第2話まだ弱い
アウラが拘束され、3日ほど地下牢で閉じ込められたあと、一人の男が牢に降りてきた。
「来い!」
姫であるアウラに命令をする。
それもそうだ。アウラはもう、姫ではない。
ただの雑草なのだ。
言われた通りに牢を出る。そして階段をあがり久しぶりの外を見ると、そこにはたくさんの人で溢れかえった場所がある。
そこの中央には気で作ったどだいのようなものがあり、よく見ると母が手足を拘束され、立っている。
「母上!」
今まで3日声を出してはいないと思うほど大きな声がでる。
しかしすぐに、男たちに取り押さえられる。
「黙らんか!小娘風情が!」
それでもアウラは暴れる。しかし大人の男に勝てるはずもなく頭を地面に押さえつけられた。
「顔を上げろ!」
そう言われゆっくりと顔をあげればアウラは唖然とし、言葉ひとつ出てこない。
父。国王ペルキオ・ノワエは断頭台に首をはめていた。
ある男が堂々と宣言する。
「私は!この革命を起こしたリーダーであるヴィクトゥル・ノーレスである!」
この革命を起こした張本人が出てきてペルキオに向かって言う。
「私は奴隷だ!奴隷には人間として生きることすら許されず、平民は貴族からの税の重圧と圧政によって満足に食事もできず、準男爵や、男爵は貴族であるのにも関わらず大きな差別を受ける!」
そんなこと知ったことかとアウラは思った。
「そんな不満が国民の心をひとつにし、この革命を成し遂げた!皆、大いに感謝する!」
うるさい。うるさい。うるさい。
「そしてこの革命によって、私はこの国の国王となり、この国をよりいいものに変えると約束しよう」
何を言っている奴隷風情が、お前に国王が務まるか。
「そして今!この革命を国王の処刑によって完了させる!!」
アウラは冷や汗をかく。父が目の前で処刑?ふざけるな!父は何をしたというのか。無能な貴族共が各地で圧政を強いていただけではないか。父は関係ない。いつも民のことを考え、そして働いてきた。
なのにどうして父が!
「父上が何をしたというのだ!父上は……国王は……!なにか悪い事をしたのか?……無能な貴族共が勝手に圧政をしていただけではないか!!」
叫んだ。アウラは叫んだ。ガヤガヤとしていた広場が静まり返る。
そして、ヴィクトゥルという男がアウラに向かっていった。
「何をしただと?私はとある貴族のせいで家も、財も、名誉もそして人間としての意味さえ失った!勝手に貴族が圧政?そんなもの国王の監督不行届だ!言い訳にしかならん!それに……」
男はアウラにだけ聞こえる声で言った。
「必要悪だったんだよ……」
アウラは泣いた。声もなく。ただ涙を流す。
母の方を見れば母は随分と乱暴されたようで生気も正気も失いぐったりしている。
父は断頭台でただ、涙を流すことすらなくまっすぐに前を見ている。
「これより前国王ペルキオ・ノワエを死刑に処す!」
やめて……やめて……やめてよ……お願いします……
男が手を下ろす。
それを合図に後ろで剣を構えた男が断頭台の紐を切る。
思わず目を閉じる。
断頭台の刃が落ちる。
そして目を開ければ父の首が転がっていた。
それからはアウラとアステラは、王位継承権、地位、財、名誉など全て没収され、母は貴族に売られて行った。
母は売られるまでも随分と乱暴をされたようで身体中をアザだらけにし、涙すら流せず、声もなく、目が虚ろになって、女としての尊厳を全て無くしていた。
アウラは思った。あれは生きていて死んでいると。
そしてその3日後アウラの競りが行われた。
もう、アウラは姫でも、女の子でも、人間でもない。
貴族に売られるというのはそういう事だ。
きっと自分は奴隷になるのだろう。
何奴隷か。
肉体労働を永遠死ぬまでさせ続けるのだろうか。それとも男共に人形のように遊ばれるのだろうか。もしかしたら痛めつけられ毎日拷問のような日々を過ごし朽ちていくのかもしれない。
アウラ9歳にしてこの世の厳しさと弱者には生きることすら許されないことを知る。
「ほら、立て!」
昨日降ったであろう雨のせいであちらこちらに水たまりができている。それでもたくさんの貴族共がアウラを見ていた。
木の土台に上がっていくと顔なじみの貴族達もちらほら見えた。
少しだけアウラは期待した。助けてくれるのではないかと。光がさした。
それでも……
「この、元姫、純潔の9歳!150万ペーク (1ペークは日本円で1円) から!」
「300万!」
初めに大きく声を上げたのは顔なじみの貴族だった。
アウラは膝から崩れそうになった。
やはり、この世界では、アウラなどはただの雑草なのだとよく思った。
立場が変われば人の態度は変わる。
姫でもなんでもなければ、今のアウラなどただのいい買い物なのだと。
「350万!」
「400万!」
「俺は500万!」
どんどんと値段が上がる。奴隷の値段が上がるということはそれだけ価値があるということだ。しかし、勿論嬉しい価値ではない。
皆、アウラを買うために必死だ。そしてその目には子供がいい玩具を見つけて欲しがるような目をしつつも、そんな純粋な目でもなかった。
そう、玩具なのだ。アウラは玩具。
最初から人としての価値では無い。道具として、玩具としての価値。もう、そこには人権などない。
最終的にアウラは1200万で買われた。
その日のうちに契約が成立して、大公公爵のレントゥス大公公爵に買われた。
「ほら!行け!」
そう言われ、大公公爵の前に突き出される。
「行くぞ!雑草」
大公公爵に雑草と言われた。
アウラという名前ですら呼んでもらえなかった。その通りだ。私は雑草だ。お似合いの名だと思った。
もう、感情なんてない。父の首を、母の死んだ顔をそして、水たまりに映る自分のなんとも情けのない顔を見て、完全に心が壊れていた。
大公公爵の家に着くと、
「掃除」
そう一言言われた。何をするのか分からずたっていると右頬をぶたれた。
「掃除だよ!掃除!つかねぇな雑草」
そう言われ雑巾を投げつけられた。ボロボロの雑巾だ。ところどころ破れている。
アウラは言われた通りに掃除をした。ボロボロ雑巾を使って隅々まで拭いた。
すると公爵に言われた
「そんなボロボロの雑巾で拭けば家が汚れるではないか!」
そう言われまた、頬をぶたれた。
その後アウラには寝床と飯が与えられた。
そう、与えられた。家畜と同価値の生活である。
汚い寝床。屋根と藁が少し敷いてある豚小屋のような寝床。
大公公爵の食べ残しやらのまずいなんなのかも分からない飯。
汚い服。汚い髪。真っ赤に腫れた頬。ハエがたかる。
それでもアウラは生きた。
一つだけ没収されずたまたま残ったものを希望にして。
短剣。そう、あの短剣。
いつかこの剣でこの世からあの憎き貴族どもを殺し、いつか自分が復習を果たす。
そう、強くなって。
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