第5話 戦争が始まるらしい

【キシナリ】は10年の時間を騎士になるために過ごす。10年の間に三度大きな戦争が起きることが決まっている。

 そんなことをすっかり忘れていた俺が図書館から帰ってくると、宿で興奮したランスに出迎えられた。


「おい、知ってるかヨハン!」


 ランスに肩を掴まれて揺さぶられる。


「何のことだよ、ランス。何かいいことでもあったのか?」

「良いことも何も、騎士になる方法がわかったんだ」

「へぇ~一日で凄いじゃないか」

「まぁな」


 ランスは得意げな顔で鼻の頭を掻いた。ランスの嬉しいときの癖だ。本当にいいことがあったのだろう。


「女か?」

「なっ!なんで分かるんだ」

「お前のことで、いいことって言ったら女のことだろう。このムッツリスケベ」

「誰がムッツリだ」


 ランスは美女と緊張して話せない。だが、それは俺が思うに女好きだからだ。間違いない。こいつこそ、ムッツリスケベの決定版だ。


「はいはい。それで、何があったんだ?」

「今日パン屋に行ったんだ」

「おいおい、お前も懲りないね」

「いや、今日は追い出されたりしなくて普通に入れたんだよ。それで話せたんだけど」

「へぇ~お前が話せたなんて珍しいな」

「いや、まぁ話せたというか、向こうが話してくれたんだ」

「ああ、なるほど」


 ようは向こうから話しかけられて、それを聞いたということか。


「それで、何を話したんだ?」

「それが……」


 ランスが美女との話を思い出す。


「あなたは兵士の方ですか?」

「いっいえ、自分は冒険者で、この街に来たばかりで」

「ふふふ、そうなんですか、立派な剣をお持ちだから」

「これは、父の形見で」

「ごめんなさい」


 形見という言葉に彼女表情が曇り謝られる。


「いえ、大丈夫です」


 固まっているランスは、それだけを応えるのがやっとだった。


「なんだか、可笑しい人。きっと真面目なのね。あなたみたいな人が兵士になって、騎士様になってくれたらいいのに」

「えっ?兵士になったら騎士になれるんですか?」

「貴族の方ならね。すぐに騎士になれるんでしょうけど、平民だと兵士に志願して階級を上げないと無理じゃないかしら?」


 ランスは彼女の言葉に感銘を受けた。


「ありがとう。俺、騎士になりたいんだ」


 あまりの喜びに彼女の手を握ってしまう。


「ふふふ。本当に可笑しい人。私はメリル。あなたはなんていうの?」

「ランスです」

「また、パンを買いに来てくださいね。騎士になれるように応援してます」


 話をしながら、顔がニヤニヤしているランス。イベント消化おめでとうと内心拍手を送ってやる。


「それで兵士に成ればいいか……それっと冒険者を続けながらでもいいのか?」

「詳しいことはわからない。明日は兵士になれる方法を調べて来るよ」


 ランスは舞い上がりながらも明日の予定を決めているらしい。


 多分……彼女に会いに行くんだろうな……


 ランスとの会話を終えて、本日のステータスをチェックする。


名前 ヨハン

年齢 14歳

職業 冒険者(ランクC)戦士

レベル 16

体 力 120/130

魔 力 17/40

攻撃力 103

防御力 94

俊敏性 130

知 力 83

スキル 斧術3、経験値アップ

魔 法 ヒール1


スキルポイント 10


 勉強で得た経験値に、新たに得た経験値アップの1,5倍のお陰で、今日もレベルが3上がっていたいた。

 ゲームスタート時にパーティーの平均知力が100前後だったことを思えば、知力も人並みになってきたことになる。

 それに乗じて魔力も17から40まで増えてくれた。これは魔力の原理を読んだ効果だろうか?とにかく順調に成長しているのでスキルを次なるステップに進めたい。


 魔法が使える世界に転生したら絶対に魔法使いになりたいと思っていた。魔法戦士とかカッコいい。とりあえず魔法をぶっ放したい。

 ぶっ放すといえば、火力重視の火系魔法か?華麗な風系魔法だろ。


 だが、何度も考え抜いた俺はあえて水系魔法に取ることにした。なぜかというと、もし金がなくなったときでも喉は渇く。ダンジョンなど長期依頼に出た時も役に立つ。水が生み出せるならば、喉の潤いを癒すことができるのからだ。

 

 魔法って本当に便利だ。


「なぁ、そろそろ冒険者の仕事もした方がいいんじゃないか?鍛錬も大切だろ?」

「それもそうだな。明日は依頼でも取ってくるか」

「頼むな。俺はいつものように図書館にいるから」

「お前こそ大丈夫か?本ばかりで、腕が鈍ってないか?」

「バカにするな。俺の斧は最強だ」


 最強と言いつつ、楽して儲けるために魔法の鍛錬中とはランスに内緒にしておく。実戦で驚かせた方がサプライズとして面白いだろう。


 次の日もやってきました図書館へ。


「あれ?今日も来られたんですね」


 アリスさんの反応がなんだが鈍い。俺なんかしたのか?


「何かあったんですか?」

「はぁ~わかりますか?何でも隣国と戦争になるらしんですよ」


 どうやら心配ごとがあったので、元気がなかったらしい。俺が何かしたとかじゃなくてよかった。


「戦争ですか……大変ですね……」


 恋愛シュミレーションRPGゲームとしての大型イベント第一弾だ。平民が騎士を目指しているので出世するために戦争が度々起こる。

 ゲーム初頭にあった戦争といえば隣国のアスターカ共和国との戦争だ。あまり強い敵は出てこない。これに参加することで騎士としての道が開かれるはずだ。


「ヨハンさんは恐くないんですか?」

「正直、戦争の経験が無いんで実感をもてないんですよ」

「そうですか、ヨハンさんは幸せですね。私なんて王都に生まれたので何度か経験してるんです。遠い土地で戦っていると分かっていても恐いです」


 アリスの話を聞いても、実感が湧いてこなかった。それでも自分とランスは、この戦争に参加することは分かっていた。


「まぁ今は考えても仕方ないです。今日はこの間のゴブリンでも分かる文字の書き取りをしたいのですがいいですか?」

「書き取りですか?」

「はい。ペンと紙は買ってきたので、机をお借りします」

「お好きにどうぞ」


 アリスは心ここに非ずな様子だ。自分のことを勝手に済ませようと本を借りて書き取りを始める。

 確かに字は書けるようになったし、計算もできるようになった。だが、まだ書いていないのだ。汚い字を書いていては情けない。

 習字を習っていた現世としては、この世界で達筆と呼ばれるぐらいに字が綺麗にかけるようになりたい。


 一日を使って書き取りを開始する。360字を一つ一つ丁寧に書いていきながら、しっかりと覚えなおすのだ。

 日が暮れるまで練習をすると達筆とは言えないが、其れなりに見えるような字になってきた


「これでもレベルが上がるのか……」


名前 ヨハン

年齢 14歳

職業 冒険者(ランクC)戦士

レベル 18

体 力 100/150

魔 力 43/51

攻撃力 108

防御力 100

俊敏性 132

知 力 101

スキル 斧術3、経験値アップ

魔 法 ヒール1、ウォーター1


スキルポイント 8


 文字が書けるようになった。

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