第24話『虚言癖』
「柊とこうして話すのも久しぶりね。お茶でも淹れるわ、ジュースのがよかったかしら?」
「い、いえ……お茶でお願いします」
緊張しながら入った水越先輩の部屋は、白をベースとした部屋だ。
難しめの本や参考書が置いてある辺り、やはり受験生なんだなと思いつつも所々にあるピンクを見ると女の子らしさも感じる。
「……あ、あれは水越先輩のベッド」
水越先輩の体の感触を知っているベッドが、水越先輩の汗を吸っているであろうベッドが目の前に!
これはやばい……理性、理性だ。気をつけろよ俺!
「待たせたわ……どうかしたの?」
「い、いえ……何もありません!」
とはいえ匂いを嗅ごうとしていたため、俺はベッドに座って誤魔化していた。
これはこれで反感買うんじゃねぇか!?
俺はすぐさま頭を下げようとするが、水越先輩は「んー」と唸ったあと。
「そうね。座る場所無いしベッドの上でいいわね。疲れたら枕でも抱えていいから」
「……マジすか」
願ったり叶ったりな状況で、俺はすぐさま枕を抱えた。
水越先輩が後ろを向いた隙に匂いを堪能したり、肌触りなどを確かめていた。うん、最高。
と、独り楽しんでいると、水越先輩も座って神妙な面持ちとなった。
「今日、なんで呼んだかわかるかしら」
「(大人になるためと言いたいがくちごもって)わかりません」
「……なんか変な間があったわね。いいわ、教えてあげる」
一瞬の沈黙後、水越先輩は口を開いた。
「和颯の言うことは、大抵が虚言よ」
「……は?」
どういう意味なのか理解出来ず、俺は口をあんぐりと開けてしまう。
だが、水越先輩は構うことなく続けた。
「夢結に訊いてみればわかるわ、あの子言わされてるだけよ」
「そんなことって……」
「そもそも生徒会長である私が、何も知らずにいると思うのかしら?」
確かに、水越先輩なら何でも知っていると言われても不思議に思わない。
だが、俺はどうしても引っかかることがあった。
「じゃあ……夫馬先輩を好きって言うのは……それらを折込み済みでってことなんですか?」
「それは根本から間違っているわ」
疑問の尽きない俺は思わず首を傾げてしまう。
ふぅ、と一息吐くと、水越先輩は、
「そもそも私、和颯のこと好きじゃないもの」
「え……?」
今日半日で俺に何が起きている?
印象に残ったのは夫馬先輩が虚言癖があることと、水越先輩が今――フリーであること。
……もはや夫馬先輩はどうでもいいな!
「なら、水越先輩……俺と付き」
「好きになる要素がないと思わない? 女たらしを言いふらしているのよ?」
お茶を啜ってやだやだと首を振る水越先輩。
確かに好きな要素はないが……それよりも俺は話の腰を折られたことに心を置いている。
もう二度と勇気出ないよぅ。
「そうですね。事実であってもそうでなくとも、女たらしは嫌われる原因ですよね」
「和颯、よく女の子連れてるの。まぁ話術で……だけれど、それが噂の根源にもなってるわ」
「そうすか」
へぇと頷いて聞いていると、水越先輩は目を細めて。
「柊もさ……よく、女の子連れてるわね?」
「俺がっスか!? ……いえ、連れてませんが」
「本当かしら? あみとぅーん、夏菜、それに私……女子しか連れているのを見たことがないけれど」
「うぐっ……」
言われてみれば、俺の隣って女子以外いないような……。
嬉しくもあるが……誤解を生みかねん!
「私は少し、ほんの少しだけ柊は和颯と同じだと思ってるわ」
「んなー!? ちょっ、ちょっと……?」
「噂が出たり作ったら……距離を置くわ」
む……! それはまずい……!
俺はまだ水越先輩に気持ちを伝えきれてないのに、距離を置かれては困る!
田島と水越先輩を堕とす作戦を練ろうと思っていたが、考えものだな。
「ふふっ、冗談よ。柊がそんな人ではないと知っているわ」
「……? そうですか、ありがとうございます」
微笑む水越先輩に対して、俺は安堵に胸を撫で下ろす。
とりあえず今後の課題が増えたな。一先ずは噂を立てられないように!
そんなこんなで一時間ほど話し込み、俺は水越先輩の家を後にした。
♦――side水越先輩
本当に良い人だと思った。
素直に聞き入れ、感情もしっかりと表に出す。裏表が無さそうという印象。
「夏菜、付き合えたら君は幸せになれるわ。……ただ」
難しそうという印象も同時に受けた。
なんだかんだ、柊に好意を寄せる人が多く感じる。夢結と話すよう促したけど、もしかしたら好きになるかもしれない。
少しの時間だけど、そう思わせる性格をしていた。それに――
「上手いこと切れたけど、時間の問題かもしれないわ」
和颯を好きじゃないと言ったくだりから流れるように、柊は言おうとした。
意図的にぶった斬るのが最善手だと思って行動した。告られても私は振るし、それで恋愛に対して奥手になってほしくない。
「柊、君には私よりも素敵な女の子が周りにいるわ。しっかりと見て、会話しなさい」
一人残った部屋で、私はつぶやいた。
そう、こんなにも見て見ぬふりするような性悪な私と付き合ったって、君は幸せになれないんだから――
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