第5話これが私の武器

最終訓練。実に訓練を始めてから3ヶ月ほどたった頃だった。


訓練では、生きるために必要な知識、技を死ぬ気でみにつけた。

それもそのはず、だって、生きるために必要な知識、技がないと奴隷なんてものはすぐに死ぬ。


そして奴隷になるということは人間としての死である。


だからこそ、生きるために強くなる必要がある。奴隷であろうとなかろうと、強ければ死なない、弱ければ死ぬ。


それはアウラが1番わかっていた。


奴隷に革命を起こされて、国王の父は死んだ。

母は生きながらにして死んだ。

姫であった自分も師匠と出会うまで死んでいた。


もう、死にたくない。その一心で訓練を受け続け、最終訓練まで漕ぎ着けた。


「最終訓練は、俺を倒せ」

「はえ?倒すとは?」


倒す?殺すのだろうか。師匠を殺すのは出来たら避けたいところなんだが……。


「倒すって言っても殺す訳じゃない。ただ俺を参ったと言わせてくれ。その成り行きで俺を殺してもいい。ただ……」


師匠は一呼吸入れるとにぃっと笑って見せて高らかに言った。


「殺せるもんならな」


師匠は森の中をかけていく。速い。凄まじく速い。


「制限時間は今日1日!日が暮れるまでー!」


師匠の声が遠くから聞こえる。

アウラはその声のする方に向かってかけて行く。


師匠ほどとは言わないがアウラもなかなかのスピードで森をかける。

少なくともあの、生きながらにして死んだ頃と違ってアウラには生きる術がある。


全て使って師匠を倒す。

微かな音すら聴き逃さず、目に入ったものをよく分析し、ところどころにトラップを作ってみたりする。


なんでもいい。今は師匠の手がかりが欲しい。

すると前方に石が飛んでいくのが見える。

恐らく師匠のトラップよけのために石を投げたのだろう。


石の飛び初めの方に師匠はいる。

アウラは走った。

訓練のおかげで基礎体力はついている。


途中で作った簡易な弓で飛び初めの位置を狙って打つ。

ゆっくりと足音を消して近づくとそこには師匠はおろか、師匠の居た痕跡すらなかった。

足跡すらないのだ。


そしてそこにあったのはパチンコの容量で勝手に時間で石が飛ぶようになっていた誘導トラップだった。


恐らくずっと前に師匠はこのトラップを作り。足跡を消し今ははるか遠くで高みの見物といったところか。


してやられた。

アウラは思わず焦りが出てくる。


そして数時間。


一向に師匠を捕まえられず、もうすぐ夕暮れだ。

最終訓練は不合格かと思われた時、アウラはいちかバチかの行動に出る。


「師匠!そこにいるんでしょう?」


アウラは木の上に向かって声を掛ける。

それもアウラの目の前の木の。


返事はない。


「知ってますよ師匠」


そう言って目の前の木に矢を放つ。

矢と言ってもただ石を括りつけた棒を飛ばすだけの簡単な矢。

それでもさすがに木の上では逃げ場が少なかったようで。


「危ないぞ!弟子」

「やっぱりいたんですわね」


よっと、なんて言いながら師匠は木から降りてくる。しかし、矢は当然のように避けられていた。


「なんだ?諦めてはったりに出たか?」

「まあ、当たったんだしいいではありませんの」

「そうだけど……」

「師匠、お言葉ですが、はったりも列記とした戦法ですわよ。それにただのはったりではありませんわ。師匠ならこうするだろうとある程度確信のある答え合わせのはったりですわ」

「言うようになったねぇ。それならほいっ」


そう言って師匠は、剣を渡してきた。

訓練用だが当たれば切れる。


それぞれ剣を構える。


「容赦しないよ」

「こちらこそですわ!」


両者切かかる。剣と剣が合わさり、なんとも森の中には不自然な金属音が響く。


「反応速度上がった?」

「訓練のおかげですわ!」


アウラは師匠を蹴り飛ばす……はずだが上手くいなされてしまう。

逆にいなされた勢で完全に無防備な横っ腹に蹴りを入れられる。


勢で倒れてしまう。

しかしすぐに立ち上がると、下段、そして顔をに向かって剣を振り下ろす。


「おおぉ!危ない。弟子は格闘技と剣術を織り交ぜた戦いが上手いね」

「ありがとうごさいますっ!」


それでも師匠はいなし、的確に反撃を入れる。

さっきからカウンターをされてばかりだ。


アウラは今度は師匠の攻撃に合わせてカウンターを入れようとしたところで、それを読んでいたように師匠は、アウラの剣をを弾き飛ばした。


ドスっ。


剣が地面に刺さる。


その距離5メートル。

しかしその5メートルが命取り。

5メートルもあれば師匠は余裕でアウラにトドメをさせるだろう。


武術で戦うにしては相手のリーチの長い剣と相性が悪すぎる。

万事休すかと思われたその時、アウラに一つ打開策を見つける痛みがある。


切り傷。

何度も窮地を救った、唯一の希望。

そしてアウラ最大の最短武器。


「もう終わり?」


師匠であり、あまり自分と歳の変わらない少年はおどけたように言った。


「いいえ。あとひとつありますわ」


アウラが短剣を持つ。


その瞬間。師匠である少年の目付きが変わった。

否。アウラの目が変わったのを見て少年も変えざるおえなかった。


少年は感じた。

あの目は、本当に殺りに来ている目だ。

生きるために、それ以外全て捨てた目だ。

動物である本能の目。

生存本能。


アウラの殺気が今までおどけていた師匠を本気にさせた。


アウラは酷く落ち着いていた。嵐の前の静けさというのか、ここでもし、最終訓練に合格しなければ師匠に教えてもらったことが無駄になる。


いや、この世界で生きていけない。

そう、生きるために私は戦う。


そこからのアウラは人が変わったように静かに、速く、大胆に、師匠へ突っ込んで行った。


「速っ!」


師匠は思わず口に出す。

速い。今のアウラの攻撃は速かった。

短剣と剣では、リーチにおいて圧倒的に剣の有利。しかし、もしも、相手の間合いに入ってしまったら最後、小回りのきかなさで負ける。


そしてアウラは剣術と武術を自分なりに統合して使っている。

その分、剣より、小回りのきく短剣の方が使い勝手が良いのだろう。

何より型が読めない。


確実に師匠を追い詰める。

蹴り、殴り、切り、殴る。


打撃と斬撃で圧倒的にアウラが押す。

そして、


アウラが動きを止めた。


「参ったよ弟子。教えることは何も無い」


アウラの短剣は師匠の首すんでで止まっていた。


「ありがとうございましたわ」


アウラは丁寧なお辞儀をする。


「これからは、1人で頑張って生きていくんだぞ。それに、一人じゃなくても何とかみんなで助け合って生きていくんだ」

「なんですか師匠。まるでもうここに来ないみたいな……」

「さぁな」


その晩は疲れからかぐっすりと眠れた。

そして朝起きると師匠はいなかった。

代わりに手紙が残されていた。


──弟子よ。お前に教えることは無い。精一杯生きろ。そして生きるとはなんなのか探せ。ただ息をするのが生きるじゃない。人間として生きろ。生きるという答えは絶賛師匠も探している途中だ。あと、弟子よ。君の短剣と武術は君だけの武器だ──


それから師匠は顔を見せることはなかった。

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革命のせいで、姫から奴隷になったので、生きるために戦います。 @MARONN1387924

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