第4話 『美少女VS美少女』
話に折り合いがついて教室に戻ると、田島は机に腰をかけて数人の男子生徒と話をしていた。
ここでスキル発動――『陰キャ』。この技を発動した者は陽キャ男子に近づけず、遠くから見守るを自動選択する。常時発動だったわ。
「昨日のテレビ番組観ましたよぉ。面白かったですよね!」
「ふへっ、やべーよね」
短いスカートで机に座り、脚を組んでしまうと視線は自ずと一箇所に集まる。
不注意すぎんだよ、田島は。美少女が短いスカートで足を組んだら、当然見るに決まってんだろ。俺もな!
だけど何も気にしない田島は、そのまま男子生徒と会話を弾ませる。
「――でさ、――だと思わない?」
「あはは――そうですね」
他愛のない会話。
誰か特定の話をしている訳では無いし、当然ながら俺にも関係はない。
――なのに、俺はどこか傷ついていた。
心のどこかで勝手に、田島に好かれている、そう思っていた。それでも俺には水越先輩という好きな人がいる。
だからどうしようか――そんな相談をコマツナとしていたのだが、それはどうやら思い違いだった。
田島碧海は好きだから近づいてきたんじゃない。そのあざと可愛いさも、俺のクラスにいる男子に見せつけるためだ。
功を奏して今、田島には男子生徒(先輩)が集まっている。
これが狙いで、俺は利用されただけ。
――そう思った途端、田島に関しての気持ちがスっと冷めた。
そんな、外から眺める俺を発見した田島は話していた男子生徒に笑顔を振りまいて、さらに小さく手を振るとこちらに走ってきた。
「すみません、先輩。待たせました?」
「……いや、今来たとこだ」
態度を変えたつもりはない。
俺はいつも通り、そして女慣れしていないが故に、無愛想に映ることも多々ある。
――だが、俺の心中が変わったことを田島は見透かしたのか、小首を傾げてこちらを見ていた。
*
「先輩もバス通なんですね」
「遠いからな。バスと電車の両方使ってるよ」
「わたしもです! あはは、一緒ですね♡」
ぎゅっと腕を掴んで来る……が、今の俺は何も感じない。賢者の俺だね。
ただ、掴まれて何も感じなくても、視線は感じるんだよ。それも鋭ければなおさら。
わかる、こういう奴ってリア充に見えるよね。俺も昨日までそうだったもんね。リア充爆発しろ! って中指まで突き立てちゃうもんね。
「お前、誰にでもこんなことやんのか?」
「こんなことってなんのことですか?」
「……なんでもねぇ」
自覚症状無し……か。もしくはこれも含めて計算なのか。
今の俺には関係ねぇ話だけどな。
バスを並ぶ俺達だが、前には幾人が抜かして前に佇む。ごく稀に先生がいるのだが、どうやら今日はいない日のようで。
「すごいですね……」
「堀智高名物、順番抜かしだ。女子の多いこの学校は、ギャルのような女子が抜かしていく」
「そうなんですね。先輩は抜かさないんですか?」
「俺が? へっ、抜かすかよ。あんま浸透してねぇけど、こう見えて俺は法律に従う系の正しき人間なんでね」
そう言う俺を「おお……」と感嘆もらして田島はまじまじと見てくる。
やめて? 女の子が怖いだけだから。いや知らんよ、知らんけど法律は犯してるよ?
