第14話
上履きの色からも、友達が言ったように後輩だということがわかる。
一眼見て愛くるしい笑顔が可愛い3人組だなと思った。だけど私はこの3人を全く知らない。
もしかして、私が忘れてるだけ?そうだったら申し訳ない・・・。
心の中で葛藤を繰り広げる私に、
「初めまして、1年の須藤です」
「同じく1年の石原です!」
「同じく1年の松井です」
3人は笑顔でそう言う。
そして須藤と名乗った女の子が1枚の紙を渡してきた。
それは、私がいつも持ち歩いているファイルに挟んでいたお兄ちゃんのデザイン画。
妹ながら、気に入ってデザイン画を譲ってもらったのだ。そしたらお兄ちゃんときたら調子に乗り始めて、端にふざけて「KOUZUKI」なんてサインまで書いた。
呆れたけど、お兄ちゃんすっごく喜んでくれたし、デザイン自体は大好きだから・・・。
移動教室で持ち歩いていた時に落としたんだろう。
「うちの学年に「こうづき」なんて名字の人いないから・・・。先生方に聞いたら、2年生にこうづきさんがいるって言われたので」
松井くんの言葉を受けて、私は自然と笑顔になって「ありがとう・・・!」とデザイン画を受け取った。
「それで・・・」
「それで?」
予想外の続きの言葉に私は顔を勢いよく上げる。
顔を上げた私の前にあったのは、期待に満ちた3人の表情。固まる私を前に、3人の中では「本題」であろう話題を切り出したのは、石原さん。
「私たち、劇団をやってるんですけど・・・。衣装を作って欲しいんです!」
「・・・はあ」
「このデザイン画の洋服・・・めっっちゃ素敵で!もう,一目見たとき「これだ!」って思ったんです!このデザイン画の洋服、作ってくれませんか?お願いします!」
「私も、しーちゃんがこのデザイン画見つけた時、この洋服絶対衣装として舞台で着たいって思って・・・!」
「僕はついさっき見たんですけど、めちゃくちゃかっこいいって思いました!」
お願いします!!と3人同時に深々と頭を下げられて、私は思わず周りから降り注がれる視線が気になってしまう。通りすがりの友達に「何、明音どうしたの」なんて言われたり、先生たちもギョッとしてこちらを見てくるので、私は周りの空気に勝てずに
「わ、わかった!だからお願い、頭を上げてください・・・!!!」
舞台の衣装制作を許可してしまった。
なんでこう、お兄ちゃんが絡むことってすごいことになるんだろう。
なんだか、お兄ちゃんの洋服に、私がこぢんまり静かに生きようとしていた世界をこじ開けられているような気がする。
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