4.

少し歩くと、人気もなく、家も見えなくなった。すごく山道で、果たして三十分でたどり着くのかと心配になった。少し歩いたところで私はいつも通り弱音を吐くことになる。


「もう歩けぬ。」

「えー、理香子が歩けるって言ったからなのに。」


少し先でしゃがんで写真を撮っていた杏が立ち上がって、ほら見たことかといつもの少し困ったような笑顔で見ている。


「だって、絶対三十分以上かかるよ、これ。」


私はしゃがみ込んで固まる。


「まだ歩き始めて十分も経ってないじゃん。」

「えー、体感、三十分をこえた。」

「ほら、行くよ。」


と言うと杏はどんどん歩き始めてしまったので、私もしょうがなく立ち上がって、後ろからノロノロと追いかけ始めた。正直言ってめちゃくちゃ暑いけど、やっぱり不思議と蒸し暑くなくて快適かもしれない。足取りは依然として重いけれど、少し気持ちが軽くなった。見渡すと、山も海も美しい。私は普段、写真は撮らないけれど、こんな私でもスマートフォンを片手に、写真を撮っていた。山道は最初辛いけれど、登り始めるとなんだか徐々に楽になってきて、不思議な感じだった。


「理香子!なんかあそこに建物がある!」


何もない山道だったそこに建物が現れて、急な登場にびっくりした。


「ほんとだ。」


杏が走って建物の方へ遠ざかっていく。その後ろ姿を見て、私は嫌な予感がした。なんだか、門が閉じているような気がする。そう思ってトロトロ歩いていると、杏が頭を垂れて戻ってきた。


「理香子、残念なお知らせなんだけど。」

「閉まっておったか。」

「うむ。」


私たちは二人、島の山の上で人のいない美術館を眺めながら、なんだか急に声をあげて笑い出してしまった。暑いし、疲れたし、でも、なんだか清々しい気分になった。


「戻ろう。」


杏から差し出された手を自分の意思で握った。こんな外で手を繋いだのは久しぶりだった。


「そうだね。」

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