休み時間『狂いの歯車について』

第22話『空白の二週間』――side田島

 仮ではあるものの、付き合う約束をしたため今日はデートをすることになった。


「デート……なんて、肩書きだけですけどね」


 わたしにとっての初デートは作本先輩と決めている。

 ……なんて、言っても作本先輩はゆず先輩と付き合うんだから、わたしは眼中に無いと思いますけど。


 応援すると決めた以上、わたしはそれを遂行する……けど、ちょっとしたイタズラ程度に作本先輩をからかっても罰は当たらないよね!


「お待たせしました〜! す、すみません遅れましたかぁ?」


 わたしが鞄を腕から吊るしながら、手を振って夫馬先輩の元へ。

 はぁはぁと息を整えながら笑顔を作って先輩の方へ向くと、


「今日も可愛いね」

「……あ、ありがとうございます」


 これが作本先輩だったら……なんて思いながらも、わたしはしっかりと喜んだ。


 正直わたしは今、狭間に立っていると思う。

 作本先輩が付き合えるように協力すると言いながら、結局はわたしを忘れて欲しくなくてこのような疑似恋愛をしている。


 ……こんなことで作本先輩がどう思うのか、なんてわかりっこない。だからやるんだ。

 仮にも思考を乱してしまったらすみません……けど、わたしは少し嬉しく思ってしまいます♡


 *


「遊園地……ですか」

「来たことある? 流石にあ――」

「いえ……ないです……広いですね」


 目を輝かせて遊園地を見渡すわたし。

 そんなわたしをぽかんと見ていた夫馬先輩は、吹き出して笑った。


「ははは……そっかそっか!」

「もぅ……何笑ってるんですかぁ」

「ごめんごめん! じゃあ今日は楽しめるよう頑張るよ」


 ぷんぷんと怒るわたしを笑顔で受けて、遊園地を見て回った。

 先輩に引かれて手始めにジェットコースターに乗ってみた。


「はぁはぁ……なんですか、あれ……。怖い怖い……のに、もう一回乗りたいです!」

「そんなに楽しかった? じゃあ乗ろうか」


 そんなこんなでもう一回、わたしはジェットコースターに乗った。瞬間、パシャと音がした気がしたが、気にせず遊園地を満喫した。


 ――昼食――


「遊園地内にも食事出来るところがあるんですね」

「割高だけどね……気にせず好きなのたべて、僕が奢るからさ」

「え!? わ、悪いですよ……ちゃんと払います」

「ははは、疑似恋愛であっても彼氏だよ? 彼氏らしく奢らせてくれ」


 押し切られたわたしは、ハンバーガーを頼んで席に着く。

 なんだか、奢ってもらうのって気分良くないな……。やっぱり自分の物は自分で払うべきだよ。


 と、思いながらもわたしは料理を待つ。

 すると、先輩がわたしの分も持って帰ってきた。


「す、すみません! わたしの分まで」

「気にしないで。僕が先行ってって行ったんだからさ」


 爽やかな笑顔で料理を机に置くと、他愛のない会話を進める。


「やっぱり可愛いね、田島さんは」

「そんなことないですよぉ。もっと可愛い人いるじゃないですかぁ」

「それは人それぞれだって。僕は君が一番なんだ」


 そう言われて、わたしはドキッとした。

 でも、自分でもわかる。これは恋ではない、と。


 単純にわたしは作本先輩の気持ちを確かめる、わたしを忘れさせない存在に確立するための付き合いのつもりだった。

 にも関わらず、夫馬先輩はこんなわたしを一番と言ってくれた。……これは心臓に悪いなぁ。


「せ、先輩。写真とか撮るのはやめましょうか」

「ん? どうして?」

「……い、いえその……疑似、じゃないですか」


 わたしの発言に「んー」と唸りながらも、承諾してくれた。

 すみません、先輩。今のは殆ど嘘です。


 勝手な推測、自己中心的な思考から導き出して、写真を持たれているとネット社会な今では怖いんです。


「食べ終わりましたし、まだ乗りましょうか」

「……そうだね」


 何故か間があった気がしたけど、特に気にせず乗り物を堪能した。


 *


 次からもほぼ毎日のようにどこかに行っていた。

 学校のない日は水族館など、ある日はゲーセンや映画館……リア充を満喫している気がした。


 ……けど、同時に疲れも相まって作本先輩の所へは行けなくなっていた。

 出来れば恋愛相談とかしたいんですけど、体力がぁぁぁぁ……。


 ――と、甘い考えが二週間過ぎた時、事件が起きてしまった。


「オレ達さ、付き合ってどれだけ経つっけ?」

「えっと……二週間くらいですかね」


 何も考えていなかった。

 けど、時間が経った今なら「オレ」に察するべきだったんだ。


「た、田島……」


 よく聞いた先輩の声。

 震え、確認するような声色に、わたしは自分のしたことが間違いだったと理解してしまった。


 電話がぷつりと切れると、私は教室を飛び出した。

 場所は検討もつかない。それでも走るしかない。


「違った……試したい、それだけで付き合うのは違いました……! 作本先輩、夫馬先輩の言葉に耳を貸さないで下さい――!」

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