第083号室 モアトリップ!




 深く重い霧に呑まれた夕暮れの団地、尼僧の意匠を取り込んだローブの下は水着なSRRサンズライズレア奪衣比丘尼ダツエビクニ、ソヒガラシヤが木製の長いオールで墓地を掘り返し、埋葬されていた腐乱死体を食人鬼グールとして再生する。


「良き死体ファンであれば、無駄口叩かず推しに貢ぐもの、三途の川の渡し賃くらい自分で稼いでください」


 揺蕩う濃霧に気配を隠し耐え難い渇きを癒すため、食人鬼グールの群れが住民達を捕食する様にガラシャは眼を細め口元を綻ばせ、食べ散らかされた死体を食人鬼グールと変えて団地へ送り出す。


 霧の奥に人影が浮かび上がり夕日に焼けた陽炎が霧と混ざり合って、茜と白の大理石マーブル模様を作り出し、アンシエントプライムレア封前の吸血姫オリジンヴァンプ、ソヒィーリヤの到来を告げる。


「ガラシャではないか。様子を見るに相当、眷属ファンを蓄えたと見える」

「ええ、ヒリヤ。貴女が走るゾンビを拵えるお陰で、食人鬼グールの中にも走る者が現れましたよ」


 辺りに消毒液の香りが漂い始め、Re:MRリ:メイクレア継ぎ接ぎ友達シャッフルナース、フランソヒィンが合流する。


「いいコトじゃない?その方が私の薬もより強い効果を望めるわ」

「やあ、フランか」「そうですか?」


 舞台演出用のレーザー照明に似た緑色の光が、霧に攪拌され陽炎に歪み、スペクトラムエフェクタレア幽世霊嬢ステルスドール、プラズムソヒィが宙に浮かび上がる。


「………おつで~す、空気読んで霊体化も足しておいたよ~………」

「やあ、ラズム」「そうなの?」「ん~それ、お薬の効果、潰されない?」


 プラズムソヒィの連れて来た死霊スペクターは各ソヒィの個性がぶつかり合って、長所を潰し合い見た目も甚だ醜悪な木偶の坊と化していた。


「我々の力は、ただ足せばいいというモノではありません。大事なのは心を合わせるコトです」

「やあ、ソヒア」「そうかしら?」「ま〜ね、切り替えてこーよ」「出来るかな〜………」


 冷んやりとした空気を運び、ヘヴィメランコリレアお手打ちお手伝いターミメード、シンソヒアが現れ木偶の坊をナイフとフォークで切っては貼って、調整を加えていく。


「物理を主軸に据えて、ゾンビの毒性とグールのタフネスをドーピングで底上げし、急所は霊体化させて隠す。あとは〜そうですねぇ………」


 夕日が沈み星々は雲に陰り、チラつく街灯が明度を落として不自然な仄暗さを団地に迎え、エンドレスエンディングレア城下人柱ネガティヴホロワ飛鼠逆ノ亡姫プリンセスソヒィが闇夜と共に訪れる。


「あとは城じゃ、豪奢な墓石の石垣、艶めく白骨の白壁、見目麗しく並ぶ瓦は髑髏しゃれこうべ。皮を鞣して御旗を掲げよ!髪を織り成し反物たんを飾れ!臼歯を磨いて庭に敷き詰めるのじゃ!今、我らに必要なのは兵隊フォロワーでは無く揺るぎの無い礎、圧倒的な力を示すためのライブ会場すて~~~じじゃあ………!」

「いいね、亡姫プリン!」「そうよねえ!」「アガって来たあ!」「ちょっとやる気出たかも………」「早速プランを整えましょう!」


「目指せ、医療崩壊!団地ドーム集客率200%!!トリップして逝くよぉおお!!!」

「「「「「「おぉおおおお!!!」」」」」」


「………お~!」


 盛り上がるソヒィ達の脇に、真っ赤なベルベットのコートに包まれた少女のゾンビがちゃっかり現れ、掛け声に遅れて参加すると全員の注意を奪った。


「やあ、え~と、誰だ!?」「そう、ね、私達とは別物よね?」「でもゾンビでしょ?」

「あ、ドォロミと言います~」


 まともに言葉を介し、ゾンビとしての枠を超えた知性を窺わせる相手にソヒィ達が困惑する。


「………沢山、亡者ファンを作ったんだもの、耐性持ちだって一人くらい………ね?」

「不気味です。もう一度殺しましょうか?」


 頭と胴を離せば問題も無くなると、ドォロミの首にソヒアがナイフを突き立てたところで、一人思案していた亡姫が待ったをかけた。


「いや折角、知性が残っているのじゃ。マネージャーでもやってもらおうか」

「ん、オッケー」


 ゾンビに噛まれようが、悪魔と契約しようが、霊に取り付かれようが、寄生生物に侵蝕されようが、ヴァンパイアのマネージャーにされたって、何処までもマイペースでガチな奴、団地攻略ガチ勢の不穏分子ゾンビっ子ドォロミは、こうしてソヒィ達のマネージャーになった。



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ビジュアルは近状ノートの方に載せております。

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