そんなこんななうちに、バスがやってくる。
一応乗れたものの、席は一つしか空いてなかった。
「せんぱ」
「田島、座ってろ」
俺が促すと、田島は戸惑いあらわにおろおろしていた。
「え、なに」
「年功序列で俺がーとか言うと思ってました」
「俺をそんな奴だと思ってたの? 今まで全人類を平等に見てきた俺を?」
正確には関わってなくて特別視出来る相手がいなかっただけなんだけどね。
「先輩ってかっこいいですよね。何人と付き合ってきたんですか?」
「俺みたいな現代人はプライバシー保護についてキツく言われてきてんだよ。だからノーコメント」
「はぁ……」
少々強引な言い訳でその場を凌ぐ俺に、なんとも言えない眼差しを向ける田島。
言えねぇだろ。こんな男を取っかえ引っ変えしてそうな奴相手に、一度も付き合ったことないなんて。ニャルラトホテプから銀髪美少女でも家に転がり込んでこないかしら。
そんな変な返答をしたせいで、間が生まれた。
この間って気まずいよね。きっと俺から話すべきなんだろうけど、十六年間この間を体験してない俺には転じる技量は無いよ。
だが、俺の事を知ってか見透かしてか、田島はぽんと手を叩くと。
「一番の友達って誰なんですか? それならプライバシー干渉までいきませんよね?」
「……まあ」
なかなかのグレーゾーン攻めてきたな……。
上目遣いで問うてくる田島に、俺は一瞬胸の高鳴りを覚えた。プラスアルファで首を傾げるその姿は、やはり何度見てもときめいてしまう。
しかし、俺はそんな場合ではない。
いないなんてのは言っちゃあいけねぇ。先輩の肩書きが廃っちまう。
「そうだな……一番はコマツナだなっ!?」
俺が言い切るギリギリ前で、足を思い切り踏まれた。混雑しているバス内だ、踏まれるのはある程度仕方がないと割り切ろう。だけど、これは痛てぇよ!?
足を踏んだのは隣の奴だ。
わかっているのならば話は早い。睨めつけてやろう!
「! ……」
俺が睨みつけると、相手はリ〇ァイすらを超える目付きで返してきた。
それはそれはもう……すっと目を逸らしましたね。田島が心配する隙を与えないほど、俊敏に。つーかコマツナ、いたのかよ……。
当然そんな一悶着あったことなど知らない田島は、疑問を脳内に宿して口を開く。
「コマツナさんは男の子ですか、女の子ですか?」
俺はちらとコマツナに視線を送る。
すると、間違えるなと目で訴えるコマツナにビビりながらも、俺はこくりと頷いて。
「おとこ――ッ!?」
「初めまして、田島さん。私が彼の言うコマツナ」
「あ、は、初めまして」
俺の足を砕かんとする威力で踏んだコマツナは、何事も無かったかのように田島に挨拶。
戸惑いながらも田島も挨拶をすると、にこっと美少女である笑顔を向けていたが俺に殺意を向けて耳打ちする。
(彼女に私を紹介してって意味なんだけど!)
(いや、わかんねぇよ……)
俺達の一連のやり取りを見ていた田島は、ぷくーっと頬を膨らます。
そうなることを読んでいたかのように、コマツナは不敵に笑った。
当然何も知らない俺は、片方は勝手に怒り、片方はいきなり笑う変人が目の前にいる訳の分からない光景に出くわしている。
そんな俺には聞こえないようにするためか、座る田島にコマツナが耳打ち。
(私と彼は良い関係なの。邪魔しないで?)
(え!? 嘘、ですよね……)
(嘘じゃないよ? まあ彼に言っても、照れて答えないと思うけど)
それだけ言うと、コマツナは姿勢を正す。
訳分からない俺に、田島は小さく「本当ですか?」と呟いた。え、何が?
小声で勝手に話しておいて、本当もクソもあるか。でも、今にも泣きそうな田島を見ていると、何かを返さなければと自尊心に追いやられる。
――こういう時は。
「ふっ」
肯定も否定もしない。
おっと、狡いとか言うなよ? これで後に「肯定した」「否定した」と反論が出ても、俺はどっちに応答したつもりもないと言えるのだ。ずりぃな。
その応答をどう捉えたのかはわからないが、田島はショックを受けているのが目に見てわかる。
直後、田島はコマツナのスカートをくいくいと引っ張って耳打ちをした。
(わたし、負けませんから! 良い関係ってことは付き合ってませんよね? ならまだ、わたしにもチャンスがあるってことですよね?)
(へぇ……そういうタイプ)
バチバチと火花散らす二人を尻目に、俺は思う。
いがみ合う女の子よりも、一途に思い続ける女の子が最高に可愛くて天使なのだ――と。
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