第14話『勝算無き決意』
「どうしたの、柊。屋上に呼び出して」
「まぁ、使えねぇからその前の階段なんだけどね?」
おかしいよなぁ、アニメやマンガでは屋上解放されてるのに。
どうして我が校は違うのだろうか。これがラノベだからだろうか。
……なんて話は置いといて。
「呼び出したのは話があるからだ」
「話無いのに呼び出してたら殴ってたよ」
真顔で返すコマツナ。
……確かにな? 今のは俺の話の切り出し方が下手だったわ。
「じゃなくて、俺生徒会に入らねぇかって誘われてんだよ。んで、人手不足つー訳で誰か誘わねぇかって言われて、コマツナに白羽の矢が立ったんだよ」
「友達いないから?」
「抉るなぁ。間違ってねぇから否定しねぇけど」
悪気ないんだろう、表情がそう言っている。
確かに何年もコマツナ以外と話さねぇ俺だ、もはや慣れの問題でもある。いや、ねぇけど。
でも、俺はまだ恵まれている方だ。
大抵のラノベ主人公は友達おらず、女友達なんているはずがないところから始まる。そして部活やらゲームやらを通じて仲良くなり、結果ハーレムとなる。
だが、その過程で部活などが無ければ彼らは永遠のぼっち(フィクションに関係あるのだろうか)なのだ。
転じて俺は、初めからコマツナという女友達がいる。学校では極力話せず、帰りにどっか寄るなんてことも出来ない。
……あれ? 俺のが恵まれてねぇな、許さねぇぞラブコメ主人公コノヤロウ。
「断ろっかなぁ」
なんて変な思考を広げていると、コマツナは小悪魔的な笑みを浮かべて言葉を発した。
だが、これに関しては俺がどうするわけでもないので。
「そっか、まぁ無理言うのも違ぇしな」
「あれ、縋らないんだ」
「生徒会なんてなりたいって奴少ねぇだろうしな。現に人が足りてねぇから誘ってんのに、入る気ない奴無理に入れねぇよ」
「そういうとこ優しいんだね」
優しい……か、むしろ逆だ。
俺は生徒会に入れば水越先輩と少なからず話せる。入る条件……なんて大層なモノではないが、誰か誘って欲しいと言われて好感度アップのためにコマツナに声をかけた。
それをコマツナは優しさと捉えた……ほんと、自分が嫌になる。
「どうしたの?」
「な、なんでもねぇよ」
上目遣いで問うてくるコマツナに、俺は反射的に否定を表す。
恋は盲目って言葉を生み出した人に、俺は尊敬したい。きっと、今のように後の水越先輩との対談を考えて事実を言えない俺のような立場にぴったりだ。
じーっと見つめてくるコマツナに俺は思わず明後日の方に視線を向けると、小さくため息を吐いて。
「何か隠してるね。けどま、訊かないようにしとく」
「お、おお……さんきゅ」
にひっと笑うその表情に、俺の顔は熱くなる。……ったく、美少女っての罪深いな。
悶々と考え込む俺に、コマツナはぽんと手を打って。
「一緒に演説考えない? 放課後、予定ないでしょ?」
「前提が気に食わねぇけどいいよ」
時々こいつな俺をぼっち扱いしてくる。まぁ、こいつしか友達いないならしかたないのだが。
「じゃあ俺の家でするか。学校に長居するよりも早く帰れるだろ?」
「……なんか、懐かしいね」
「お前が勝手に来なくなったんだろ? 志音も不仲説出したしなぁ」
不仲説なんて近年グループ動画配信者くらいにしか使われねぇような気もするが、やっぱ現代っ子ってことで。
「コマツナが嫌なら図書館とかでもいいと思うけど……どしたの」
「ん、ん? なんもないよ。いいね、じゃあ一回帰ってから行くね」
「おう、わかった」
一瞬頬が紅潮していたようにみえるが、多分気の所為だろう。
携帯を見ると残り五分ほどになっているのを確認して、俺達は戻ろうと足を出した時――
「あれ、先輩? こんなところで女の子と二人、ナニしてたんですかぁー?」
くすりと口元を緩ませながら問うてくる田島に、俺は真っ直ぐ見つめて。
「せいとか――ぶしっ!」
「ふふっ、君には関係ないよ。さ、もうすぐ時間だし行こっか」
「人の顔面殴っといてのその態度、流石に尊敬するわ」
ったく、そこで文句をタラタラ言わない辺り、俺って良い奴だよね。
「お前もさっさと戻れよ。もう授業始まるぞ」
「せ、せんぱい……」
忠告して去ろうとする俺の袖を掴んで、切なそうな声をもらす田島。
おいおい、そんなのときめくだろ。いや、こんなのでときめくなよ俺。病気かよ、五七五で俳句作っちゃうよ。
なんて心中他所に、田島は一度目を伏せる。
そして女の子の必殺技、目を潤ませながらの上目遣いで。
「放課後、どこか行きませんか……?」
友達がいない同然の俺のいつもなら、即答出来た問だ。東大生が小学生の問題を答えるスピードすら凌駕出来るほど、簡単な問。
