第6話 戦争に参加します

 宿に帰ると案の定というか、ランスが戦争の話を持ってきた。


「なぁヨハンは聞いたか?」

「戦争の話か?」

「そうだ。なんでもそれに志願したら兵士に成れるらしいんだよ」

「臨時じゃないのか?」


 ヨハンから臨時などの言葉出るなど、俺は勉強したかいがあったと泣けてくる。低スペックヨハンが人並みヨハンへ進化した。いつかは高スペックになって見せるぜ。


「それはわかんねぇけど、活躍すれば正規兵にしてもらえると思うんだよ」


 ランスの行っていることは正しい。共和国との戦いでそこそこの活躍をすれば、兵士として取り上げてもらえるはずだ。


「まぁ、そうかもな」

「だろ。だから俺はこの戦争に参加しようと思う」

「そうなるよな。俺も行くよ」

「いいのか?」

「俺はお前と一緒に騎士になるために村を出たんだろ?行かなくてどうするよ」

「そうでなくっちゃ。行くぜ、兄弟」

「おうよ」


 ランスと共に戦争に参加を決めた。


 夜が明けるのを待って、すぐに俺達は志願兵になるべく王都にある兵士宿舎へとやってきた。


「スッゲー」


 兵士宿舎は城近くの貴族街にあり、古ぼけた館を宿ととは比べられないほど立派な建物が立っていた。同じく立派だと思った冒険者ギルドの三倍は大きな建物だった。


「本当にここでいいんだよな?」

「お、おう」


 冒険者の時に着る戦闘服を身に纏い志願しにやってきた。


「うん?お前達はなんだ?」


 立派な鎧に身を包んだ青年がこちらに声をかけてきた。青年は髪を短く切り揃え、好青年という感じの色男だった。


「私達は志願兵としてきました。ランスです」

「ヨハンです」

「おう。それは助かる。今は人手が足りないからな。とりあえず名前を書いてくれ」


 青年に連れられて受付に行く。受付にはゴリラのような顔をしたゴツイ男性が座っていた。


「ドリー、どうしたんだ?」

「この二人が志願兵として来てくれたんだ」

「おう、その心意気は良し。俺はガンツだ。よろしくな」


 ゴリラ兵士は立ち上がり握手を求めてくる。ガンツとドリーの名前に聞き覚えがあるように思ったが。モブキャラだったのか、すぐに思い出せない。


「よろしくお願いします」


 ランスは元気に挨拶をして握手をしている。


「よろしくお願いします」


 冷静に返事をして握手をした。ゴリラの手はデカかった。


「とりあえずここに記入だな」


 志願兵に名乗りでた者の名前と得意な武器を書きこむだけの簡単な受付だ。


「第一陣はすでに出撃していてな。志願してくれた二人は第二陣の兵士として出陣してもらうことになる」


 名前を書き終えると、ガンツがこれからについて説明してくれた。


 現在三将軍の一人が先陣として出陣しており、後続の第二陣として参戦する。指揮官はこの国で一番有名な将軍で姫将軍の異名を持つ。ミリューゼ王女様、もちろん攻略対象の女性の一人で王国始まって以来の才女である。

 さらに騎士としての腕もあり、メインヒロインだ。

 

 確か最初の戦争で王女を見て、ランスが一目ぼれするはずだ。


「「よろしくお願いします」」

「おう。出陣は明日早朝からだ。出陣式もあるので、なるべく早く集合していてくれ」


 ガンツの説明が終わり、俺達は一旦装備を整えるために宿へと帰った。


「よし!これで俺も兵士だ」

「おいおい。まだ気が早いだろ。活躍して初めて兵士だろ?」

「俺は絶対に活躍する」


 まぁ、ランスはこの戦争で活躍する。ゲームではこの戦争で活躍しなければシナリオ上進めない。絶対に活躍するようになっているのだ。


「そうだな。俺も頑張るよ。それよりも装備をちゃんとしておこうぜ。俺は死にたくないからな」

「そうだな」


 それぞれの武器の手入れをして、予備の武器とアイテムを買いに行く。

俺は手投げ斧や、魔力、体力を回復させるアイテムを買った。

 ランスにもランスにも予備の剣と回復薬を渡しておく。食料は支給されると思うが、念のために水と保存食の確保はしておく。なんやかんやと荷物が多くなるが、戦場では何が起こるかわからない。備えは大切な準備だ。


「心残りはないか?」

「俺、メリルさんに会ってくるよ」


 ランスからパン屋の美女の名前が出る。こいつも主人公をしてるんだなとニヤニヤしてしまう。


「おう、行って来い」


 どんな美人か見てみたい。だが、俺が行くことでイベントを失敗させるのも忍びない。今はランスのイベントを消化させてやる方が先決だと身を引いた。荷物を置いてからいつもの図書館に赴く。


「いらっしゃいませ。あっヨハンさん」

「アリスさんこんにちは」

「なんだか、今日はいつもより精悍な気がしますね」

「そうですか?ああ、志願したんです」

「えっ!」


 俺の言葉にアリスが戸惑い驚いた表情をする。眼鏡の奥から見える瞳が潤んだようにも見えた。


「わっ私が不安だって言ったからですか?」

「ああ、まぁそうかもしれませんね。

アリスさんの不安を少しでも取り除けるように頑張ります」


 まったく考えてなかった。上手いこと言っておけば好印象だろ。


「ヨハンさん!」


 いきなりアリスが立ち上がり、俺を抱きしめる。


「えっえっ」

「私、嬉しいです。私のためって言ってくれる人なんて初めてで」


 どうやら思った以上に好感触だったらしい。


「私、ヨハンさんの帰りを待っています。無事に帰れるように祈っています」


 そういうとアリスにキスされる。アリスの方が歳上な筈なのに、不慣れなキスで歯と歯がぶつかって痛かった。それでも眼鏡美少女にキスをされるのは悪い気がしない。


「頑張ります」


 照れて、そんなことしか言えなかった。いつもの通り勉強するなどできるはずもなく、嬉しさからホッコリしながら宿へと戻った。


「ヨハン、お帰り」


 そこには部屋の隅で三角座りで蹲るランスの姿があった。


「どっどうしたんだ?」

「メリルさんに怒られた……戦争に行くなんて最低って……」


 ああ、そう言えば次のメリルイベントは戦争から帰ってからだったな。まぁまだ次があるさ、気を落とすなランス。


「大丈夫だって、ちゃんと帰ってきたらメリルさんも許してくれるよ」


 確か帰ってきたら、心配してたって抱きしめてくれるはずだ。


「そうかな?」

「おう、だから頑張れよ」

「俺、頑張るよ」


 若干だが元気を取り戻したランスにホッとしながら、眠りについた。

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