第25話『信憑性は増して』

 水越先輩と話し合って、俺はいち早く話を聞きたい人物が浮上した。


「奥浦先輩、昼休み話したいんですけどいいですか?」

「……キミが私に話があるのかい? 意外だね、でもわかった。人気のない所がいいかい?」

「出来れば……」

「じゃあ生徒会室にしようか。次移動教室だからまた後で」


 そう言って去っていく奥浦先輩に、俺は印象として〝仕事ができる人〟なんだと抱いた。

 計画的に行動しそうと思えるのに……本当に夫馬先輩とヤったのか……?


 とりあえずは昼休みまで保留といこう。

 こんなんじゃ昼までの残り二限、気持ちが昂りすぎて集中出来ねぇよ……と言いつつ、俺は寝るのであった。


 *


 生徒会室にやってくると、先に奥浦先輩がご飯を食べていた。

 遅れて申し訳なさを感じるが、奥浦先輩は見透かしたように「さあ、食べようか」と昼食へ促す。


 俺は対面するように座って弁当を広げると、奥浦先輩は単刀直入に話を切り出す。


「要件はなんだい? キミとは生徒会以外に接点が無いと思うんだけど……」

「そうですね、接点はありません。ですが、訊きたいことはあります」


 少し瞳を細めてこちらを見る奥浦先輩。

 俺は体の硬直を感じるが、怯むわけにはいかない。


「夫馬先輩が匂わせてたんですけど、正直に訊きます。ヤリましたか?」

「なかなか神経の図太い後輩のようだね……ちょっと引くよ……」


 苦笑いを浮かべているが、ちょっとどころではない程に引いている。

 ……確かに、話して数分の人に訊くことではなかったな。いや落ち着け、ここで引いては先には進まない!


「デリカシーがないかもしれません!」

「かもではないよね」

「それでも、俺は知りたいんです!」


 机に思い切り手をついて威勢よく放つ俺に対して呆気に取られた奥浦先輩。

 ……客観視したら俺って超やべぇ奴じゃね? やめよう、現実逃避、大事。


「……凄いね、キミは。そこら辺について聞いてなお、私に話しかけるその勇気が」


 ふっと息を漏らすと、奥浦先輩は話を紡ぐ。


「ヤってないさ。私は高三には珍しい処女だよ」

「そ、そうなん……ですか」

「ふふ、どうしたんだい? 顔が真っ赤だけど?」


 大人の余裕とでもいうのだろうか。

 微笑みながら俺をからかってくる奥浦先輩の顔をあまり凝視できないのは、未だ童貞であるからなのか? 絶対そう、でも性的な目で水越先輩を見てないからね!?


 ……おっと、話の脱線が酷いな。悪いの俺だけどね!


「そうなんですね。じゃあ説立証と言っても間違いじゃないか……」

「あれかい? 夫馬先輩が虚言癖ってやつかい?」

「え……なんでそれを?」

「有名だよ、それ。でも、彼はなかなかに話術があるからね。知らないのも無理はないのかな」


 そうなのか……三年の中では共通認識ということか。

 疑っていたわけではないが、これで水越先輩の発言に信憑性が増した。


「ありがとうございます。助かりました」

「ね、次私が質問してもいいかい?」

「? 俺に答えられることなら答えますが」


 そこまで言うと、奥浦先輩は口元を緩めた。


「キミは童貞かい?」

「ふぁっ」

「お、その反応はいかにもだね。彼女はいないのかい?」

「彼女……いないですが……」


 そこまで言うと、にんまりと微笑む。

 おいおい……どんどん喜んでるぞこの人!


「処女と童貞が一緒にいるってさ……やばいと思わないかい?」

「えっ……ちょっと……待ってください!」

「どうしたんだい? 彼女いなくてこの状況……一つしか起きないよね?」


 椅子から立ち上がってこちらに近寄ってくる奥浦先輩。

 奥浦先輩だって可愛いし、モテるとは思う。このまま大人になるのもアリだ……って、ならねぇよ! 俺が好きなのは――


「すみません! 俺、水越柚葉先輩が好きなんです!」


 座る俺に跨ろうとする奥浦先輩に言い放つと、奥浦先輩は少し離れてクスリと吹き出す。


「そっかそっか、ゆずっちが好きなんだね! それが聞けてよかったかな!」

「な、何がよかったん……ですか……?」

「んーん、こっちの話。キミが狼じゃなくてよかったよ。実は結構緊張してたんだ。男に迫るなんてしたことなかったからね」


 確かに離れてみれば、奥浦先輩は息が荒くなっている。

 あれは恥ずかしさと緊張の合わさりから来るというのが、目に見えてわかった。


「そんな恥ずかしいならやめればよかったじゃないですか……」

「疑問は払拭していくのが私なんでね。夫馬先輩に勝ちたいんだよね、吉報を待ってるよ」


 それだけを言うと、席についてご飯を食べ始めた。

 なので俺もご飯を食べ、少しの談笑を経て昼休みを終わらせた。


 *


 放課後になって、俺は図書室へと足を運んだ。

 特に読みたい本があるわけではないが、趣味を増やす目的も兼ねて来た。


 すると、ぽんぽんと肩を叩かれた。

 視線を向けると、すぐに俺の顔は歪んだ。


「なんですか」

「そう嫌そうな顔しないでもらいたいなぁ。すぐ終わるさ」


 夫馬先輩は俺に話しかけると、鼻で笑った。

 だけど、直感で今では無いと感じた俺は、話を聞くことにした。


「プログラム、月曜日の放課後でいいか?来る予定あるなら別の日でもいいけど」

「別に大丈夫ですよ。わかりました、放課後に生徒会室に行きます」

「おっけー……じゃあ、待ってるから」


 最後ににやりと笑ったのを見逃さなかった俺は、この土日に作戦を練ってやる。

 決戦は――月曜日の放課後だ!

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