しく書かれている。


 参考書には、言葉の使い方や礼儀作法。文字を習うだけでは得られなかった言葉の使い方の応用が勉強できた。


「相変わらず熱心ですね」

「アリスさん」

「もう日が暮れますよ」


 いつの間にか、そんなに時間が経っていた。


「ありがとうございます。そろそろ帰ります」

「また来てくださいね」


 アリスさんに見送られて図書館を後にする。


名 前 ヨハン

年 齢 14歳

職 業 冒険者(ランクC)戦士、エリクドリア王国第三魔法師団所属

レベル 28

体 力 230/240

魔 力 110/120

攻撃力 160

防御力 220

俊敏性 212

知 力 186

スキル 斧術3、スマッシュ、アイテムボックス、経験値アップ

魔 法 ヒール4、ウォーター5

兵 法 背水の陣


スキルポイント 11


 難しい本で勉強したことで、レベルが2も上がっている。ヨハンの基本スペックの低さのためか、それとも苦手なことに挑戦しているからかレベルアップが早い。帰ったらさっそくスキルを確認しよう。


 帰りは露天商に寄ってみた。ランスは今頃門番をしていることだろう。主人公の活躍は気になるが、俺は俺としてこの世界を楽しむと決めたのだ。


「おっ、兄ちゃん久しぶりだね」


 露天商が並ぶ商店街に行ってみれば、見慣れたオジサンやオバサンに声をかけられた。情報収集をするためにこの辺ではよく買い物をしたので、露天商たちとも随分顔見知りになった。


「ああ、戦争に行ってたからね」

「なんだい。志願兵だったのかい?」

「おうよ。無事に帰ってきたけど」


 アイテムボックスも手に入れた上に、志願兵としての報奨金を得ることが出来た。さらに第三師団へ入団したことで支度金まで用意してくれたので懐は潤っている。


 さっそく入手したアイテムボックスの凄さが際立っている。アイテムボックスの中に入れておけば時が止まっているので、素材が腐らないので入れた時のままの状態で出てくる。


「今日は大量に買うからさ、まけてくれよ」

「仕方ないねぇ~」


 露天商を周り、数カ月分の食料と武器や防具の呼びも買っておく。備えあれば憂いなしだ。王国はまだまだ戦争に見舞われることが決まっているのだいつ戦争が始まってもいいように、揃えられるときに揃えておくに限る。

 

 老後を迎えるためにも生き残るには食料が必要不可欠だからな。


 新たな住居となった第三魔法兵団の宿舎へと戻ってきた。帰ってきたと言った方がいいのかもしれないが、俺は明らかに歓迎されてない。それでもここにいるだけで金が入る。宿代がかからない上に自分の部屋もある。立派なベッドや机まであるのだ。ここを拠点にできるだけの準備をしておくべきだろう。


「帰ったか」


 エントランスに入ると神経質そうな男、名はジェルミーと紹介された。第三魔法師団の副団長であり、マルゼリータ直属の部下だ。


「ただいま戻りました」

「うむ。食事は自由だ。明日はミーティングがある。出席するように」

「わかりました」


 ジェルミーは確かに無愛想で言葉が少なく、顔は神経質そうだが。本当は面倒見のいい人だった。

 質問をすればちゃんと答えてくれるし、ここでの生活についてはこちらが疑問に思ったことを聴く前に教えてくれる。物凄く気の利く先輩だった。


「ではな」


 要件を伝えるとジェルミーは去って行った。


 食堂はミリューゼ様お抱えのシェフが全員分を作っているらしく最高級の料理が食べられる。つい食べ過ぎてしまうのが意地汚くはあるが、本当に美味しいので仕方がない。

 広い食堂ではあるが、 魔法師団の連中は魔法の研究に明け暮れているらしく自室にこもって出てこない。

 実際、マルゼリータとジェルミー以外にあったがことがない。


「魔法は勉強したいが、どうするかな?」


 これだけ広い屋敷なので、図書館ぐらいあるかもしれない。明日ジェルミーにでも聞いてみよう。

 

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