第13話『生徒会への期待』

 毎日毎日学校学校。

 正直うんざりしてきた。かといって仕事はしたくない。……俺、大人になったらどうなんの?

 とまあ、先のことを考えては内蔵すり潰れて死んじゃうのでやめといて。


 在り来りな学校にうんざりしてきたが、今日の俺はうきうきである。

 同盟(?)は次回の生徒会が行われるまでなくなった。それはつまり、俺と水越先輩が出会う場の消去と同義。

 なので数日会っていなかったのだが……。


「今日、会える!」


 SHRすら始まる前の学校内は人も少ない。

 そんな中で俺は、そろそろ見慣れた光景の教室にノックを三回。


「どうぞ」

「し、失礼します……」


 先輩に対して緊張というよりは、好きな人と話すことへの緊張が声を上ずらせる。

 そんな俺に水越先輩はくすくす笑って、予め用意していてくれた椅子に座るよう促す。


「ごめんなさい、こんな早い時間に……。別に放課後でもよかったのだけれども……」

「用があるのなら早く言うべきです。忘れてしまっては元も子もないので」


 真っ当なことを言う裏腹で、俺の真意は「早く会いたい話したい」だった。

 初めてでないので緊張も緩和され、普通に話せるようになっていた。


 好きな人と話せるって……素晴らしい!

 人生を初めて謳歌してる気がするぜ!


「それで、要件はなんですか?」

「……和颯と話したわ」


 神妙な面持ちのまま、水越先輩は小説を置いて言った。……うん、で?


「よかったですね」


 なんて聞き返せるわけもなく、俺はぱちぱちと拍手を送る。

 きっと俺の顔は綻んでいると思う。


 俺は水越先輩を応援する。それは約束したから実行するつもりだ。

 だが、今はまだ『話した』で俺に報告してくれる程度の進行度なのは、『一途』の気持ちが途切れなくていい。

 ……たとえそうでも、何年も積み重ねた一途が途切れるはずねぇか。


「水越先輩、は、なんで……夫馬先輩のどこを好きなんですか?」


 俺は言ってからハッとし、口元を手で押える。

 確かに考えた。だが、言うつもりはなかった。

 なぜ口をついて出てきたのかはわからない。それでも言ってしまったのは事実で。


「す、すみま……?」


 謝ろうと頭を下げようとした瞬間に水越先輩の顔が映る。

 その表情は形容しがたく、『驚いた』に近いモノだった。


「どうしました?」

「い、いえ……気にしなくていいわ」


 俺はその答えに遺憾を覚えつつも、椅子を座り直す。

 なんとなく気まずくなった雰囲気が教室を流れ、耐えきれず水越先輩は本を手に取る。


 くぅー! もはや俺の友達はボールならぬ携帯だけだというのに、今手に取るのは違うよなぁ! 俺が作り出した空気だもんなぁ!


 と、一人嘆く俺だが、このままというわけにもいかない。

 後、十分と少しでチャイムが鳴ってこの時間は終わりを迎える事は出来るが、それでは次いつ来るかわからない水越先輩との出会いを棒に振ってしまう。


(だからって……何も思いつかねぇよ!?)


 自分の乏しさを目の当たりにし、やっぱり緊張や『少しのミスもしたくない』といった感情が湧き上がる。

 ふるふると震える俺に水越先輩は一瞥すると、小さく息を吐く。そして、


「ごめんなさい、本題は今から言う方なの」

「え……?」


 水越先輩は本を置いてこっちを向くと、真剣な表情で。


「生徒会に入る気はないかしら?」

「生徒会……ですか?」


 アニメ好きな俺としては、入れるのなら入ってみたい。

 大変そうではあるがそれは会長だけであり、残りはゲームをしたりお茶を淹れたり開発したゲームを持ってきたり……とても楽しそう。そして、お可愛いことって言ってもらいたい。


 なんて願望マシマシ、それはもう二郎系ラーメンを超えるマシマシ度だが、そう簡単に入れるものでは無いと知っている。

 人望、功績。それらが生徒会への許可証みたいなもので、俺には縁遠いもの。


 ――なんて思考を先読みしたのか、水越先輩は俺が口を開く前に言葉を紡ぐ。


「前までいた生徒会のメンバーは足りなかったから私が呼んでいたの。だから柊が来てくれたら、助かるわ。それにとか呼んでもいいわ」

「意外と軽いんですね……」

「そうね。生徒会長は私、副会長は和颯、もう一人書記は女の子がやると思うから、後は書記一人と会計二人必要ね」


 そうなんだー……と感心しつつ、俺はふと一つ思う。


「書記も会計もやったことありませんが……」

「気にしなくていいわ。名ばかりだから」

「なんか聞きたくなかった」


 生徒会って意外と適当なんだな……。アニメもあんまり馬鹿に出来なかったりするのか……? んなわけねぇよ。

 まぁ……俺でも出来るのなら、入っていいかな。


「わかりました。俺でいいのなら生徒会に入りたいと思います」

「そう、ありがとう。誰か他にいるかしら? 一人くらいなら私が誘うし、あと一人でいいのだけれど」


 あと一人? ……俺が呼べるのなんて、志音しかいなくね?

 なんて思いながらスマホを開けてメールを辿ると、一秒で一人の名前が見つかった。おっと、少ないとかそういったコメントはよそうね。


「小松夏菜……しか知らないですけど、いいで――」

「ええ! いいわ、その子で! ……もう時間ね、じゃあ次は生徒会選挙で会いましょう」

「あ、はい。わかりました。ではこれで」


 俺は一礼し、鞄を持って教室を後にした。


 ♦――side水越


「危なかったわ……」


 一人になった教室で、私は窓から外を眺めて大きく息を吐いた。

 危うくがバレそうだった……けど、多分バレなかった。


「心拍数上がりすぎね、ほんと……。でも、話は上手く転がったわ」


 正直心苦しい事をしてしまったと思っている。での嘘は、ついていて自分を苦しめてしまう。

 それでもになるのなら、私は悪魔にでもなる。


「だから……後は上手くやるのよ」


 私はそうポツリとつぶやいて、教室を後にした。

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