異世界の業者を見破るためのあるある5選

ちびまるフォイ

異世界転生者を食い物にする

「ここはどこだ……俺は車を運転していたはずなのに……」


「気がつきましたか。今、あなたは異世界と現世界のはざまにいます」


「あなたは?」


「私はスタイル抜群でちょっとエッチな美人女神です♪」



【業者あるある 1】

 なぜかスタイル抜群の女からアプローチを受ける。



「あの、俺を元の世界に返してくれませんか?」


「実は異世界では今大変なことが起きているんです」


「家で俺の帰りを待っているペットがいるんです」


「あなたに世界を救ってもらうため、ここに召喚しました」


「せめて一時的にでも戻してもらえませんか? 後で戻ってきますから」


「あなたならきっと異世界を救うことができます!

 この方法で異世界を救った冒険者がたくさんいるんです!

 そうして人生の成功者になりませんか?

 いつまでもこき使われる人生でいいんですか?

 現実世界と異世界との往復だけで人生終わらせていいんですか!?」



【業者あるある 2】

 自分の話したい内容を押し付けてくる。



「わかりましたよ。世界を救ったあとは現実世界に戻してくれるんですね」


「それはもちろん。異世界に入界にゅうかいするんですね!」


「会員制だったんですか」

「1名様ごあんなーーい!」


男は異世界へと転送された。


「さて、と。世界を救えと言われてもこれからどうしたものか……」


男は手を前に出して呪文を唱えた。


「ステータスオープン」



HP:9999999999999

MP:9999999999999

攻撃:9999

防御:9999

知識:9999

敏捷:9999


「なんだこのステータス!? ぶっ飛んでるぞ!?」



【業者あるある 3】

 いきなり都合の良いことが起きる。



自分のステータスを見てあっけにとられていると、

遠くの路地裏の方で女性の悲鳴が聞こえた。


「きゃーー! たすけてーー!」


「へへへ。お嬢ちゃん、よく見ると可愛い顔しているじゃないか」

「オレたちとちょっと遊ぼうや」


「待て! その子を離せ!」


男は持て余しまくりの超パワーで悪党をふっとばす。

助けられた女性は震えながら男に抱きついた。


「ありがとうございますっ。本当に怖かった……!」



【業者あるある 3(再)】

 いきなり都合の良いことが起きる。



「実は私、一国の王女なんです。

 城下が気になってでかけたんですが悪い人に絡まれて……」


「お、おう」


「この御礼をしたいので、ぜひ私の城に来てください!」



【業者あるある 3(再々)】

 いきなり都合の良いことが起きる。



男は終始ペースを他人に握られていることに違和感を感じ、

さすがにこれには待ったをかけた。


「いえ、俺はこの世界を救って一刻も早く現実世界に戻る必要があるんです」


「でしたら、なおのこと私の城に行くべきです。

 そこではどうやって世界を救うのがいいか卓越したメソッドがあります!」


「メソッ……ド?」


「城のセミナーに参加するだけでアップラインの人たちが

 実践しているメソッドを理解できるの!

 これは最新のMLMでお互いにウィンウィンになれるのよ!!」


「は、はぁ……」

「さぁ、早く城へ!」


「あの、あなたはそのメソッド?をすでにご存知なんですよね」


「ええもちろん! あまりに素晴らしいからあなたにも教えたくてたまらないわ!」


「あなたの口から説明することはできないんですか」


「もちろんできますよ! ↓くわしはこちら!↓」

 <URL>



【業者あるある 4】

 なぜか外部に案内したがる。



男はその後も猛烈なアプローチを受けて疲弊。

これを振り切る労力よりもさっさと城に行ったほうが楽なのではと折れて向かうことに。


城に着くと「アップライン」と呼ばれる王の玉座にいきなり通された。


「君がこの世界を救いたいと思っている冒険者かね」


「はい。俺にはぶっ飛んだ能力もあるのできっと世界を救えます」


「ううむ。たしかに君の能力は見たところすごそうだな。

 しかし、食べ物には気を使っているのかね?」


「食べ……え?」


まるで想定していなかった質問に男の目は点になった。


「たとえば、世界を救うために敵の根城へ向かうにしても

 食事を抜いてしまっては本来の力も出ないし判断力の鈍るだろう?」


「そうですね。そこは道中の宿で食事を取ればいいかと」


「そんな雑に生活していては健康が損なわれるだろう!

 いいかね、健康第一。体はあらゆる世界平和のために必要なんだ!」


「どうしたんですか急に」


「この城では冒険者と自然との調和を理念に、

 体に優しくありつつも健康にしてくれるオーガニックサプリを作っている。

 我々はこんなに素晴らしいサプリをもっとたくさんの冒険者に使ってもらい

 健康を維持し、より世界を救うための冒険に赴いてもらいたいと思っている!」


「普通に売ればいいじゃないですか!

 いちいちこんな城に呼んで売りつけるほうが手間でしょう」


「素晴らしい原材料を使っているために宣伝にお金をかけられないんだ。

 だが、この城の人達はみんな使っている。そうだろみんな!?」


「ソウデス」「ヤセラレマシタ」「アナタモシアワセニナレマス」


「なんか怖いですよ!」


「町の貧乏商人が売っている粗悪なものを口にするのではなく、

 あなたのような優れた冒険者にこそ我が城のサプリメントで

 健康ハッピーライフを送ってもらいたいのだ!」


「いや世界救うって話じゃなかったの!?」



【業者あるある 5】

 なぜか別の話にすり替わっている。



「と、とにかく俺は一刻も早くこの世界を救いたいんです。失礼します」


「おい閉めろ」


王の命令で門の鍵が固く締められた。


「ちょっと、いったい……」


「君はまだ全部話を聞いてないじゃないか。

 ちゃんと話を聞けばこの良さがきっとわかるはずだ」


「ワカルマデカエサナイ」

「アナタモコチラガワニ」

「イッショニセイコウシマショウ」


男にはこの周囲一体を焼け野原にするだけの力はあった。

けれどそれは魔物を倒すための能力で人間相手に使うわけにいかない。


目のうつろな人間の前では、

どんなにチートなステータスを持っていてもただの一人の人間にしか過ぎなかった。


「どうやら君は異世界からきたようだね。

 健康を害したことで死んでこちらに来たのだろう。

 ならばこのオーガニックサプリアロマの良さがよりわかるはずだ」


「ち、ちがう……俺は……!」


男は城の人間たちに羽交い締めにされた。

口には怪しげなサプリが近づけられてゆく。


「さあ、まずは飲んでみれば市販品との違いがわかるはずだ。

 この良さを知って、お前のこの世界に健康という幸せを振りまくんだよ」


「やめろーー! 俺はーー」


「さあ! さあ! さあ!!」


今にも口にサプリがねじ込まれようとしたとき。

男は羽交い締めにしていた人を投げ飛ばして目つきを変えた。



「俺はーー異世界警察です。ここで違法な異世界行為の調査で派遣されました。

 すでに証拠は十分に集まったわけですが、なにか言うことはありますか?」



王は脂汗をダラダラ流しながら震える声で答えた。



「私以外の違法な奴らの情報をバラしたら、紹介料はいただけるんですよね……?」

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