第21話『先輩後輩、そして年齢』
二週間ほどが経過した木曜日、俺はふと違和感を感じた。
あれ、田島と話してなくね?
話さなければならない義務も、用事すらもなかったがいつもなら向こうからやってくる。
ましてや振った時のあれだって、水越先輩と付き合う手伝いをするということで結論づいた。……と思ったんだけどなぁ。
「探してみるか」
教室から出てとりあえず生徒会室へ。
なんか……時々俺から探し出す時あるよな。
わからん。知らんうちに立場が……入れ替わってる!? ちょっと古いか。
「まぁ、いないわな」
なんでここに足を運んだのか、よくよく考えたら意味がわからない。
田島は生徒会メンバーじゃないし、だとしても時間でもないのに訪れる必要が無い。
「人が探しの才能がねぇな、俺」
踵を返して生徒会室を後にする。
一年のクラスを回れば出会うだろうが、俺にそんなことは出来ない。ガチ陰キャ舐めんな。
しぶしぶ戻ってラノベでも読もうと思った俺だが、ビクッと肩を震わして足を止める。
ビビんな、ビビんなよ俺。年齢が一つ違うだけで立場もほぼ同等だろうが。
「やぁ、作本くん」
「どもっス……夫馬先輩」
明るい時の夫馬先輩と瞬時に判断した俺は、素早く立ち去ろうと小走りにする。
……まぁ、そんな上手く行くわけなくて。
「少し、話さないか?」
「ごめんなさい」
「ふ、言うと思った。そこ生徒会室だしさ、座って話そうか」
なんだこいつ、人の話聞けよ。
……立場も年齢も上のヤツにそんなこと言える訳もなく、俺はついて行く。こんな精神なんだから社畜ちゃんとしても優秀だね!
*
「さて、何か質問があれば答えるけど」
「授業始まるんで戻っていいですか?」
「君、そこまで切羽詰まった成績じゃないよね? じゃあ大丈夫だよ」
優しい笑みを浮かべながら、何気に怖いことを言い出した。
俺の成績知ってんのかよ……気持ちわりぃな。成績悪かったらクソ恥ずいじゃねぇか、よかったよ。
つーか、なんか違和感あるな……。
何が違和感なのかを探るため、俺はもう少し会話を続ける。
「ぶっちゃけた話、夫馬先輩って好きな人いるんですか?」
「……いるよ」
少し溜めての発言に、俺の眉根はぴくりと動く。……いや、溜めての発言にじゃねぇ、こいつの口元が緩んでることにだ。
刹那にこの会話は望まぬ答えが訪れるのを察した俺は、話題をずらすことにした。
「み、水越先輩についてはどう思ってるんですか?」
ずらした質問が似たり寄ったりだが、咄嗟に出たということは気になっている証拠。
水越先輩は夫馬先輩を好いている。けどそれはバレないようにしなければならないのだから、俺が訊くのがベストだろう。
「あんまり質問の意図がわからないな」
「人としてどう思ってるのかなぁ……みたいな」
あはは……と苦笑いを浮かべながら、俺は適当に話を紡ぐ。
多少の話し下手な所はあるだろう。だが、そこまで悟らせなければ俺の勝ちだ。
「そういう事か……なら、答えようか」
一区切りし、夫馬先輩は口元をニヤつかせて――
「〝予備〟と思ってるけど」
「……どういう意味ですか」
知人に対して〝予備〟扱いすることは殆どありえないこと。
先同様、嫌な予感が俺を襲った。故に素早く話を切り替えよう――と思ったが、時すでに遅し。
「あいつオレのこと好きだろ? だからさ、遊びまくって最後に選んでやろうかなって。顔もスタイルもいいしな」
「な……ッ!」
軽くの想定が出来ていたが、まさかそのまんまくるとは思ってもいなかった。
――しかも、違和感の正体も同時にわかってしまった。
「口調か……」
優しげな口調。それは本来の自分を隠すための姿だろう。
気づけなかった自分に腹が立つと同時、発言に対しての苛立ちも相まって。
「ふざけんじゃねぇよ……!」
「ふざける? どこが? これがオレだろ?」
噂通りであると知っている今、疑う余地すらない。
だからこそその思考への腹立ちが倍増するんだろう――が、それでは止まらず。
「ちょっと電話していいか?」
「……は? 何言ってやがる、俺との話を切ろうと――」
「敬語、忘れんなよ?」
口を押さえつけると、携帯をすらすら動かして電話を開始。
俺はただそれを見ることしか出来ず、止めることすら出来ないでいると、電話が繋がった。
「はい?」
「――ッ!」
聞いたことのある声。誰だろう、そんな思考が過ぎる暇を与えない。
俺ですら連絡手段がねぇってのに……!
「元気?」
「元気……ですけど、もうすぐ授業始まりますよ?」
「ふ、ちょっと会話してくれる?」
俺にしーっと指を立てる夫馬先輩。
状況把握が追いつかない今、大人しくするが吉だろう。
「遊園地どうだった?」
「楽しかったです、初めてだったので……えへへ」
「また行こうか」
優しげな表情。これは堕とす時の表情だ。
警戒させず、悪であるのを見抜けない、さっきの俺のように。
……会話だけでは分からない。
こいつらの関係性はなんだ? 俺とは何一つ関係ないのか?
そんな俺を悟ってか否か、話題を切り出したのは夫馬先輩だ。
「オレ達さ、付き合ってどれだけ経つっけ?」
「!?」
「えっと……二週間くらいですかね」
そこまで田島に言わせると、俺の口から手を離す。
ガハッ……と喉の調子を整えると、俺は一言発した。
「た、田島……?」
「さ、作本……先輩、居たんですか……?」
そんな会話が交わされると、夫馬先輩は電話を切る。
田島がどんな表情をしていたのか、さっぱり分からない。
分かるのは、付き合っているのが事実で、ここまで夫馬先輩に仕組まれていたということ。
「じゃな、作本くん」
やりたい放題した挙句、俺の思考を掻き乱して去っていく。
だからこそよく思う。……俺は、きっとこいつには勝てないんだ、と。
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