眠れぬ夜を過ごす

@pikosuke

眠れぬ夜を過ごす君へ

 右も左もわからない少年に話したかったこと。


 目が腐った少年だった僕のために、


 できるだけ正しく説明しようと思う。

 ____


『何回地球が回ったときの話?』


 人間の歴史は長い。


 それは学校で習った話だ。


 チンギスハンとか、織田信長とか、色々名前を残している人がいてそれが数珠つなぎに人類という物語を形作っている。でも、エジソンだとか偉大な発明家がたくさんいたのに、どうして僕たちは人間から別の存在になれなかったんだろう。


 サイボーグ忍者とか、スーパーマンとか、ロボブレインに


 天才たちが考えたことはよくわからない。


 だけど、もし僕にその才能があったなら人間を根本的にひっくり返す発想をしたかった。


 マルクスにはその発想があったようだけど、彼は失敗に終わってしまった。

 資本主義は確かに搾取といった鬼のようなシステムで成り立っているけれど、人間が作ったシステムの全部が全部資本主義的ではないんだ。ちゃんと制御をしようとして、それで救われる人もたくさんいるのに忘れてしまう。


 それは、思考したときに細分化して選別してしまうからどうしても極端に理想化した世界観を構築してしまうんじゃないか?例えば、ユークリッド空間で便利なことはたくさんある。でも、新しいデザインにしてしまった方が便利なことだってあるんだ球体幾何学とかね。

 つまり、絶対的な世界を作り上げれば、皮肉にもその秩序の高さから細部がどんどん見えてしまう。絵に例えるなら、美人画の背景が粗かったら大したことないななんて言われてしまうようなことで、本当の意図は背景の粗さを含めて一枚の絵を作り上げているだけなのに。


 そういった皮肉から、


 ただ単にそこに人間があるだけだということを人々が往々にして気づくのは簡単な世界の理だ。全くの不条理で因果関係などない。

 いくら調べても、人間がただあるだけといったことの理由付けにしかならない。


 君も気づいているだろう?

 それでも地球は回っているなんてことは、コペルニクスが言っていたことのってことに。


「どうでしょう?本当に地球が回っているのか、それともみんなが地球が回っていると思い込んでいるのか、私はよくわからないんですよ」


 わかったわかった、君がそこまで疑り深いなら、もうちょっとだけ話そうと思う。

 ____


『図書館が焼かれても』


 筆記が発明されて以来、人類の歴史は記録され続けてきた。


 それは確かに多くの不幸な失敗や、思い込みにすぎない妄想が記録され続けて情報が氾濫してきた世界であった。要するに無秩序と秩序を往復しているイライラする世界だ。古代に科学と言える発見があったにもかかわらず、アレクサンドリア図書館が焼かれたせいで英知を失い、色々な分野がやり直しを食らう羽目になってしまったのは大きな失敗だったと言える。


 でもそれに気づかなかっただろうか?


 わからない。


 いま、インターネットにある情報と本を全て消し去られてしまったら人類が一からやり直しを食らってもみんな必死に作り直そうとするだろう。


 僕たちの目的は一致している。とにかくうまく生きることを求めているんだ。自分たちが失敗のないように、次の人々が失敗しないように。同じ思いをしてほしくはない。


 それだけなんだ。


 だから、僕たちは地球が回っていることを証明することをやめはしないだろう。

 人間がただあるだけということを証明して、

 それでちゃんと懸命に生きようと思うだろう。


 けれども、どうしても不幸な奴がいてもうどうしようもなくなってしまった。

 破壊の衝動を抑えきれなくて、ダメだけどやってしまう。

 そんな稀有な奴が生まれてしまう事実。

 それが絶対に悪いとは思わない。でも別のやり方があったんじゃないかとは思う。

 一つの答えは、人間の行動を制御することだ。


 古代から宗教は支配と直結している。

 現実的な問題があって生まれているとそう思うと

 人間の上位の存在があることを認めた宗教はある意味論理的なのかもしれない。

 絶対と言える戒律、世界を構築する原因と、その創造者がいる。

 その世界では、一人ひとりに意味があってそれのために生きる価値がある。

 そういった、理由と正しさがある。


 頭の良い無口な青年が、ちょっと見ないうちにカルト宗教にドはまりするのは頭が悪かったことを表しているんじゃないんだ。もっと深刻な悲しい理由がある。

 それだけこの世は不条理で無味乾燥としたくだらない世界だと気づいてしまったからだ。それに気づかないでレイシストたちは宗教家たちをポップコーンを食いながら笑い物にしている。自分たちがダサい色眼鏡をかけていることには何も触れず。


 本当にそうであるかなんて、確かめようのないことで

 服の流行によってダサいかダサくないかが判断されているだけなんだ。

 ______


『尾崎豊』


 人間のために作られた世界が自然にあることと思えなかった子供たちは

 不完全な箱庭を否定し始めるだろう。


 ただの多数決じゃないか!


 みんな間違っている!


 世界は広いんだ!世界はもっと美しくあるべきなんだ!


 分かり合えない大人をにらむ


 そうやっていままであったことを否定することで新たな方向に進もうとするのが賢いところなのだけれど、それが復讐や添削ばかり考えてしまって全く悪い方向にしか進まない。本当はその大人も直したくても直せない難しいことに板挟みされているだけなのに。

____


『眠れぬ夜を過ごす君へ』

これまで書いてきたことは、絶対なことじゃない

なんなら天邪鬼にしか聞こえないだろう。

「何の解決にもならない!もっと実利のある答えをよこせ!」

落ち着いてくれ……。


君が数学の授業で習うような公式は数学の授業にしかない。


かといって一般論がないわけじゃない。

(数学は色々の分野で使われているし、動点Pの存在意義だってある)

たまたま君がその場でうまくやれなかっただけなんだ。他の場所ではうまくやれる可能性とうまくやれない不可能性が現実にあるだけなんだ。


ジャン=ポール・サルトルは人は賽子サイコロと同じで、自らを人生へと投げ込むと言った。


つまり、である。


でも、その運ゲは投げる方向とタイミングはその人にゆだねられている。

運以外の要素を排除したら賭けは最高の面白さを持つ。


どんなに小さいことでもだ。


そう思うと、気が楽にならないか?

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