だが、今の俺は別の意味で――即答出来る。
「悪い、今日はコマツナと用があるんだ」
涙目で上目遣いに遊びを誘われた。しかも美少女に。
二度とくることはないかもしれないシチュエーションを、俺は今、棒に振った。
コマツナと共に居るのが嫌な訳では無い。むしろ嫌われていなかった、と俺的には安堵に包まれた。
どっちも人としては好きだ。
悪い奴らじゃないし、なんだかんだで良い奴だし何より可愛い。
――だけど。
根本として俺は水越柚葉先輩が好きだ。
だから……どっちと放課後過ごそうと、結末には何ら変化をもたらさない。
俺が先に階段を降りると、続いて降りてきたコマツナは田島の隣で止まる。
そのまま口元を耳にまで持っていくと。
(私の勝ちだね)
「じゃあな、田島。さっさと行くぞコマツナ」
「んー」
気の無い返事で応答し、コマツナは俺の隣までたたっと駆け寄る。
手を振って別れを告げた田島の姿は目に映らなかったが、俺は隣のコマツナに声をかける。
「何話してたんだ?」
「んー? 知りたい? 女の子の、ヒ・ミ・ツ♡」
口元に手を当て、可愛らしく訊いてくるコマツナに俺は。
「田島みてぇになってんな」
「えぇ……」
と、嫌そうな表情と声を表す。……露骨ゥ。
まあ女同士って仲良さそうに見えても悪かったりするしなぁ……男でもそうなのか? ぼっちにはわかんね、てへぺろ。
*
俺達は五日ほど連続して家で演説内容を考えた。
正直人手不足なら適当でも当選する気がするのだが、コマツナはやけに書き直して納得いかない様子だった。
なので五日も続いて今も続いているのだ。
その間、何度か田島に放課後誘われたのだが、コマツナを理由に断り続けている。
断り続けるのも大変、なんて聞いた事がある。俺は一生わかりえない感情だな、と適当に流していた。
――だけど、今ならわかるよ。結構辛いね! 日に日にしょんぼりする田島が可哀想で、一度くらいいいよって言いたい。
だからって……コマツナとの約束を有耶無耶にするのは違うと思う。演説内容が纏まるまでは断る――俺はそう決意していた……が。
「先輩、今日も無理ですか?」
土日を挟んでも相変わらず断る俺に、それでも田島は誘ってくる。
きっとどこかに行きたい訳ではなく、単に遊びたいというだけだろう。
――でも、
「ごめんな、まだ終わらねぇみたいだから。終わったら田島の行きてぇところ行こうぜ」
俺はそれだけ言って帰路についた。
その後ろをついてきているはずのコマツナは、田島の隣で立ち止まる。
それに気づかず俺は一足先にバス停に身を置くと、コマツナと田島は会話を開始。
「悔しい?」
「悔しいってなんですか。何かしてるんですよね、早く終わらせてくださいよ」
「そう言わないでよ、簡単なことじゃないんだから」
くつくつと肩を揺らすコマツナに、ムッとする田島。
正直どこで何が行われているのかさっぱりな田島は、情報の部分で既にコマツナに敗北している。
だからこそ不利な状況から有益な情報を引き出し、活路を見出さなければならない。
「そもそも何をしているんですか?」
「あれ、今回は訊き方変えたんだね」
いろいろ先を読もうとしたところで、勝利の二文字は訪れない。明らかな余裕を見せるコマツナ相手に、今更少し口を滑らせたところで優位には立てない。
なら……と、田島は開き直って直接訊いた。
すると、予想とは反する答えが跳ね返ってきた。
「どういう意味……ですか」
「んー? 確か五日前、柊に訊いた時には『ナニしてる』って下心丸出しだったのに。私相手だから? ふふっ、見かけ通りのビッチだね」
「ビッ……!? そんなわけないじゃないですか! わたしはまだ処――ッ」
「ふーん」
明らか下に見られているコマツナは、ふつふつと怒り湧く田島から目を切る。
そのままバス停一直線に視線を向けると、後ろ姿のまま田島に一言。
「そんな変態さんに朗報。君がもたもたしているうちに、私と柊で……デキちゃうかもね」
不敵な笑みで立ち去っていくコマツナ。
当然意味は『演説内容』だが、話の流れでそれを察するなど不可能同然で――
「せ、先輩……。わたし、どうしたら、いいんですか……?」
ぽたぽたと涙を零す田島は、矛盾点が脳裏を掠めた。
田島は元々、俺は水越先輩が好きなんだと踏んでいた。が、今回の一件でそれは違い、大丈夫だろうとタカをくくっていたコマツナとが本命と知った。
「じゃあ、わたしがとる行動は一つしかないですよね……」
涙を拭って、田島は決意した。
「明日、わたしは先輩に告白する!」
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