第11話
家に戻るとお母さんが私の大好きなハンバーグを用意して待っていた。
程なくしていつもより少し豪勢な夕飯が始まって、デザートにはホールケーキが登場する。
中学生ぐらいから、歌を歌ってもらってろうそくの火を吹き消すなんてちょっと恥ずかしいなって思ってたけど・・・、今年は特別だからか、恥ずかしくはなかった。
今年の誕生日は、私とお兄ちゃんが同い年になった誕生日だ。
「はい、今年のお兄ちゃんからのプレゼント」
ケーキを食べていたらお母さんが2階からお兄ちゃんからのプレゼントをとってきた。
お兄ちゃんは生前、私が18歳になるまでの誕生日プレゼントを用意していたらしい。本当は20歳分用意したかったみたいなんだけど、間に合わなかった。
「ありがとう」
「何入ってるの?お母さんにも見せて見せて!」
お母さんに急かされてプレゼントを開けてみると、そこには綺麗な髪飾りがあった。
「飛鳥・・・、乙女だな」
髪飾りを見たお父さんが呟いた言葉に、お母さんは吹き出して
「本当!でも、センスはいいよね」
明るく笑う。
お兄ちゃんが見えている今年は、なんだか不思議な気持ちになる。
今お兄ちゃん、どこにいるんだろ・・・。なんか、このプレゼント受け取った後に会うの気まずいな・・・。
「そういえばさ。明音はなんで小芝高校にしたの?」
「えっ・・・」
プレゼントされた藍色の髪飾りを眺めていたら、不意にお母さんの声が飛んできた。驚いたのと、答えに迷ったことがあって私は黙り込んでしまう。お母さんはそんな私を優しく見つめながら言った。
「洋服が好き、っていうのもあるんだろうけど、明音のことだから・・・。お兄ちゃんが行きたがっていた高校だからって思ってるんじゃないかなって、お母さん思ってたんだ」
「・・・うん・・・まあ・・・」
「ありがとうね。でもね、明音。嫌になったらいつでもやめていいのよ」
「・・・」
「明音が好きなことして、明音がお兄ちゃんの歳を超えていくことが、お兄ちゃん1番嬉しいと思うんだ」
お母さんの言葉に、私の中で押さえ込んでいた何かが溢れそうになる。それを抑えながら自分の部屋まで行ったら
「ハッピーバースデー!イエーイッ!!!!ハッピバースデートゥーユー!」
お兄ちゃんが、どこから出してきたのか、ケーキの帽子をかぶって歌いながら踊っていた。
「相変わらず反応ないな」
踊るのをやめて嫌味っぽく言うお兄ちゃんに、私はお兄ちゃんからのプレゼントを投げつけた。
「何すんだよ!」
「なんで死んじゃったんだよバカ!!!」
「はあ!?」
「なんで誕生日プレゼントだけ残して死んじゃったんだよバカ!」
「・・・」
「私・・・、お兄ちゃんと同い年になっちゃったじゃん!」
我慢していた涙が溢れた。
お兄ちゃんに怒るのは間違いだってわかってた。お兄ちゃんは何も悪くない。1番犠牲になったのはお兄ちゃんだ。わかってる。
私は両親や英輔さんと違って、お兄ちゃんのことは覚えてない。それでも、心のどこかで寂しかったんだ。
お兄ちゃんがいなくて。
「仕方ないだろ」
「・・・」
「お前はこれからも、こうやって兄ちゃんの歳を追い越していくんだよ」
そう言ってお兄ちゃんは床に落ちたプレゼントを拾った。
「明音は生きてるんだから」
誰よりも生きたかったはず、誰よりも今生きている私が羨ましいはずのお兄ちゃんは、そんなことを微塵も感じさせない笑顔を私に向ける。
「生きてるんだから」と言ってくれてるお兄ちゃんに、涙を見せ続けるのは違うと思った。
「・・・はい」
「やる気のない返事だなー。気合いを見せろ、気合いを」
「・・・はい!」
「足りない!」
「はい!」
3回目でようやく「合格」と言ったお兄ちゃんは、しんみりした空気を入れ替えるように私にそっくりな指を鳴らした。そしてどこから用意したのか、コンビニで売られているような小さなケーキを出してくる。
「え!どうやって買ってきたの・・・?!」
「ああ、魔道士に買ってきてもらった」
「ええ!?やだ、魔道士の買ってきたケーキとか食べたくない!いかにも怪しいじゃん」
「なんだよそれ!お前どんだけビビリなんだよ!」
さっきまでの空気が嘘のように言い合いをしながら、仕方なくケーキを食べて・・・。
寝る前に、もう一度お兄ちゃんがプレゼントしてくれた髪飾りを眺めてみた。
「あ」
これ・・・、鳥の形か。なるほど。
鳥のシルエットに詰め込まれた、真昼の澄みきった青空とも、星の白さが映える濃紺の空とも言い難い、なんとも綺麗な藍色に私は自然と笑顔になった。
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