三限目『生徒会の表裏について』
第17話『宣戦布告』
人生初の告白から数日が経ち、生徒会演説が始まった。
田島とはあれ以来会話を交わしていないのが心残りではあるが、それ以上に今は生徒会に入るため集中しなければ。
とはいえ、人数は水越先輩の予想通りピッタリで、受かる確率は百パーセントに等しい。
後に全校生徒に対して相応しいか相応しくないかの紙を渡すが、仮にも相応しくないと認められた場合そう書いた人の中から選ばれる事になる。
やりたくない奴らの代わりとして俺がいるのに、わざわざ自分の首を絞める行為はしないだろう。
……ん? じゃあなんでコマツナは熱心に演説を考えていたんだ?
なんて考えているうち、俺の番が回ってきた。
緊張でかみまみた状態だったと思うけど、どうにか終わらせることに成功した。
*
「よかったね、見事生徒会になれたよ」
生徒会演説から一週間が経った木曜日、初めての生徒会を前にして俺はコマツナと昼休みに例の教室へ集まった。
……なんか俺、昼休みに集まること多くね? 時間が長いし、友達とご飯食べ終えた後で来れるからか……おっと、虚しさによって目から汗が。
「人手不足でなれねぇとか、そいつどれだけ嫌われてんだって話だろ」
「私、柊は落ちると思ってた」
マジかよ。
「俺がコマツナ誘っといて、俺が落ちんの? そんな理不尽な世の中、滅び〇爆裂疾風弾で吹っ飛ばしてやる」
「そういうところ」
真顔で言われ、俺はしゅんとする。
……確かにそっすね。でもオタクとして言っちゃうじゃん? 口癖みたいなもんじゃん? 違うよね、知ってた。
「で、なんでここに来てんの? 暇なの? 俺と居たいの?」
「間違ってない」
「え!? まじかよ、俺と居たいのかよ」
「違うよ? 暇なんだ」
くるっと回って可愛らしく言うコマツナ。
サラッと俺、クソ恥かいたんだけど?
そんな俺を見てくすくすとひとしきり笑ったコマツナは息を整えて、教室を見回す。
「ここの教室とも、もうお別れだね」
「そんなに思入れあんの? 俺別にねぇけど」
「今日からは週一で生徒会、できるかな」
「お前書記じゃん。巨乳で何も考えてなさそうな子でも出来たんだし、大丈夫じゃね?」
「私、そこまで巨乳じゃないけど」
俺はその言葉を受けてチラと見る。
これは……! 巨乳どころか「ステータスだ!」とでも言いかねない大きさじゃないか……!
といった感情を表情から読み取ったのか、思いっきり引っ叩かれた。
「サイテー」
ジト目で睨めつけ、胸元を両腕で隠すコマツナ。ふっ、心配するな、お前は男と変わらな――っ痛ぇ!
再度叩かれ、まぁたしかに今のは俺に非があったと認める。
「冗談はさておき、わかんねぇことは聞きゃどうにかなんだろ。そろそろ昼休み終わるから戻んぞ」
「待っ――」
「? なんか言ったか?」
「何も言ってないよ。そうだね、戻ろ」
何か違和感を感じたが……その正体がわからず俺達は教室を後にした。
*
長机が二つ並ぶ生徒会室に、三・三が対面するようにして座る。
実質面と向かって話すのはこれが初になるので、俺はどことなく緊張していた。
「君達は初めてかしら? じゃあまず自己紹介しようかしら。私は生徒会長の水越柚葉」
「オレが副会の夫馬和颯」
「私は書記の
黒髪ロングで眼鏡をかけている奥浦先輩は、地味な見た目だけどそこはしっかり分かっている。とても胸が大きい! 地味な子に胸の大きさって定番だよね! ……俺、先輩相手にめちゃくちゃ失礼なこと考えてるな、すみません。
「じゃあ次は私ですね。書記を担当します、二年の小松夏菜です。初めての生徒会で何かとミスもあるかと思いますが、よろしくお願いします」
一礼を添えるコマツナに、拍手が生まれる。
ぼっちな俺は、大抵この手の自己紹介では苦渋を舐めてきた。話慣れないと噛むし、そもそも聞いてもらえない。聞いてもらえないってなんだよ、ミスディレクション使ってねぇよ。
だが、今は目の前に完璧な模範解答が存在する。俺はそれをなぞればいい。
「俺」
「あたしは水越パイセンから会計の推薦された一年の
コマツナ、俺、朱鳥の順で並んでいたらさ、コマツナの次は俺だと思わない? 思うよね?
あっさり飛ばされた俺を隣でくすくすと笑うコマツナを睨めつけて、微笑を浮かべた水越先輩がこちらに目を向けて。
「じゃあ次は君が自己紹介を」
「あ、はい」
促されて口を開こうとした俺に、隣から槍が飛んできた。
「居たんスか!? すみません、気付きませんでした!」
「いや……別に気にしなくていいから」
明らか陽のオーラを感じて俺は気圧された。くそう……陰の支配者である俺は永遠に陽には勝てないというのか……勝てないか。
図らずしも幻のシックスマンとなったので、気付かれずに自己紹介を済ませよう。
「えー……っと、会計、……で、名前……作本柊……ス。うす」
「え、なんつった?」
頑張った自己紹介は聞き返され、俺は戸惑いながらもさっきよりはちゃんと自己紹介をした。目立っちゃったよ、黛くん助けて!
