五限目『例年とは異なる、最高の夏休みについて』

第31話 『夏休み最初で最高の予定』

「先輩! 明日から夏休みですね!」

「んー? ああ、そうだな」

「どうしたんですか? なんか……いつも通り辛気臭いです」

「おい。そこはいつもとは違い、だろ」


 昼休みにやってきた田島に悪口を言われながら、俺はラノベに目を通す。

 あの件以降、田島はやたらと俺の傍に来るようになり、付き合っていた理由も「俺の気を惹きたかったから」と、何とも言えなくなってしまったので有耶無耶にした。……それで勢いづいたのかもしれないが。


「楽しみじゃないんですか!?」

「夏休みを楽しみだと思えるのはリア充だけだ。俺は勉強してる方がいいね!」

「作本くん、授業中漫画読んでるよね」

「おいおい、横槍飛んできたなぁ」


 純己は横槍だけ飛ばして、くすくすと笑ってトイレに向かった。

 なんだアイツ。普段絡んでこなかったクセに、いらんタイミングで絡みやがって。


 むうと膨れる俺の前に田島が座ると、にこやかに微笑まれた。何この子、超可愛い。

 いやぁ、なんか俺、ラブコメしてんなぁ。


「あてっ」

「顔キモイよ」

「そんなキモイ顔してたか?」

「うん。いつもの1.1倍くらい」

「あ、お前も俺の事バカにしてくるんだ」


 後ろからチョップしてくるのは、話に参加していなかったコマツナだ。

 和やかな雰囲気は一転し、バチバチと火花が散り出した。


「小松さん、わたし作本先輩と話してるんですけど」

「もうすぐ休み時間も終わるよ? 教室に戻ったら?」

「いえいえ。授業サボる覚悟してるので」

「それはダメだろ」


 グッとこちらにアピールする田島に思わずツッコミを入れるが、それ以前にラノベ読む俺の邪魔しないでもらえる?

 後ろからコマツナが威嚇、前からは田島が威嚇。それを俺の頭上でやられてるのだから、たまったもんじゃない。


「とりあえず、放課後もう一回来い。そして俺の頭上で話すな」

「むぅー! 仕方ないですね、誑かされないでくださいよ!」

「誰にだよ。水越先輩か? めっちゃ嬉しいなそれ」

「嬉々としないでくださいー!」


 ぷんぷんと怒って去っていく田島。

 すると、コマツナが後ろから耳元で囁いた。


「やっと、邪魔者いなくなったね」

「お前も座れよ。授業始ま――ったぁ!」


 突然のビンタに何事? とコマツナに視線を向けると、怒って去っていく。

 ……なんだ? 意味わかんねぇ……。


 俺は辺りにも目を向けると、みんなやれやれといった風にこちらを見る。

 あの件以降、俺に対する態度は変わっていった。おかげで少しは有名になれたが、目立つとそれはそれで恥ずかしさが生まれる。うん、根が陰キャなんだね。


 *


「せ・ん・ぱ・い! 明日、暇ですか!?」

「あ、ああ……暇だけど。夏休みだし」

「じゃあ遊びに行きましょう! どこか行きたい所ありますか!?」

「べ、別にねぇ……けど」


 すごい剣幕な田島に気圧され気味な俺。

 疑問が絶えない俺の元にやってきたのは、田島だけではなかった。


「ダメだよ、柊。私と遊ぶって約束したじゃん」

「え? い」

「だーかーらー、ごめんね? 田島さん?」


 ふふん、と何故か得意気になるコマツナに、むーっと頬を膨らます田島。

 女って生き物は本当にわからん。これもう、俺帰っていいかな? 怖いし、泣いちゃう。


 と、俺を引っ張り合う中、割って入ったのは。


「間をとって私とどっか行くのはどうかしら? あの件の礼も兼ねて……ってことになるけれど」

「是非お願いします」

「「即答!?」」


 いがみ合う二人ではない。俺が選んだのは水越先輩だ。

 何があっても、どんな約束があっても。水越先輩に誘われれば行くのは必然。だって好きなんだもん!


「水越先輩どこ行きたいですか?」

「ふふ、そう急かさないで。時間はあるわ、帰り道にでも話し合っていきましょう?」

「わかりました!」


 俺と水越先輩は和気あいあいと教室を後にした。

 残されたコマツナと田島は互いを見つめ合う。そして先に口を開いたのは――


「今日の所は引き分け……ですね」

「……そうだね」

「でも負けた訳じゃないですから!」

「それは私もだよ!」


 互いがニヤッと笑うと、スマホを取り出してメールを送った。


 そして、俺の例年とは異なる、最高の夏休みとなる――

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俺にベタ惚れな後輩があざと可愛すぎる件について 柊木ウィング @uingu

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