第4話訓練

「なら生きる術を教えてあげる」


少年はそう答えた。


アウラには意味がよくわからなかった。

生きる術とはなんなんだろうか。


それから少年は続けた。


「生きるためにはまず、そのパンと水を食べましょう」

「へ?」


アウラはまたまた意味が分からなくなった。

生きるためにはパンと水を食べる?


「ほら、食べるて止まってる。多分君、今食べないと死ぬよ」


そう言われてアウラはドキリとする。

これを食べないと死ぬ?


そう思った瞬間に、体が鉛のように重く、呼吸が難しく、頭がクラクラし、そして全身痛んだ。


「ほら、死んじゃうよ」


そう言われてアウラは持っていたパンと水を再び貪った。

食べ終わると少年は再び続ける。


「次は、寝ること!」

「は?」


またまたよく分からない。

そう言われて寝ることを意識すると、急に睡魔が襲ってきた。

頭がさっきとは違う意味でクラクラする。


そうしてアウラは眠ってしまった。


再び目が覚めると少年はいなかった。

しかし、アウラのそばには温かい毛布とパンと水が置いてあった。


きっと親切にしてくれたんだろう。

そしてその毛布には少し見覚えがあった。

とても高級そうないい毛布だ。


まるでお城の毛布みたいに。


パンと水を食べていると少年はやってきた。


「ごめんごめん。遅れちゃった」


アウラは目を丸くした。戻ってくるとは思えなかった。ここ数年で完全に人間不信気味のアウラはきっと少年はもう、戻ってくることはないと思っていたからだ。


「よし、じゃあ、今日から訓練!」

「訓練?」


アウラは首を傾げる。訓練と言われても何をするのか。


「まずは基礎体力作り!」

「はえ?」

「腕立て、腹筋、背筋、スクワットそれぞれ50」

「はええ??」

「はい!さっさとやる」

「え?はっははい」


わけも分からずに筋トレをさせられた。

アウラの体力はかなり落ちており、栄養失調気味だと言われた。


「君、失礼だけど、女の子の日とか来た?」

「はい???」


アウラはあまりにも失礼なのと、怒りと、困惑で感情がぐちゃぐちゃだ。


「なっなんでそんなことを」

「いや、確認」

「なんですか?」

「健康チェック」


あまりのも少年は真面目に言うのでアウラは仕方なく答えた。元々人権などない身。恥など捨てなくては。


「来ましたわ」

「そう。ならよかったよ」

「で、それがどうにかしましたの?」

「いや、来てなかったらちょっと怖かったんだよ。栄養失調気味だと体の至る所に不調が出る。そうなると女の子の日も来なくなる。これは体の異常だよ」

「そ、そうなんですの」


意外と少年は博学だった。ぼーっとしていると少年は


「ほら、訓練!」


そう言って無理やり筋トレをさせられた。

そして夕日の見えるほど基礎体力作りをさせられた後少年は聞いてきた。


「よし、今日は終わり」

「はあ、疲れましたわ」

「そういや思ってたけど君奴隷だよね?」


またまた失礼なことを聞いてくる。それでもアウラは答えた。


「奴隷ですわ」

「そう。なら、なんでそんなにお嬢様口調なんだい?」

「はい?」


今思えば、アウラはお嬢様口調が抜けてない。これだと色々めんどくさいことになる。

もし、元姫なんてバレれば、その時はきっと断頭台だ。


アウラは咄嗟に嘘をつく。


「仕えていた貴族に教えてもらいましたのよ」

「はぇー、いい貴族もいたもんだ」


あんなのいい貴族なんかじゃない。

人間のクズである。あれこそ奴隷より低い身分の人間クズ、ゴミである。


「まあ、まぁ。そんなところかしら」

「君はこっちの方がいい」

「はえ?」


またまた意味が分からない。不思議な少年だ。


「君、今嘘ついたね。まあ、それぞれ事情があるんだろうけど、お嬢様口調も変えなくていいと思う。きっと大切な人との思い出だろうから」


少年が言った様に、お嬢様口調は城にいた時の思い出だ。皆との大切で幸せな日々。


思い出せば涙が出てくる。まだ私は弱い。涙を流してしまうのだから。

アウラは泣きながら少年に尋ねた。


「どうして私を訓練するの?」

「君が強くなりたいと言ったから」

「でも私は涙を流すほど泣き虫の弱虫なのよ」


すると少年は呆れたように答えた。


「君はそれでいいんだよ」

「なんでですの?」

「涙を流すのは弱いからじゃない。強いからなんだよ。今の君の涙は強い涙なんだよ」

「……」

「それに、君は泣くくらいがちょうどいい」

「なぜですの?」


少年は微笑んでみせた。

「君は会った時生きていて死んでいたよ」

「……!」


その言葉に反応して涙がさらに出てくる。


「君は会った時、何もかも諦めたような表情をしていた。動くことも、喋ることも、生きることも。全て諦めていた」


アウラはただ泣いた。


「それは死んでいるのと何が違うの?全てを諦めることと死んでいることは同じだよ」


まだ涙は止まらない。


少年は一言ゆっくりとしかしどこか恐ろしいほどの説得力のある声で言った。


「人間として生きていたいのなら、かなり強くないといけなんだよ」


涙は止まった。


「わかりましたわ」

「そう。なら今日はおやすみ」


そう言って少年はアウラの瞼に手を重ねる。

自然と真っ暗になった視界はそのまま眠りへと誘っていく。


「おっきろー!」

「はえ?」


重たい瞼を擦りながら前を見るとそこには元気いっぱいの少年が立っていた。


「はい、朝ごはん」

「ありがとうございますわ」

「うん。いいってこと。それに今日から訓練は本格的になるよー」

「本格的?」

「そう。本格的」


それからは毎日訓練の日々が始まった。


ある日は基礎体力作り。

ある日は格闘技。

ある日は剣術。

ある日は馬を連れてきて乗馬。

ある日は薬学。

ある日は弓術。

ある日は毒について。

ある日は商業について。

ある日は山について。

ある日は海について。

ある日は野宿について。

料理について、サバイバル技術について……など


それは一般常識から、サバイバル技術、商業の常識、武術まで、幅広く、深く、学校のように教えてくれた。


そして何より凄いのが、馬や剣、弓に本などをわざわざ持ってきてまで、訓練することだ。

きっと家は相当なお金持ちなんだろう。


「おっ!結構慣れてきたね」

「師匠のおかげですわ」


ちなみに弟子と、師匠で呼びあっている。

それからは毎日師匠と訓練をする。

アウラには家がないため、サバイバル技術で教えてもらった洞穴に住んでいる。


「弟子よ。お前は強くなった」

「ありがたきお言葉ですわ」

「それでは最終訓練だ」

「わかりましたわ」


アウラはゴクリと唾を飲む。

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