「そうね、今日はこれで終わりにしましょうか。来週からは仕事があると思うので、気を抜かないように。他に何かある方いますか?」
「オレ。作本くん……だっけ? ちょっと話してみたいから残ってくれるか?」
「あ、はい」
初日呼び出しとかまじかよ。
(大丈夫?)
横腹小突いて問うてくるコマツナ。
きっとこいつは夫馬先輩の正体を知っているからこその質問なんだろう。
大丈夫ではないから助けてと情けねぇけど求めたい。けど水越先輩いるのに無理だよね!?
(気にすんなって)
明るく振舞って、残りの生徒会員は各々去っていく。そんな中、とある男の双眸を気にしなかった俺は後悔することになる。
*
「ちゃんと話すのは初めてだな。オレは……って自己紹介は終えたっけ」
「……っスね」
要領を得ない言葉の羅列に、俺は戸惑いながらも適当に返す。
このヤリチン野郎が何を考えているのかわからないが、とりあえずイケメンであることはわかった。俺と何が違うんだろうね。大きさかな、俺は大小問わず好きなのに!
「……っつーのは建前で」
色々妄想を膨らます俺をぶった斬る冷徹な声色が耳を貫き、思わず生唾を呑み込む。
「お前さ、田島碧海って奴に告られなかったか?」
「……答える必要は無いかと」
隠すべきかどうかわからないが、言ってしまって田島の秘密を暴露するのも何か間違っている。俺と田島しか知らないのなら、田島が言わない限り俺は隠し通す。
「あっそ。まぁ別にいいけど。アイツも可愛かったな……なんだっけ、小松?」
「……」
芯を得ない言葉に俺は押し黙るが、意に介することなく夫馬先輩は続ける。
「胸が小さかったのがアレだったけど……顔は奥浦よりもいい」
「…………何がいいたいんスか」
煮え切らない態度に沸点を超えた俺が、微量の苛立ちを交えて問いかける。
すると、口元をニヤつかせた夫馬先輩はこちらを見るなり――
「お前も勘づいてんだろ? ……だからそんだけイラついてんだろ?」
「……ッ!」
思っていることが外れていることだけを信じて願っている。だが、この様子だと――
「絶対ヤリ甲斐あると思うんだよ! ワンチャンヤリマン説もあるけど、セ○レとしては十分だろ」
「てめぇ……何言ってるのかわかっ――」
「先輩には敬語使えって、な?」
数メートル離れていたと思ったのに、間合い詰められて口を押えられた。
力つえぇな……クソ、敵キャラのような性格してるクセに!
「まずは田島からだな。お前に振られて落ち込んでるだろうし……ちょうどいいや」
「ごほっ……そんなことさせるか」
「お前の意思は関係ねーよ。オレのしてーことを先にバラしたら強硬手段に出るから、それだけは覚えとけよ」
お前はもう田島と関係ねぇだろ? とでも言いたげな眼差しが突き刺さる。
間違っていない。なにせ俺は、田島を振った身なのだから。それで新たな出会いとして夫馬先輩と付き合うのに、俺が邪魔をするのはそれこそ間違いだ。
「じゃあな、モテ男くん♡」
生徒会室を後にした夫馬先輩。
今日か明日にでも話しかけに言って、手中に収めようとするだろう。
「……だからって、俺に何が出来んだよ」
もう何日も田島から話しかけられていない。
それはもう、俺に振られたから未練を絶った証明でもある。
壁に背を当ててへたり込む俺。きっと今の俺を見れば田島も好きにはならないだろう。
……それでも、少しでも助けられる可能性があるのだから助けたい。
田島にとって救いと思うのか不明瞭だが、セ○レ扱いされて喜ぶタイプではないと思う。
「助けてやれねぇものかなぁ……」
乾いた笑いが口をついて出るが、思考は何一つまとまらない。
ただ時間だけが過ぎていく中で、夕陽が遮られた。
「先輩? ここにいたんですか」
「……は? た、田島……か?」
「そうです! 先輩の田島です♡」
あざとく微笑む田島に口をあんぐりと開けていると。
「わたし……まだ諦めたくないんです! 先輩がゆず先輩と付き合うまでは、わたしを好きにさせてみせますので覚悟してくださいね♡」
告白するには相当な勇気が必要だっただろう。現に俺は何年も出来ずにいる。
もし振られたら……なんて考えたら絶対に出来ないのに、田島は成し得た上に振られた。それでもなおこうして話しかけに来てくれるほど俺を好いてくれている……のなら、俺に出来ることは応えるべきだ。
「ははっ……何年もの恋を覆すのは不可能だと思うけどな」
「余裕ぶっていられるのも今のうちですから! 早速今日はカフェに行ってお話しましょう! さ、そんな所で座ってないで行きますよ」
テキパキと事を進める田島に促されるようにして、俺はカフェへと向かった。
――ぜってぇ夫馬先輩の好き勝手はさせねぇ。
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