第9話 帰還
「知らない天井だ」
召喚、転生、されたら一度は行ってみたい定番セリフを言ってみた。
「イッテェー」
全身が痛い。今残っている痛みは筋肉痛のようなものだ。
黒騎士との戦闘を何とか生き抜いた俺は三日三晩眠り続けた。
傷自体は、王国の治療師が治してくれたので、すぐに感知したらしいが体力の消耗と魔力を枯渇させるまで使い切ったことで、精神の回復が遅れたという説明を受けた。
帰りはミリューゼ王女様が手配してくれた馬車に負傷兵と供に運んでもらった。
出発する際に集合した兵士宿舎の空き部屋に寝かされ、四日目に目覚めてからは一日一度の検診を受けて三日が経った。
幸い手も足もどこも無くしていない。健康体まで回復することができた。
「よっ、良く生きてたな」
本日は退院することも決まりランスが来ていた。
寝てる間は毎日お見舞いに来ていたらしい。寝てたので知らんけど。
「よう。でっ、首尾はどうだ?」
「お前のお蔭で俺は指揮官を倒せたよ」
勝鬨が上がったのはランスのお蔭だった。主人公様はイベントを上手く消化した。
あのとき魔物を指揮していた男が倒されたことで、魔物たちは虐げられたことで公国側に攻撃を始めて戦況が一変した。
つまりは、ランスの活躍で我が国が勝ったのだ。ランスの大手柄だ。
「やったじゃないか、これで正規兵だな」
「おう。まぁそれはお前もだけどな」
「はっ?俺は無様に黒騎士の野郎にノされただけだぜ?」
「俺もそう思ってたんだけどな。お前はどうやら王女様を護ったことになっているらしいぞ」
「はぁ~?」
主人公のためにメインヒロインを護っただけなのに、意外な副産物がついてきた。正直、ランスの言葉に我が耳を疑ってしまう。
「まぁ俺にもわからねぇけど。お互い正規兵に成れたんだ。騎士に向けて第一歩だな」
ランスのあっけらかんとした言葉に、考えるのが馬鹿らしくなってくる。
「それもそうだな」
「だろ。まぁまだ正式採用じゃないらしいからな。
辞令を持った人がそのうちお前のところにも来るんじゃないか?」
「お前のとこにはもう来たのか?」
「おう。俺は下の下、門番からだ」
「いいじゃねぇか。正規兵になったんだからよ。応援してるぜ」
「おう」
ランスは街の散策に行くと言うので帰っていった。
ふと、未だに痛み残る体は戦場を思い出させる。
戦場は恐かった。
人が死に、自分も死と隣合わせの中で必死だった。
普通に話をしていた仲間が死ぬ光景が頭から離れない。
血が手にべっとりとこびり付き、それでも襲ってくる敵をなぎ倒す。
あれこそ地獄だった。
「あなたがヨハンさんですか?」
緑色の髪に眼鏡をかけた無表情な女性に声をかけられた。
「そうです。あなたは?」
「私はミリューゼ様付き、近衛騎士が一人、マルゼリータです」
六羽(ロクヨク)のお一人でした。
六羽とは、姫将軍の異名を持つミリューゼ様を護るために作られた女性だけの近衛騎士達のことだ。
構成人数は常に六人で、いずれも戦闘、礼儀、教養の三つを兼ね備えている貴族の女性たちだ。
ゲーム中でも重要な役割をもっており、メインヒロインであるミリューセ様攻略時には障害であったり、お助けキャラであったりと色々活躍してくれる。
「マルゼリータ様?」
名前を反復しながら、目の前にいる美少女について思い出す。
確かマルゼリータは魔法を得意としている知的参謀キャラだったはずだ。
「はい。今日はあなたに辞令を持ってきました」
「近衛騎士様直々にですか?」
「そうです。これは姫様からの勅命でもあります」
勅命という言葉に緊張する。
「本日をもって、あなたを第三魔法師団所属とします」
「はい?」
あり得ない事例に聞き返してしまう。
てっきりランスと同じで門番に任命されると思っていたからだ。
それなのに魔法師団?俺は斧使いですけど。
「もしかして頭が悪いのかしら?それも耳が悪いの?悪いのは顔だけにしてほしいのだけど」
物凄く罵られた。この人、口が悪い。
「頭は確かに悪いです。耳は良いと思います。顔はどうしようもないですが……」
「マトモに応えるということは素直なのかしら?辞令は伝えたわよ。これ以上煩わせないで。ケガが治り次第、魔法師団の方に顔を出しなさい」
命令口調で辞令を告げられてマルゼリータ様は去っていった。
「なんだか、ツンツンした人だな」
少し疲れもあり、横になってステータスを表示する。
名 前 ヨハン
年 齢 14歳
職 業 冒険者(ランクC)戦士、エリクドリア王国第三魔法師団所属
レベル 26
体 力 120/230
魔 力 30/103
攻撃力 154
防御力 218
俊敏性 204
知 力 132
スキル 斧術5、スマッシュ、経験値アップ
魔 法 ヒール4、ウォーター3
兵 法 背水の陣
スキルポイント 30
なんだか物凄いレベルアップしていた。ステータスもかなりの上昇率だ。
項目まで増えてる。
・兵法、背水の陣(逃げずに自分よりも格上と戦う際、全能力2倍になる)
嬉しいのはスキルポイント30だな。
スキルが何でも覚えられるんじゃね?とりあえず新しいスキルを物色しますか。
レベルが20を超えたこともあり、覚えられるスキルが増えていた。
とくに気になるモノはないかと、物色しているとアイテムボックスと鑑定が目についた。
アイテムボックスは、スキルポイント25を消費することで獲得てきる。
今あるポイントをほとんど使わなくてはならない。
鑑定は、スキルポイント15で得られる。
悩んで末にアイテムボックスを手に入れた。
次に25ポイント溜められるのがいつになるのかわからない。
25ポイントを払うだけの価値はあると信じたい。
「これで、手持ちが軽くなるな。多分」
とりあえずケガが治ってから出頭だと言っていたから、今はゆっくり休ませてもらおう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます