第3話強くなります

奴隷になってからというもの、アウラは勿論まともな生活をしていない。


毎日終わらない雑用などの肉体労働。

食えたもんじゃない飯。


これならまだ死んだ方がマシだと思える。

そして奴隷になって3ヶ月ほど。


何とか隠し持っているあの、短剣を見てふと思う。


いっそ、この喉をかき切り、父上と同じところに行けば楽になるのではないかと。


短剣を持ち、震えながらも喉に当てる。

鋭い痛みが走る。


本当によく切れるのだ。喉に少し触れただけで切れる。首から少し血が出る。

そしてまた思う。


今日も死ねなかった。


死ぬのが怖い。でも、今の生活は生きているとも言えない。

生きていて死んでいる。


あの時母を見て思ったことだった。


それからは毎日そんな日が続いた。


死にたい。


死ねなかった。


死にたい。


死ねなかった。


死にたい。


死ねなかった。


死にたい……。


死ねない……。


毎日を生き地獄のように、生きていて死んでいる。


そして短剣を見てため息をつく。


そんな日さらにが続いた。


ぶたれ、蹴られ、人間としての尊厳すらなく、ただの道具の様に玩具の様に。


そして月日が流れ3年後。

アウラは12歳。


その日の夜大公公爵に風呂に入れと言われた。


珍しいことだった。言われた通りに風呂に入ると


「使え」


そう言って大公公爵は高級なジャンプーにボディソープといったものを渡してきた。


久しぶりの風呂に高級な洗剤。

生きていて良かったとアウラは思った。


ついに大公公爵が、良い奴になったのだとアウラははしゃいで喜んだ。


そして風呂から出ると、大公公爵はいい匂いの香水に綺麗な服と下着をくれた。


アウラは満面の笑みで喜んだ。

そして大公公爵の好感度がぐっと上がったを

久しぶりのドレスにいい匂いの香水。

下着も大人っぽくて、なんだかやっとこれで女になった気がする。


そう。女になったのだ。

アウラは12歳。女の子の日が来ることもたまにあった。その時だけは大公公爵も優しく接してくれた。


そしてその夜。大公公爵に呼ばれ部屋に行った。

そこには空いた酒瓶が転がっていて大公公爵はよっている様子だった。


「おいで、アウラ」


初めて大公公爵に名前で呼ばれた。

アウラは嬉しくて、ベッドの上に座る大公公爵の元に駆け寄った。


「これ、飲んでみなさい」


そう言って渡されたグラスには、明らかにアルコールの入ったお酒が入っている。


「お酒ですか?」

「いいからお飲み」

「わ、わかりました」


アウラはぐっと飲んだ。喉がやける。熱い。喉だけじゃなくて身体も。


「きゃっ」


大公公爵はアウラを座っていたベッドに押し倒した。

大公公爵の目は血走っていて、強い力でアウラを押さえつける。


必死にアウラは抵抗するが、大人の男性には敵わない。

大公公爵がアウラのドレスをめくり、内ももまでその大きな腕が這ってくる。


アウラは抵抗する。


「やめって……やめてくださいっ……!」


それでも大公公爵は止まらない。

大公公爵はズボンをおろし、モノを出す。

アウラは確信する。


今から汚される。


大公公爵はそのモノをアウラの口元に持っていく。そしてアウラにくわえさせようとしてくる。


もうダメだと思った。

あの時喉をかき切って死ねばよかったと思った。


その時鋭い痛みが走る。

スカートの中に隠しておいたあの短剣が、アウラが暴れたことによって、アウラの太ももを軽く、浅く、切った。


それでも十分だった。

その痛みがアウラを覚醒させた。


アウラは大公公爵のモノを噛んだ。


「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


痛みに悶える大公公爵。その隙に近くにあった花瓶で大公公爵の頭を殴った。


今までで考えられないほどの力が出た。

それでも大公公爵は死ななかった。

そして、アウラはあの短剣をもつ。


悶えて倒れている大公公爵に刃先を向ける。


そして一刺し……とは行かなかった。

アウラはまだ弱かった。

大公公爵にトドメをさせなかった。


それでも逃げるには十分な時間だった。

アウラは皮肉のように、王族であった頃に教えこまれたスカートの裾をちょこんと上げて、丁寧なお辞儀をして、瓶に入っていた酒を口に含んで、口をすすいだ。


あの短剣で、スカートの裾を切り裂きあの時出来なかったことをする。



アウラは走る。

遠くに。


アウラは走る。

自由に。


アウラは走る。

夜明けまで。


アウラは走る。

朝日が昇る。


アウラは倒れる。

この世界の夜明けを見て。


目が覚めると、朝まで全力で走ったせいか、体力はもうなく、正直いって逃げ出せたわ良いものの体力切れでもう、死にそうだった。


それでもアウラは満足した。

生きていて死んでいるより、死んでもなお生きていたと実感する方が良かった。


どうせ死ぬのだから喉をかき切って死のうと思った。

それでも手は動かない。


短剣を握る気力さえなかった。

アウラはゆっくりと目を閉じる。

最後に夜明けを見れて良かったと思う。


父上今逝きます。

母上どうかお元気で。


そしてアウラは目を閉じた。


そして再び開くはずのない目が開く。

そこには1人の男の子が立っている。


「あなたは……」

「俺?通りすがりの一般人」


そう言って少年は持っていた水とパンをアウラに渡した。


アウラは貪った。短剣を握る気力さえなかったのに、パンと水があれば底なしの力が出てくる。


アウラはわけも分からず口にした。


「私は強くなりたい」


少年は答えた。


「そう。なら生きる術を教えてあげる」

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