第26話『学生の休み』

「どうした、いきなり呼び出して」

「す、すみません……呼び出したのに遅れてしまいまして」

「いや、俺も着いたばかりだから気にするな。立ち話もなんだしな、どっか行くか?」


 土曜日、俺は突然呼び出しを喰らった。

 田島のメアド持ってなかったため、水越先輩経由で教えてもらった。……クソ、なんかめっちゃ良い雰囲気の中で聞こうと思ってたのに。


 とまあ、そんな経緯で俺は待ち合わせをしたわけで。

 一先ずメアドを交換し終えた俺達は、話し合いの場――のつもりで移動したのだが。


「なんで?」

「えへへ、してみたくなりまして……ダメですかぁ?」

「い、いや……いいけど」


 上目遣いで瞳をうるうるとさせる田島に、俺はグッと唇を噛み締める。

 クソ……わかってんな! それが女子のする仕草で一番可愛いんだよ……!


「と、とりあえず始めようか」


 来た場所はボウリング場。

 コマツナとしか遊ばず、それも高校からは疎遠気味になっていたとなれば、俺の遊ぶ範囲は狭まる。

 映画もカラオケも焼肉もボウリングも……一人じゃハードルが高いため行けねぇ!


 久々のボウリングに気持ちがはやるのを抑えながら、名前や靴のサイズなどを記入していく。

 当然マイボールもシューズも無いため、借りていざ始まる。


「先ずはわたしからですね!」

「おー、頑張れよー」

「んー……ここだ!」


 転がされたボールは一直線に真ん中へ――は行かず、ガターへ吸い込まれる。

 落ち込み気味の田島に、俺は「もっと左から」と提案した。

 結果は好調で、八ピン倒れて喜ぶ田島。


「上手く行きました! ふふふ……アドバイスなんかして、わたしより下手だったら笑っちゃいますからねっ!」

「ふはは、んなわけねぇだろ」


 キメ顔で指を突きつける田島をあしらって、俺はボールを構える。

 アドバイスが成功する俺だぜ……究極! 無敵! 最ッ強!


 *


 ボウリング場を出た俺達は、次は映画館へと向かっている。

 何やら観たい映画があるらしく、田島の付き添いといった形だ。


「せーんぱーい、ボウリング下手でしたね!」

「ぐうの音も出ねぇ……」

「まさかあんなに意気込んで最終スコア九十……あははは――ったーい! つねらないでくださいよぉ!」


 けたけたと笑いながらバカにする田島の頬をつねり、俺はむすーと機嫌悪くなる。

 考えてみれば、俺ボウリング初めてだ。You〇ubeで見た事はあっても、初めてなんて恥ずかしすぎて言えたもんじゃない。

 だから素直に受け入れるしかなく、映画で気分をリフレッシュしようと考えている。


 さて、今回観る映画はなんだ?

 ギャグかアクションか……女子と観るなら恋愛映画も有り得るな。


「これです、先輩! わたし、これが観たいです」

「どれ……え、え? ……え?」


 リフレッシュしようと思っている気分は既に無くなり、こいつが選んだのはホラーだった。

 いやいや……ホラーなんて所詮子供騙しだろう? 俺なら大丈夫、だって高校生だもん!


「怖いならやめときま」

「さあ行こうか、死地へ!」

「え、映画観る……ん、ですよね?」


 俺の妙な言葉回しに、田島は困惑気味だ。

 気にしない、俺は俺の事で精一杯だからな!


「――めっちゃ怖いじゃん」

「結構でしたね、最後に女の人が……うわあっ! って……あ、す、すみません……」


 本気でビビる俺に、田島は素で謝った。

 やめてよ、その優しさに泣いちゃうよ。


「つ、次はカラオケ行きませんか?」

「今日はやけに遊びたがるな……いいけどさ」


 まだ時刻は十四時。

 遊び時としては間違っていないので、俺はカラオケを承諾。てか、行ってみたいし、初めてだし!


 *


 カラオケルームは意外にも暗く、これめっちゃ密室だし……男女二人ではいっていいのか?


「先輩先輩」

「ん?」


 俺が問うと、田島は耳元でこっそりと。


「ここ、監視カメラ無いんですよ?」


 ふふ、と笑って長椅子に座る田島。

 え、今それ言っちゃう? 俺、男なんだけど!?


「どうしたんですか? 歌いましょうよ」

「そ、そうだな……」


 平然を装え、俺。水越先輩が好きなんだろ? それだけは忘れるな……よ?

 それにここはカラオケ屋だ。歌ってりゃ忘れてくだろ。


「どっちから歌う!?」

「おお! 急にやる気満々ですね! どうぞ、先に歌ってください!」

「っしゃ! 俺の美声を聴かせてやるぜ」


 とりあえずアニソンは避けた方がいいよな……。となるも歌えるのは――あれ、王道しかないな。

 まあ王道ならわかるだろうし、歌声を聴かせるに充分だ。


「――七十三か、うわ! 平均大きく下回ってんじゃん!」

「せ、先輩……」

「いや待って? 哀れまないで?」


 カラオケがまさか、こんな鬼畜部屋だったとはな……。

 次は田島だ、何を歌うんだ?


「先輩と一緒のを歌いますね」

「お? それで俺より低かったら笑いもんだぜ?」


「――俺より高いんかい。フラグ立ってなかった?」

「九十二点、上出来ですね!」


 るんるんな田島に、俺はふっと鼻息を吐く。

 楽しそうでなによりだ。ここ最近、こういった息抜きが出来ていなかった気がする。

 俺も田島も夫馬先輩に振り回され、学校生活へも支障をきたしていた。


 二週目も同じような点数で終えると、田島は俺の方に近づいてきた。

 疑問符が過ぎるが、座っていた俺を前から襲う形でやってきた田島は、


「先輩……あの、カラオケの後なんですけど、焼肉行きませんか?」

「ほんとに今日はすごいな、なんでそんなルートを?」

「ゆ、ゆず先輩に聞いたんです。作本先輩は半ぼっちだから、行ったことないだろうって」

「合ってるけど!?」


 なんで知ってんの!? めっちゃ恥ずかしいんだけど!?


「お金が無いなら出します! な、なので……最後に焼肉だけ、行きませんか?」

「俺が行ったことないからか?」

「それもあります……けど、焼肉屋でなら話もしやすいかと」


 しおらしく言われ、俺は目を逸らしてしまう。息子が落ち着いてくれてるのに感謝しながら、そう言えば今日特に話もしてないなと思った。


「大丈夫だ、金はある。なにせ、半ぼっちな俺は使い道が無いからな!」

「かっこ悪いですね!」

「どストレートに言われると心にくるもんがあるよ!?」


 ドヤ顔な俺を笑顔で弾く田島。

 そして俺達は笑い合った。

 まだ俺達は高校生だ、学生は放課後や休みに楽しんでなんぼ。


 ――時には、こんな日常があってもいいだろ。

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